4 不可解な遭難者4
「コリン様、我が盟友ファルクレインが姫様にご挨拶したいと申しております。お会いしていただけますでしょうか?」
気が利く副官のアスターは、コリンシアをこの場から外させた方がいいと判断し、自分の飛竜をだしに小さな姫君を外へと誘う。叱られてしょんぼりしていた彼女もこの申し出に目を輝かせる。
「行く!」
二つ返事で答えると、今度はアスターの手を引っ張るようにして戸口に向かう。
「それでは失礼いたします」
アスターは丁寧にお辞儀をすると、コリンシアと仲良く手をつないで部屋を後にした。
「彼はなかなか
よくできた副官はグロリアも大のお気に入りで、目を細めて2人を見送る。
「我ながらいい人選をしたと思います」
エドワルドとアスターは乳兄弟だった。彼の実家の身分はそれほど高くなかったのだが、彼の誠実さと騎士能力の高さを評価して自分の副官に抜擢していた。今では第3騎士団になくてはならない存在となっている。
「ところで、あの娘から話を聞けましたか?」
落ち着いたところでオルティスが3人分のお茶とお菓子を用意してくれる。甘みの少ないものを選んで口に運びつつ、エドワルドがグロリアに尋ねる。
「よほど怖い目にあったのでしょう。ひどく
グロリアは沈痛な面持ちで語りだす。
「おまけに視力も失っておる。そうであろう?リューグナー」
「はい。そちらに関しましては詳しく検査をしないとわかりませんが、この度の事故によるものではなく、過去に
リューグナーは席に着こうとはせず、立ったまま淡々と答える。
「なるほど……記憶は戻るだろうか?」
「こればかりは何とも……」
「ずっとこのままということもあり得るわけか……」
エドワルドがポツリとつぶやくと、部屋の中に重苦しい空気が漂う。
「どうしたものか……」
この日何度目かのつぶやきに、以外にもグロリアが助け舟を出す。
「もし、そなたの言うとおり、あの娘の身内に竜騎士がいればそれなりの教育と礼儀作法を身に付けているはず。妾の話し相手が務まるやもしれぬ。そうであれば、身元がわかるまでここにおいてもかまわぬ」
意外な申し出にエドワルドは目を丸くする。
「よろしいのですか?」
「妾が満足すればじゃ」
条件は厳しいが、それでもどこにも行くあての無い、若い娘を放り出さずに済む。エドワルドは大叔母に感謝して頭を下げる。
「ありがとうございます」
問題は山積みだが、当面の心配はなくなった。エドワルドはあの娘を最後まで守ろうとした、あの小竜の気持ちに応えてやりたいと思っていたので、これで少し肩の荷がおりた気分だった。
「その代わり、きちんと様子を見に参れ。コリンもじゃがほったらかしにしてはならぬ。良いな?」
グロリアはさすがに痛いところを突いてくる。エドワルドは苦笑しながら頭を下げるしかない。
「わかっております」
そこへ廊下を駆けてくるあわただしい足音が聞こえる。
「失礼いたします」
入ってきたのは片腕にコリンシアを抱いたアスターだった。
「どうした?」
「昨日の湖畔の南に妖魔が出たと知らせが来ました」
床に降ろされたコリンシアは嬉しそうに父親に寄って来るが、遊んでいる場合ではない。
「わかった、すぐに支度する」
エドワルドは一度抱きしめると、娘の頭をなでる。
「また来るからな」
小さな姫君がコクンとうなずくと、エドワルドは急いで部屋に戻って群青の装束に身を包む。防寒用の外套の裾をなびかせて外に出ると、彼の相棒とも言うべき飛竜グランシアードが彼を待っていた。
「行くぞ」
ひらりと飛竜にまたがると、エドワルドはすぐにグランシアードを飛び立たせる。それにアスターのファルクレインが続き、2頭の飛竜は小雪がちらつくどんよりとした空の向こうへ消えていく。
その姿を居間の窓からグロリアとコリンシアが並んで見送っていた。持病のあるグロリアは、この時期外に出る事が出来ず、こうしてここから無事を祈るしかない。
「そなたの父上は、あのようにして妖魔の襲撃から民を守っている。わかるな?」
父親が行ってしまい、コリンシアは泣き出しそうだった。グロリアは優しく彼女を抱き寄せて頭をなでる。この小さなやんちゃ姫の事をグロリアは愛していた。だからこそ、こうして忙しい父親の代わりにコリンシアの面倒を見ていた。
「……はい、おばば様」
2人は飛竜の姿が見えなくなっても、しばらくの間雪のちらつく空を見続けたのだった。
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今回、話が短かったので、30日12時にも更新します。
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