第7話「竜殺しの依頼」
「竜を、殺せ……ですか……それがどういう事か、理解していますか?」
ダインが口にした言葉を、強く噛み締めながらフィーヤは問い返す。
「神聖竜との盟約か?」
ぶっきら棒に答えたダインの返事に、フィーヤはコクリと頷いて返事を返す。
ドワーフ達の国――フロストアンヴィルは、マイクリクス王国建国に少なからず関わっている。それが、このドワーフ達の王国と人間の王国との交流の基盤となっている。そして、フロストアンヴィルにも、その時のマイクリクス王国と同様に、神聖竜との盟約があると言われ、その加護の恩恵からか、
故にドワーフ達もマイクリクス王国同様に――いや、人間の倍近い寿命を持ち、伝統を重んじるドワーフ達は、人間以上に竜を神聖視していたはずだ。
「ふん。そんな実態の無いものを有難がっているわけにはいかなくなったんだよ。竜を殺さなければ、俺達は生き残れない。だから殺す。それだけだ」
ドワーフはそうきっぱりと答えを返す。そこに、迷いや畏怖などの色は見られなかった。故に、本気だと見て取れる。
「なぜ、そこまでして……竜を殺さなければならないのですか?」
相手の望は何となくだが理解した。けれど、なぜそれを成さねばならないのか、それが分からない。
そもそも、ドワーフ達が口にする『竜』とは、何を指すものなのかも、今のところ判断が付かない。
竜などここ何十年もまともな目撃証言さえなかった存在。つい先日の
そんな竜への認識は、ドワーフ達も同じはず。それなのに、ドワーフは『竜』とはっきり口にした。その事に強い違和感を覚える。
本当に竜と言う存在に悩まされているのだろうか? そうであるなら、なぜ竜とドワーフが対立しているのか?
多くの事柄が錯そうする。
しばらく待ってから、ドワーフはフィーヤの言葉に返事を返した。
「それについては、今すぐは答えられない」
「それは、なぜですか?」
「国の内情に関わる事柄だ。友好国とはいえ、他国にそれを詳しく話すわけにはいかない」
「それで、要求が受け入れられると思っているのですか?」
「もちろん。簡単に通るとは思っていない。だが、今は何も聞かず要求を呑んでくれるとありがたい」
険しい顔をしたままドワーフは答える。
「こちらの貴重な人材を貸し出すのです。そんな不透明な内容では、申し訳ありませんが受け入れる事は出来ません」
「そうか……」
返答を返すと、ダインは困ったような表情を浮かべ、頭は掻く。それから腕を組み、しばらく考えこむと、大きく息を吐いた。
「分かった。すべてを話す。だから――」
「ダイン!」
ダインがそう告げると、それに驚いたディアスが割って入る。
「止めるなディアス」
「ダメだ。その事を話す事は許可されていない。あなたは王国を危険に晒すつもりですか!?」
「今更何を言う。こちらの事を話せないって言っている時点で、もう殆ど状況が透けている。無理に隠したって状況が良くなるわけじゃ無い。なら、一か八かすべて話した方が良い」
「だか、これは王命だぞ」
「すべてがどうにかなっちまうかもしれないって時なんだ。打てる手はすべて打っておきたい。それで処罰されるって言うんなら、俺が責任を取る」
「だが……」
ダインに強く押されると、ディアスは押し黙る。
「悪いな。変な所を見せてしまった」
「いえ。お構いなく……。
それで、話していただけるのですね」
「ああ。すべて話す。だがその前に、一つ頼みを聞いてほしい」
「なんでしょう」
「『竜殺し』と会わせてほしい。俺達の命運を託す相手がどんな奴か見ておきたい」
* * *
フィーヤに呼ばれていると聞き、衛兵に連れられながらアーネストは、ラドセンス砦の一室へと入る。
「騎士アーネストをお連れしました」
部屋に入ると、案内してくれた騎士が、背筋を伸ばし、そう告げる。
「ご苦労様です。下がってください」
「は!」
フィーヤが労いの言葉を返すと、衛兵は一礼して、退室していく。アーネストはそれを見送った。
改めて、部屋の中へと目を向ける。
来客を出迎えるための最低限の装飾が施された部屋。そこには、アーネストを呼び出したフィーヤと、それから見覚えのない人の姿が二つあった。
子供と見まがう様な背の高さに、それでいて大の大人でも見ないような、太く逞しい手足と身体。そして極み付けは、長髪の髪の毛なのかと思えてしまう様な長さで、丁寧に結わえられた髭。ドワーフと呼ばれる亜人種の姿がそこに有った。
(ドワーフがなぜここに?)
疑問と驚きが浮かぶ。
マイクリクス王国は、ドワーフ達の王国と接しており、友好を結んでいる。そう聞くと、王国内にドワーフの姿が比較的多く見られそうに思われるが、ドワーフは排他的で有り、ほとんど国から出る事はない。そのため、王国に住んでいる者でも、ドワーフを見た事がある人間は殆どおらず、アーネストもその姿を見たのは初めてだった。
「まずは紹介からですね。こちらが、『竜殺し』のアーネスト・オーウェルです」
フィーヤが立ち上がり、そうアーネストを紹介する。
『竜殺し』。そう紹介したフィーヤの言葉に、アーネストは驚く。
「ほう。貴様が……」
紹介を聞いたドワーフ達は、感心した様な言葉を漏らし、アーネストの姿を隅から隅まで確認する様に視線を這わせる。
「あの、すみません。『竜殺し』って、何のことですか?」
いきなり告げられた紹介。その紹介の内容に困惑し、その事を小声でフィーヤに尋ねる。
「すみません。嫌かもしれませんが、先日の貴方の活躍は、『竜殺し』の噂として、外では広まっているみたいなのです。そして、彼等は、そんな『竜殺し』の貴方を頼りに尋ねてきたようなのです」
フィーヤに告げられた真実に、アーネストは再び困惑する。
『竜殺し』。アーネストは、確かに竜――竜族である飛竜を殺した。人間一人だけでは絶対に勝てないと言われてきた相手。それをたった一人で打倒した。それは、『竜殺し』と言われるにふさわしい活躍かも知れない。けれど、その事実は、アーネストの胸を深くえぐる事実だった。
そして、その名を自分ではないフィーヤから告げられた事が、さらに重く圧し掛かった。
「紹介感謝する。俺は、フロストアンヴィル第二編団長ダイン・グレンデールだ。あっちは、部下のディアス・ファラング。
『竜殺し』。お会いできて光栄です」
罪意識に暮れるアーネストの心中を察することなく、ドワーフはそう自己紹介すると共に、握手を求め大きな手を差し出してくる。
「ありがとうございます」
半ば上の空で、アーネストはダインと名乗ったドワーフの手を取り握手を返す。
「それで、『竜殺し』。あなたに頼みがある」
「頼み?」
「ああ。竜を、殺してほしい」
「!」
何となく、フィーヤがアーネストを『竜殺し』と紹介したときから予想していた言葉が告げられ。ほどく動揺する。
「なぜ、竜を殺さなければならないのですか?」
竜を殺す。それは、アーネストが望んできたことの真逆の事柄だ。仕方なった。そう言い訳しながら、前回は戦った。けれど、その結果と、戦場に残された飛竜の亡骸を見て、居た堪れない想いにかられた。もう、飛竜などの竜族とは戦いたくない。そう、強く今は思う。
だから、ドワーフの口にした言葉は受け入れたくなかった。
「決まっている。竜が俺達に牙を向いた。俺達は竜を倒さなければ生きていない。だから、殺す。そのためにあなたの力を借りたい」
「なぜ、そのような事に……何かの間違いじゃないのですか?」
「間違い……か。あなたも、神聖竜との盟約とやらを信じているのか? 『竜殺し』」
鋭い瞳を向け、ダインは問い返してきた。
「事実として、マイクリクス王国もフロストアンヴィルも、神聖竜との盟約――飛竜と地竜の恩恵を受け、成り立ってきた国です。そんな事――」
「事実として、俺達は竜に襲われた。もう何人もの仲間が竜に殺されている。そんな現実を目の前にして、盟約だなんだって信じられるか? 何の効力もない過去の伝承など、今の俺達には必要はない」
強く反論が返され、アーネストは言葉を詰まらせる。
『人間はすべて殺す。出来る事ならな、すべてな!』
前にハルヴァラストが口にした怒りの言葉が思い出される。竜は人に怒りの感情を抱いていた。なら、同じような社会を築くドワーフ達に対して同じように、同じような怒りを抱いてもおかしくはない。
ハルヴァラストはまだ人を襲う事はしなかった。けれど、別の誰かだったら、どうなっていたか分からない。
そして、神聖竜との盟約。飛竜や地竜とのあり方は、少なからずこの盟約を基盤としていると言われている。けれど、フェミルによればそれは嘘であり、フィーヤからは存在の確証はないと言われた。なら、竜が人に、ドワーフに、怒りから牙を向けたとしてもおかしくはないのかもしれない。
「竜を殺してくれ」
再度、ダインは問いかけてくる。アーネストはその言葉に小さく恐怖を覚え身体を震わせる。
答えに迷い、視線を彷徨わせると、ダインとアーネストの間に、割って入る影があった。
「そう強く、要求を押し付けないでください。あなた方の要求をの飲むかどうかは、詳しく話を聞いてからだったはずです。まずは、それからです」
フィーヤは柔らかく諭すように、そう遮る。それに、ダインは軽く肩を竦める。
「そうだったな。すまない。少し焦っていたようだ。まずは、こちらの状況を話そう」
どかりと椅子に腰を降ろし、ダインはそれから口を開いた。
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