25 罪と罰4
「国主代行となられたエドワルド殿下の命により、ワールウェイド領は当面国が管理する事となりました。私が総督に任命されましたので、
リカルドが手勢をもってワールウェイド城を制圧したのは昨年の秋だった。それまでワールウェイド家の婿として有していた全ての権限をはく奪され、ニクラスはその身の自由を奪われた。
グスタフの死亡と同時に判明したその所業は悪辣極まりなく、ニクラスは保身を図るためにリカルドに協力し、どうにか極刑だけは免れた。グスタフの娘婿となっていた2人の義弟同様、妻とは離縁してワールウェイドの名を捨て、子供達は引き取るのが条件となっていた。
「この子まで連れて行かないでおくれ!」
皇都郊外の別荘で謹慎を免じられていた姑は、一番かわいがっているマルグレーテを手放そうとはしなかった。妻と義妹達にも懇願され、仕方なしに娘は置いていくことにした。
他家から来た義弟達と違い、ニクラスはワールウェイド家の分家の出身だった。グスタフと深く結びついていた為に、実家は取り潰しとなってしまったため、彼は僅かに与えられた土地を耕して生活していくことになる。贅沢な暮らしになれている娘に田舎暮らしは酷かもしれない。それならば幽閉されていた方がまだましだろうと考えたのだ。
そして新生活が始まってすぐに冬となった。蓄えなどない彼は近くの神殿に身を寄せ、同じく避難してきた領民の子供達に簡単な読み書きや計算を教えて過ごしていた。
やがて春分節が過ぎ、畑仕事に精を出しているところへベルク準賢者の使いがきた。
「城代を勤めておられた貴方様を
にこやかに話しかけて来るが、
「それで、わたしにどうしろと?」
「私共はゲオルグ殿下が国主に相応しいと考えております。ニクラス様には亡きグスタフ様に代わって宰相として補佐して頂きたいと思っております」
「無理だろう」
ニクラスは端的に答える。田舎にいるために伝わってくる情報は限られているが、それでもベルクの使いが言っているほど甘い状況ではないのは知っている。何しろこのワールウェイド領の田舎でも、領民のエドワルドに対する信頼は絶大だった。
「ここだけの話ですが、奴はラグラスに訴えられていて、もうじき審理を受けることになっている。ベルク準賢者様が仕切ることとなっているので、奴の有罪は確定している」
使いが得意げに教えてくれたが、それでもニクラスの心が動くことは無かった。城代として準賢者に会ったことはあるが、彼から受ける印象は神官とは程遠いものだった。言っては悪いが、まるで自分の利益しか考えていないようなのだ。元舅は対等に付き合えていたようだが、彼ほど政治的手腕に優れていない自分では、ゲオルグ共々、
「今の生活が気に入っている。放っておいてもらえないだろうか?」
「ですが、奥様やお嬢様が……」
ニクラスの返答が意外だったのか、使いは慌てて思い止まらせようとする。
「今は何とも思っていない。かえって清々している。悪いが他を当たってくれ」
畑仕事をしているおかげで腕っ節も鍛えられている。居座ろうとする使いを強引に追い出してお帰り願った。
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