第2話 おかんと俺と異世界転移
すべての始まりは一年前。
俺は当時就活の真っ最中で、その日もとある企業の面接が予定されていた。
「大雨でもないし、駅まで歩くからいいって!」
「せやかて大事な面接に濡れたスーツで行くのも困るやろ?
今日くらいおかあちゃんに甘えとき!」
車で送ると言ってきかないおかんに根負けして、しぶしぶ軽自動車の助手席に乗り込んだ。
駅まで車でおよそ5分。
馴染みのルートを走る、そのほんのわずかな時間に信じられないことが起こったのだ。
T字路から飛び出してきたトラックがおかんの軽自動車に衝突し、俺たちはガードレールを突き破った車ごと川に転落した。
はずが――
気がつけば、俺はリクルートスーツに革靴、おかんは虎の顔面プリントのトレーナーにヒョウ柄のスパッツといういで立ちのまま、異世界に飛ばされていた。
何が何やらわからないまま歩いていると、突然モンスターに襲われた。
牛のような、ゴリラのような、とにかくデカくて狂暴な奴に食われると思ったその時、俺たちを助けてくれたのがエリカだったのだ。
クエストを遂行して村に戻る途中だというエリカに同行することになった俺たちだったが、歩いて三日もかかる村に辿り着くまで食糧難に苦しんだ。
それを乗り切れたのは、おかんのサバイバル能力のおかげだ。
「このモンスター、肉質が鶏肉みたいやで。しっかり火ぃ通せばきっと食えるはずや!」
「こいつは色からしてあかんやつや。ええ香りさしとるけど、絶対毒キノコやで!」
異世界の住人であるエリカですら食べたことがないというモンスターや植物を、おかんはその昔「自分探しの旅 in ブラジルの熱帯雨林」で磨き上げた野生の勘で選別し、最適なアウトドア料理法とマッチングさせ、美味なる逸品として昇華させた。
エリカの村に着くと、俺たちはおかんが開発した新食材による創作料理を村人に教示したことで手厚い歓迎を受け、不自由なく暮らすことができた。
しかしながら、現実世界に戻ることは難しいと悟り、村長から勇者の素養ありと認められた俺が隣町の勇者養成所に通い始めた頃――
「やっぱし、
洗濯物も相当溜め込んどるやろうし、コンビニ弁当やカップ麺ばっか食べとるに違いないで」
突然おかんは立ち上がると、村の魔導師とエリカを連れて森へ戻り、俺たちが飛ばされた地点の辺りを探索した。
そしてついに見つけたのだ。
異世界と現世界をつなぐ時空の歪みを――
その時には、おかんの頭の中にはすでにあるビジネスモデルが浮かんでいたらしい。
それを知らなかった俺は、現実世界に戻れることに小躍りして喜び、エリカとの別れを寂しく思いつつも元の世界で無事就職を決めたのだった。
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