第3話 アタック!ボウリング!

 カッコーン!

 カラーン!

 俺はヒサト。サンフレ工業の営業課に勤める社会人三年生。

 今、ボウリング場にいる。なぜかというと…。

「えーいっ!」

 パコン!

「ミヤコちゃん、さっきよりピンが一本多く倒れたね!」

「スコアは3かあ。もっと頑張らなきゃ。」

 なぜか、このタクミとミヤコのボウリングデートの巻き添えをくらっているからだ(―“―)

 しかも今日は金曜日のアフターファイブ。いくらタクミは俺の親友、ミヤコは会社の同僚だから三人でよくつるむからと言っても、納得がいかん。思わず顔文字を入れて不満を表す俺の気持ち、わかってもらえただろうか。

 自分の番が来た俺は投げる前にボールを磨き、その間に二人に素朴な疑問をぶつけた。

「なあ、なんで誘ったんだ?俺、デートの邪魔じゃね?」

「あらあ、だって、二人だとすぐに順番が来て疲れるけど、三人だと自分の番がくる時間がちょうどいい感覚なのよ。」

 俺は時間調整要員かよっ!こめかみをひくつかせてると、タクミが続けてきた。

「ミヤコちゃん、今度のボウリング大会の個人優勝目指しているというし、練習は少しでも多くしたいからね。個人部門の優勝景品『高級ホテルのペアディナー券』、いいよねえ。」

「自腹じゃ行けないものねえ。」

「やっぱ高級ホテルだからドレスコードあるかな、ミヤコちゃんの盛装はスリットの入った大人なドレスか、フリルが多いワンピースか、どちらも似合いそうだなあ。」

「もぅ、気が早いわよ、タクミ君。」

「てへへ。」

 夢の世界へ行っている二人バカップルの代わりに説明すると、ボウリング大会というのはわが社、つまり俺とミヤコの会社のサンフレ工業で開かれる部署別対抗のボウリング大会だ。

 なんでも創業以来続いてる大会とかで、景品も豪華なこともあり、平成も後期に差し掛かった今でも若手にも人気が高い。

 しかも部署別対抗の団体戦だけではなく、男女別の個人賞もあり、それぞれ景品があるのも人気の一因だろう。つまり、賞品をもらえるチャンスはたくさんあるのだ。

 しかし、さっきからガーターや2とか3とか悲惨なスコアしか出してないのに優勝ねえ…。で、おもいっきり時間調整に利用されてるしっ!

 俺のひきつり顔が露骨に現れてたのだろう、タクミは相変わらずの天然さで言った。

「まあまあ、ミヤコちゃんから景品一覧表見せてもらったけど、タクミが欲しがってた「シン・ドル」のDSソフトもあるじゃないか。」

 ハッ!そうだ!確かに今度発売予定のアイドル育成ゲーム「シンデレラアイドル」略して『シン・ドル』の最新ソフト「きらきらファンタジープリンセス編」の予約券プラス商品券があった!俺の推しのリリカちゃんの新作の衣装姿と新曲@DS版は見たい!聞きたい!

 俺はどうにかモチベーションを持ち直し、ボールを投げた。

「カァーン!」

 よし、ストライク。リリカちゃんのためならばこのくらい朝飯前だ。

「ってかさあ、『シン・ドル』って『死んどる』に繋がるから不吉な略称じゃない?自分は女だからアイドルゲームわかんないけど。」

「僕も男だけど、ミヤコちゃんはそこらのアイドルよりかわいいから、あのゲームはわかんないよ。」

「やだぁ、タクミ君ったらあ。」

 …この二人バカップルにはいろんな意味で殺意を覚える。まあ、いい。俺のリリカちゃんの魅力はこのボンクラな二人にはわかるまい。

 俺が席に戻り座った瞬間、不意に後ろから声がした。

「ああら、営業課の人達も精が出ますこと。っていうか、営業課ってこんなに暇なんですか。」

 振り向かなくてもわかる、この声は庶務課の自称お嬢様のエリコだ。

「あら、エリコさんお疲れ様です。退社間際に庶務課をみたら皆さん確か月末の締めでお忙しそうでしたが?エリコさん仕事早いのですね。」

 ミヤコが天然か、わざとかわからん応酬をする。なんか不穏な空気が漂う。

「そりゃ、仕事を早く片付け、来るべき大会に備えるのは当然ですわ。女子個人部門の賞品、ディナー券は私のものにしますわよ。」

 ミヤコの応酬をかわしつつ、エリコはさりげなく宣戦布告をしてくる。多分、さっきのタクミとミヤコの会話を聞いていたのだろう。

「あれ?ペアチケットなのに、行く相手いるんですかぁ?」

「私が誰と行こうと自由じゃないですか。って言うか、勝手におひとり様認定なさらないでくださる?」

 うわ、火花が激しくなってきた。さすがのタクミも空気を感じ取って、俺に事情を尋ねてきた。

「ヒサト、あの女、なんなんだ?」

「庶務課のエリコという同期だ。ミヤコが先に彼氏が出来たことに対抗心を燃やしているっぽい。」

「あ~、そりゃまためんどくさい。」

「だろ?」

 こそこそ話している間にも、火花は散らし続けていたようだ。

「そんなことを言うのなら今、この場で勝負よ!大会の前哨戦と行きましょう!」

「望むところよ!」

 なんでこうなるんだ。俺はため息つきながら、タクミとのこそこそ話は続く。

「ヒサト、なんかめんどくさい事になったな。」

「俺達、蚊帳の外?」

「とりあえず俺はミヤコちゃんを応援するよ。」

「まあ、彼氏としては当然だよなあ。俺はどっちかにつくとややこしいから、中立にするわ。」

 若干、醒めた雰囲気の俺達の応援の元、かくして、勝負が始まった。

「えーい!」

『ゴトン、ゴロゴロゴロ…ポコン。』

 ミヤコのスコア、2。

「行きますわよ!」

『ゴロゴロ、コン!』

 エリコのスコア、3。

 ずっとこんな調子で低レベルのスコアが続いている。

 そうこうしていると、庶務課の他の面々が合流してきた。俺達に軽く挨拶した後、隣のレーンに庶務課の女子が四人ほど入ってきた。

『カンッ!ゴロゴロ、カァーンッ!』

 俺達のレーンとは桁違いのスピード感と軽快なストライクの音が響く。

「ヒサト、隣の女性、すごくね?」

「あれは、庶務課のリツコさん。大会でも上位の常連。名前も同じとあって、プロボウラーリツコさんの再来と言われてる。」

「ヒサト、お前いくつだ?」

「戸籍は改ざんしてねーからな。しかし、まあ、これは…。」

 ポコン。

 ゴ~ロゴ~ロ………、ポン。

 ガーッ!カァーン!

 こうやって擬音を書くだけでもレベルが違い過ぎる。

「やりますわね、ミヤコさんっ!」

「エリコさんこそっ!」

 ゴロゴロ……………ポコン。

 内容の悲惨さはともかく、本人達は熱く本気で勝負を続けてる。

「これって、ミヤコ達の勝負は意味あんのか?ってか、あいつら優勝を本気で目指してんの?」

「俺はミヤコちゃんがかわいいから、それでいいや。」

「タクミ、恋は盲目って言葉があってだな。」

 ふう、結局は二人バカップルの世界を見せられただけか。リツコさんが今年も優勝かな。ま、俺はシン・ドルが手に入れば…。不意に隣の会話が聞こえてきた。

「さすが、リツコさんですね。やっぱりディナー券狙いですか?」

「ううん、今年はゲームソフト。息子が欲しがっていてね。アイドルモノらしいんだけど。」

 何ぃ?リツコさんがシン・ドル狙い?!俺のライバルはリツコさんとは!

「タクミ、休憩は終わりだ。」

「え?おい、ヒサトどうしたんだよ。」

「どえええ~い!」

 カァーン!カァーン!カァーン!

 火事場の馬鹿力というべきかターキーが出た。いつの間にかミヤコ達も俺のプレイに見ている。

「なんですの、あれ。」

「…ヲタクの馬鹿力って奴よ。」

 負けられない、負けられない、リリカちゃんの新曲は絶対に手に入れてやるんだぁ~!

『グキッ』

 猛烈に嫌な音がした。これは…魔女の一撃ってやつだ。そのまま俺は倒れこむ。


 それからの騒ぎは書きたくはないが、俺はボウリング大会は欠席。ディナー券はリツコさんが獲得したが、ゲームソフト当てた人と交換したらしい。

「って、話よ。残念ねえ。」

「ミヤコちゃんはブービー賞で500円のクオカードだったよ。さすがミヤコちゃんだねえ。」

「…お前ら、見舞いに来たのか、ノロケに来たのか、傷口広げに来たのかハッキリしやがれ。」

 俺は部屋のベッドで安静のため、動けないながらも毒づいた。

「そうそう、エリコさんからお見舞い預かってきた。何かわからないけど責任感じてるみたい。」

 エリコから?俺は包みを開けてみた。

「あ、シン・ドルのきらきらファンタジープリンセス編…。」

「もしかしたら、ヒサト君狙われてんじゃない?」

「良かったなあ、ヒサト。三次元の彼女できんじゃね?」

 …とりあえず俺は彼女はリリカちゃんでいい。めまいを覚えつつ、寝返りを打つのであった。

「うぎゃあ~!」

「ギックリ腰で寝返りって、自殺行為じゃない?」

「ヒサトはMなんだよ。」

 お、お前ら…。








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