第18話「反逆の狼煙」
日が地平線の果てに沈み始め、辺りは薄い闇に閉ざされ始める。
『グオオオォォ!』
遠くから飛竜の方向が響く。藍色の空に飛竜の黒い影が舞い上がる。一体、また一体と舞い上がり、それらの飛竜が交互に咆哮を上げ、威嚇するかのように、辺りへ呼びかけるかの様に咆哮を上げる。
それらに呼応し、辺りから別の飛竜の咆哮が上がり、それに合わせ角笛の様な鳴り物の音が響く。
空を舞う飛竜達の下、薄闇に閉ざされたごつごつと岩肌の上に、小さな二足歩行の蜥蜴――コボルドの影がいくつも見える。コボルド立ちは戦装束と言う様な鎧を着こみ、各々槍や弓などの武器を手にし、集団の中の何体かが角笛を吹き、空を舞う飛竜に何か合図を飛ばしていた。
戦が始まる。そう思わせるような光景だった。
「やっと動き出したか……」
ぞろぞろと集団を形成し動き始める飛竜と、コボルド達を遠くから見つめる視線が有った。
飛竜とコボルド達から遠く離れた山の斜面の上、黒いローブにフードを目深く被った者達の一団、その中の一人が望遠鏡を飛竜とコボルド達の方へ向け、覗き込みながらそう呟いた。
「ようやくですか、ずいぶんと時間がかかりましたね」
望遠鏡を覗くローブの男とは別のローブの男が、そう声をかける。
「人と共存する種であるなら、それだけの忍耐が必要だったという事かもな。もしくは、神聖竜との盟約によるものか……」
望遠鏡を手にした男は答えを返すと共に小さく歯ぎしりをする。それに、尋ねたローブの男は小さく笑う。
「神聖竜との盟約。そんなもの、偽りの神話じゃありませんでしたか?」
「だが、それを信じる者は多くいる。それは、竜族でも同じなのかもしれない」
「笑えませんね」
もう一人のローブの男もまた小さく怒りを滲ませたような声で答える。
「ああ、だからこそ我らが彼等すべてに教えねばならない。世界の真実を――真の竜の支配者が誰なのかを――」
望遠鏡を手にしたローブの男は、望遠鏡から目を外し立ち上がる。そして、藍色の空に浮かぶ小さな飛竜の影に目を向ける。
『グルルルゥ』
小さく喉を鳴らす音が響く。それは、ローブの男の傍ら、それからローブ姿の一団の背後から響いた。
音の主は飛竜とよく似た姿の竜族――
「これは小さな火種でしかないだろう。だがいずれ大きく燃え広がり、強大な炎となるだろう。そして、人は知るだろう。
神聖竜レンディアス。彼の竜が偽りの存在であり、竜を支配する力などない事を……そして、真の竜の支配者が誰であるかを――」
「「我らが主、竜帝の元に栄光を!」」
ローブの男の最後の言葉に、他のローブ姿の者達の声が重なる。
それを合図にしたのかのように、藍色の空に浮かぶ飛竜達が一斉に咆哮を上げ、地上のコボルド達が鬨の声を上げると共に角笛を鳴らす。
そして、飛竜とコボルド達は一斉に山を下り始め、進軍を開始したのだった。
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