44 家族の肖像4
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夕餉が終わると、はしゃぎすぎて疲れたコリンシアは早々に寝室に向かった。今夜はオリガが傍に仕え、扉の外ではルークと彼の部下が交代で見張ることになっている。ちなみにティムも宿舎ではなく客室が用意されている。
「私も姫様についていようかな」
姫君におやすみなさいの挨拶を済ませると、つれないことを言う妻を宥めながらアスターは用意されている客間に向かう。2人きりになり、気を使う必要もなくなったために彼女は不機嫌さを隠そうともせず、アスターの手を振り切って客間に足を入れた。
「え……何?」
部屋の真ん中に布を掛けた
「どうぞ、奥様」
おどけた口調で促すと彼女は絵の前に立つと震える手で覆いの布を外した。中から出てきたのは女性の肖像画だった。
「お母様……」
その絵はジェラルドが描いたマリーリアの母親の肖像画だった。彼女が亡くなった後に描かれたらしいその絵は、保管庫の最奥に厳重に梱包された状態で保管されていた。彼の渾身の作品は無き恋人への愛情が込められており、まるで恋文のようにも見える。
だが、当時の状況でこの絵が他人に見られるのは非常に危険だった。そのために容易には見つからぬようにあのアトリエに隠されていたのだろう。それでも今際にグスタフがあのアトリエの事をマリーリアに伝えたという事は、彼がこの絵の存在に気付いていた可能性もある。今となってはもう確認しようがないが……。
「持ってきて……もらったの?」
「ああ。ずっと気になっていたんだろう?」
「ありがとう……」
婚礼の後、蜜月で3日間過ごした間に彼らは離宮を調べ、偶然この絵を見付けていた。本当はその折に持ち帰ろうと思ったのだが、本宮はともかくワールウェイドの城も公邸もマリーリアの母親にとっていい思い出など一つもないに違いない。そんな所へ連れて行くのを躊躇われたマリーリアは離宮の管理人に他の絵共々保存をお願いして帰ってきていた。
その後、内乱が平定され、懸念だったエドワルドの家族も帰ってきた。もう10日もすればエドワルドが即位して新しい治世が始まる。平和な世の中になったのを見てもらうのもいいのではないかとも思えるようになり、ワールウェイドの城に新しく作った私的な居間に飾ろうと2人で決めたのだ。その際にはジェラルドの肖像画も一緒に飾ろうと、現在画家に依頼して制作中だった。
「お気に召していただけましたか?」
アスターの問いにマリーリアは涙をこらえて頷いた。すると、アスターは彼女の前に跪く。
「今朝の事は許していただけますか?」
「……仕方ないわね」
マリーリアは許しを請う夫を睨みつけるが、その目は笑っていた。「もうしないでよ」と付け加えると、仲直りの口づけを交わした。
湖に張り出した露台に涼やかな風が通り抜けていく。夏の暮れ行く湖の中で2頭の飛竜がじゃれあっているのをアスターとマリーリアは並んで腰かけて眺めていた。
「あれから2年経つのね」
「そうだな」
エドワルドの即位の翌年、少しだけ時間的余裕が出来たワールウェイド公夫妻は領内の視察に訪れていた。そして自分たちの為だけの時間を捻出し、ルバーブ村にある思い出の山荘に来ていた。
以前、ここに滞在していたのは2年前、内乱の真最中だった。先行きが全く分からない状態の頃で、平和になった今から思うと、何だか感慨深いものがある。
「ねえ、冬にはまた雛に会えるわね」
「そうだな」
2人の視線の先にはじゃれあう飛竜の
飛竜の繁殖間隔は2年から3年。この分なら、順当にいけばこの冬にはまた雛が誕生するだろう。前回同様、冬の殺伐とした討伐期に雛竜の存在は皆の癒しとなるだろう。
「でも、今回は立ち合えないかもしれないわ」
「どうして?」
アスターは不思議そうに妻を見返す。いくら護衛の仕事を任されているとは言っても、あの国主夫妻ならばそのくらいは融通させてもらえるはずだ。
「私達の赤ちゃんもそれくらいの予定だからよ」
「え?」
帰ってきた妻の言葉にアスターの表情が固まる。
「本当に?」
マリーリアが頷くと、アスターは彼女をきつく抱きしめる。そして自分の膝の上に抱き上げると、恐る恐る彼女の腹に手を当てた。
「ありがとう、マリー」
互いに不遇な幼少期を過ごした為に、温かい家庭というものを知らない。そんな自分達が親になっても大丈夫だろうかと常に不安があった。しかし、内乱の後始末とエドワルドの即位式が終わり、2人はようやく自分たちの未来を考えられるようになった。
子供は欲しい。だが、不安がある。そんな2人の葛藤を優しく受け止め、そして後押ししてくれたのが国主夫妻だった。一家と一緒に過ごすうちに彼らが理想の家族像だと気付くと、何だか今まで悩んでいたのが嘘のように肩の力が抜けた。
今まで使用していた避妊薬を止めたのは春分節が過ぎてからだった。そして早速顕れた結果にアスターは感無量だった。
「赤ちゃんも、飛竜達もいつか描いてもらってあの部屋に飾りたいわ」
「それもいいな」
頼んでいたジェラルドの絵も完成したので、先日、城の居間にマリーリアの母親の絵と一緒に飾ることが出来た。彼等だけでなく、従兄のリカルドの一家も見守る中、壁に2枚の絵がかけられた。
今の彼女の望みはあの部屋に家族の絵をたくさん飾りたいというささやかなもの。アスターもそれに賛同し、それならばいつか2人の絵も描いてもらおうと話していた。ここにこれから産まれてくる子供達や飛竜達の絵が加われば賑やかになるだろう。きっと不遇な生涯を閉じた彼女の両親も喜んでくれるに違いない。
気が付くと辺りは既に暗くなっており、一通りの求愛行動を終えた2頭はどこかへ飛び立っていった。どこかにお気にいりの場所があるのだろう。こうなると2頭は朝まで帰ってこない。
夏とはいえ山の中では夜は冷える。アスターは妻を抱いたまま立ち上がった。
「冷やすといけないから中に入ろう」
「あ、歩けるわよ?」
マリーリアは狼狽えるが、少々暴れたところで夫はびくともしない。しっかりとした足取りで建物の中へと入っていく。
「2人だけなんだから恥ずかしがることはないだろう?」
「そうなんだけど……」
すっかりおなじみとなった賑やかなやりとりが続く。それは場所を寝室に移してからも続き、夜遅くまで2人は他愛もない言い合いを楽しんでいた。
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と、いう訳で意地っ張り夫婦のお話でした。
ちなみに、マリーリアは後になってこっそりアスターの母親の絵も取り寄せて飾り、アスターを驚かせます。
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