第7話 大祭
春の月の第七日。
それが神さまの日。
わたしがはじめて巫女になる日。
その日がだんだん近づいてくる。
今日から数えてちょうどあと半月。
神殿に仕えてからこんなに短い時間で例祭を司ることはほとんどないんだって。
でも、先代の巫女さんが、突然神さまの国へと行ってしまったから。
神殿には、儀式を執り行える人は今わたししかいない。
神の拠り代となって、預言を人々に伝える役目を担えるのはわたししかいない。
だから、後半月でしっかり大祭を執り行えるようがんばらなくちゃいけない。
今のところうまくいっている、と思う。
「巫女さま、昨日はどうされたんですか?」
「昨日はなんだか……夢の話をしてたの」
「夢?」
「うん、わたしの見る夢がね、神さまのお告げなんじゃあないかって、大神官さんが言っていてね。それで、そのことについてお話してたの」
「どんな夢だったんですか?」
「それはね……」
リコはわたしが話す夢を熱心に聴いている。
「とっても素敵な夢です。神憑きの儀をしなくても神様の声が聞こえるなんて……すごいです」
「……神さまの声なのかな……? わたしはただ……夢を見ているだけなんだって思ってた」
「いえいえ、絶対神様の言葉ですよ。神に見初められた巫女さまだからこそ、そんな夢が見られるんです」
リコが褒めてくれるとわたしもうれしい。
おばあさんは、だれだれがほめていたよ、という褒め方をするけど、リコは直接わたしを褒めてくれる。
本気でうれしがってくれている。
だからわたしもうれしくなる。
リコがこんなに言ってくれるってことは……、わたしの見る夢は、ほんとに神さまが見せているってことなのかなあ?
神官たちの前で演説の練習をする日。
昨日、プロフェテスの前で話すことのおさらいをしたからだいじょうぶだと思う。
たくさんの人の前で話したことなんて無いけど……。
「こんにちは」
…………あれ?
神殿の中で時たますれ違うお偉いさんはあいさつを返してくれない。
それどころか、こちらを見ようともしてくれないように感じる。
あいさつをしてくれないのはきっと、わたしがまだまだ巫女として未熟だから。
言葉だってちゃんとしゃべれてないし、例祭の儀式だってまだ一度も経験してない。
大神官さんやリコはほめてくれる。
今までの巫女の中でもうまくやっている、と言ってくれる。
それでも、まだわたしは大祭で成功したことは一度も無い。
ほんとうにわたしが神の拠り代として、預言を上手く伝えられるのか。
人々が大勢集まる大祭で、期待に答え、尊敬にかなうように儀式を執り行うことが出来るのか。
それが心配。
それに……、わたしはあの儀式場で起きたことが何もわからなかったのに……。
成功と言われても、いまいち自信が持てないよ。
もう一度同じことが出来るのかな……。
あの時はたまたま上手くいったのかもしれないし。
不安はのこる。
大祭で、人々の尊敬と喝采を浴びていた先代の巫女が、今のわたしと結びつかない。
村にいた時は、褒めてもらえることなんてほとんどなかったから。
…………。
考えが止まったところで、丁度部屋に着く。
あまり深く考えずに、部屋に入ると、人がもうたくさんいる…………。
誰もいないと思ってたのに。
空気が硬い。
みんながわたしの方をじっと見てる。
みんなの目線が見えない力でわたしを押して来て、じりじりと、喉や心臓を締め付ける。
どうしよう。誰の方を向いてはなせば良いのかな……。
目をきょろきょろしてしまう。
なんだかみんな冷たい目をしている……。
あ……、何かしゃべらないと……。
えっとなにをしゃべるんだっけ……。
「高き木の枝に……」
あれ……ちがう……。
いきなし言うんじゃなくて……最初はあいさつだった。
不機嫌そうにしていた神官が、わたしから目をそむける。
あ……あれ、どうしよう。
でも、まだちゃんと見てくれてる人もいる。
「あの……わたしは……」
えーっと……何代目なんだっけ。
「百四十二代目のピューティアです……」
合ってるのかな……。
みんなの顔を見てもそれはわからない。
全然違う、と言っているようにも見えるし、いいから早く次をしゃべれと言っているようにも見える。
………………。
だめ……。言葉が頭から出てこない。
結局、あのあともどもったり、言葉を間違えたりしてしまった。
人に見られてると、こんなに違うんだ。
たくさんの神官は顔をしかめて怒っていたけれども、大神官のおじいさんはわたしをなだめてくれた。
「ふむ……、少し緊張したかい?」
「えっと……、うん」
「徐々に慣れていくしか無いかのう……」
「人に見られてると……なんだか、空気がわたしの体の中に入っていく気がして……息が苦しくなって、体の中を重い水で満たしていくようなそんな感じになるの」
「そうか……、目隠しでもしてみるかの?」
「目隠し?」
「そうすればひと目を気にせず話せるじゃろう?」
「うーん」
「とりあえず一度試しにやってみんかね?」
「目隠ししなくても……ちょっと離れてくれれば大丈夫。みんな近くて目を感じてしまうの」
「目を感じる……。大丈夫じゃろう」
「みんな待たせてすまなかったの。もう一度彼女がやってみるので、見てやってくれんか」
わたしはもういっかいさっきの部屋に来た。
さっきはみんなわたしの周りを囲んでたけど、今は部屋の端っこにいる。
目は感じない。
大丈夫。
「わ、わたしは百四十二代目のピューティアです。
浄福なるレトの子よ。
大地の中心にて預言をお告げになる神よ。
今こそ、あなたの御言葉を伝えましょう」
…………やった。
上手くいったかな……。
何も聞こえない……。
神官さんたちがどんな顔をしているかはとおくてわからない。
……近づいてくるおじいさんは明るい顔をしている。
「すごいじゃないか。さっきとは見違えるようだ」
大神官さんの褒め言葉。
他の神官さんも近づいてくる。
さっきとは違う顔。
岩みたいな硬さは消えている。
「これなら大祭の日も上手くいくだろう」
良かった……。
最初はどうなることかと思ったけど。
うまくいきそう……。
大祭四日前。
ごはんをおなかいっぱい食べられるのも今日で最後。
明日からは大祭が始まるまで、三日、何も食べてはいけないと言われている。
今まで三日もの間ごはんをたべなかったことなんて無いので、どういうことか想像も付かない。
おなかが減って気が変になったりしないかな。
とりあえず今日はおなかがはちきれそうになるくらいまでごはんを食べる。
動くのもつらいくらい。これで三日持ってくれるかな。
次の日、朝ごはんを食べてしばらくすると、禁所に近い部屋に案内された。
ここでじっとしてろって。
なんだか退屈。
部屋の中には窓が無い。
けれども、小さな穴から少しずつ光が入ってきている。
まるで深い森の中にいるよう。
部屋の真ん中には真上に穴が開いていて、ちょうど太陽が見える。
太陽の、強い光に目がくらんでしまう。
目をつむっても、太陽の光がまぶたの裏に焼き付いて、丸く残ってる。
太陽の光は元気をくれるけど、強烈な力を持っているから直接見ると、その力に目が耐えられなくなってしまう。
じっと目をつむっていると、やがて太陽の光の跡から、小さな光の粒が稚魚のようにうねうねと散っていって、ちりぢりになって消えてしまった。
…………。
この部屋は、隙間があちらこちらにあるから、風が入ってきて涼しい。
それに意外と広い。
少し歩き回ってみようと思うのだけれど、動くとお腹がすいてしまうんじゃないかと思って、すぐ足を止めて、その場にうずくまる。
よく見ると、地面には織物のような模様が彫られている。
この模様をじっとながめていれば退屈せずにすむんじゃないだろうか。
それにながめているだけならつかれないでいられそう。
同じようなかたちが繰り返されているのかと思うけれどもそうでもない。
5、6本くらいの線が横にならんでいて、それが時折不規則に曲がる。
そういう線のたばは、河のようにも見えた。
線はひとつの方向に向かってあつまっているみたいで、流れを追ってみると、それは部屋のまんなかの方へと集まっている。
真ん中には丸がふたつ。深く青く光っている。
そこの見えない吸い込まれそうな深い青。
わからない。
でもなんだか、じっと見ていたくなるような、引き込まれてしまいそうな力がある。
丸にしては、妙に眼という感じがする丸。
青い円にすっとかげりが出来て、はっとする。
少し光が弱くなってきた。
もう日が暮れるかな?
どのくらいの間ながめていたんだろう。
夕方になってくるとちょっとおなかが空いてくる。
何か食べたい。
うーん、でも何も食べるなって言われているし、そもそもこの部屋からは出られそうにない。
そもそもわたしがどこから入ってきたのかもよく覚えていない。
薄暗いので周囲の景色もあまり見えない。
じわじわと光が薄くなっていくのが面白い。
…………。
ついに真っ暗になった。
なんにも見えない。
………………。
これじゃあ何にもできない。
寝てしまおう。
寝台はどこだっけ……。
しまった、これじゃあ寝台がどこにあるのかわからない。
手探りで探さないと……。
よつんばいになって歩くと、朝ずっと見てた地面の模様が手でなぞるようだけでわかる。
この模様はなんだろう……? 今までに多分見たことが無い。
朝になったら見てみたいな。でもどうすればわかるかな。
そうだ。髪飾りをここにおいて置こう。
明日になったらめじるしになってると思う。
そうだ、寝台を探さないと……。
起きる。
結局寝台は見つからずに、地べたにねてしまった。
光が少し入っている。もう朝になったのかな。
お昼かもしれない。
昨日おなかが空いていたのに、今はあんまり空いていない。
代わりに頭が空っぽになったかのような感覚。
でも、やっぱりなにか食べたい。
何か食べるもの……。
ない……。この部屋には何もモノがない。
外に出ないと。とびらはどこだろう。
うーん。ちょっとでっぱりがある壁がある。あそこかな……?
押しても、引いてもすこしも動かない。
やっぱし外には出られないか。
出てもおこられるに決まってるよね。
やっぱし部屋でおとなしくしていよう。
お腹が空いていると、何か他のことをしようという気も起きなくなる。
寝ようかな……。
寝台に横たわる。
…………。
目が覚める。
まだ辺りは明るい。日は沈んでいないのかな。
寝て起きると、お腹のすいたのが逆に気にならなくなってくる。
頭がぼーっとしている。
いつもの水汲み場で顔を洗って、水をちろちろ飲む。
はぁ……。
なんだか自分がほんとに起きているのかわからない感じ。
体はぴくりとも動かないし、頭は何も考えられない。
でも心はすっきりしている。
静かにそよめく風がここちいい。
ふぅ……。
自然と体が寝台に倒れる。
……。
「…………さま。…………巫女さま」
……りこりす? どうしてここに……?
「入ってきちゃ……まずいよ。まだ……、断食が……」
「何言っているんですか巫女さま。もう三日目ですよ。断食の儀はこれで終わりです」
(……?)
終わり……?
そう。もう終わりなんだ……。
「ぁ……」
リコリスに何か言葉を返そうと思うけど、上手く口から出てこない。
出たかどうかもよくわからない。んとはしゃべれているのかもしれない。
「……ください」
…………?
今なんて言ったんだろう。
口元に硬いものが押し当てられる感じ。
歯に当たってちょっとびっくりする。
「ごっ、ごめんなさいっ」
なぜか謝る声が聞こえる。
もう一度口にそれがあてがわれる。
甘い……。
何か飲み物……?
おいしい……。
「……通り飲ませたらもう少し休ませた方が……ね」
声が頭の中を透き通っていく。
何を言っていたかはよくわからないし、もう忘れてしまった。
目が覚める。ここはどこだろう……。
小屋の中かな……?
「おきましたか?」
リコがにっこりと微笑んでくれる。
「食事は居間に用意してあります。さぞかしお腹がすいておいででしょう」
すぐに寝室を出て、居間に向かう。
ふぅ、美味しい……。
いつも食べてるごはんがこんなにおいしいなんて。
夢中で食べ続ける。
少し、お腹が満たされてきた頃に、まわりを見まわしてみるけれども、
リコはいない。
……どこかへ行っちゃったのかな?
そういえばお礼を言っていない。
仕方が無いので、後回しにしよう。
ふぅ……。お腹いっぱい。
あれだけ沢山あったのに全部食べてしまった。
まぁ……、三日も何も食べていなかったのだから。
ふと横を見るとリコがにこにこしながらたっている。
「あ、リコ。ごはん……、ありがとう」
「いえいえ、たくさん食べていただいてうれしいです」
と、にこにこしながら言う。
他の人はほめてくれる時でも、むすっとしているからうまくよろこべないけど……。
リコと大神官のおじいさんはちゃんとわらってくれるから、わたしもうれしくなる。
「巫女さまが元気そうでよかったです」
「巫女様じゃなくて、ピトで良いよ」
「そ……そんな、名前で呼ぶなんておそれおおいです」
「うーん。じゃあ、ピト様は?」
リコは、はっとしたような顔をすると、うつむいたまま……
「ピトさま……? ピトさまぴとさま……」
とぶつぶつ名前を何度もとなえている。
なんだかかわいらしい
ぬっ、とおばあさんが現れる。
「おや、元気そうだね。てっきりぶっ倒れていると思ってたがのう」
「だいじょうぶ」
おばあさんはいつもずばずばものを言う。
最初はびっくりしたけどもう慣れたのか、何も感じない。
「そうかい。でも、今日は休んだ方が良い。明日の夜には神憑きの儀が行われるんだからね」
「うん、わかった」
次の日の夜、神憑きの儀を行う時。
あのじめじめとした、いやなにおいのする場所にもどらないといけない。
いやな場所。いやな場所のはずなのに不思議と恋しい。
神さまを感じられる場所だから。
わたしが神さまに必要とされているか、確かめられる場所だから。
「入るが良い」
扉が開かれる。
鼻を突くにおいが一気に体に入ってくる。
やっぱりこのにおいは慣れない。
あたまがくらくらしてくる。
だめ……。
立っていられない。
ひざをついてしまう。
あっ……。
服が汚れちゃう……。
…………。
光が見える……。
その光は目をつぶっていても見えていて……。
大祭での儀式は大成功だったらしく、神殿中の人たちがわたしを褒めてくれる。
でも、わたしはあの場所でなにがあったのか全然おぼえていない。
最初にやった時の方がまだ少し覚えていた気がする。
小屋に戻ると、おばあさんが
「あんたの巫女としての才能は歴代の中でも抜きん出ているって評判だよ」
と言う。
……そういわれてもピンと来ない。
歴代……?
「おばあさんは、いつからここにいるの?」
おばあさんの口元はゆっくりと半月を描く。
「さあ、そりゃあずっと昔からさ。そうさねぇ、調度あの子くらいの年からだよ」
あの子……?
「リコリスのこと?」
おばあさんは目を見開く。
「おや、名前を知っているのかい。そうそう、あの子じゃよ」
名前を知っているのがおどろくことなのかな……?
「わしは、あの子くらいの年からずっと巫女の世話をしとった。夜はぐっすり眠って明日への活力をつけなければいかんのじゃ」
神の儀式……。
あれを何度もやらないといけないとすると、どれだけ疲れるかなんて想像もつかない。
「おばあさんは、今まで何人の巫女の世話をしてきたの?」
突然それまで考えていたこととは違う質問が口から出てくる。
「何人……? さぁ……、何人じゃったかのう。10は超えておると思うがのう……、よく分からんわい」
そんなにたくさん……。
「その間いろいろな人を見てきたわい。神殿に勤めている神官と言っても、全員が神さまを信じているわけじゃあない」
「おばあさんはリコリスのおばあさんなの?」
「ん、ああ……そうじゃよ」
おばあさんは急に目を逸らしてそう言う。
「リコリスのお母さんは……?」
「ああ……、彼女が幼い時に亡くなったよ」
「どんな人だったの?」
「………………」
おばあさんは黙る。
どうしたんだろ……?
「おとなしい子じゃったよ……あの娘に似てな」
しばらくすると、おばあさんはそう言った。
でも、あんまししゃべりたくなさそうな口ぶり……。
翌日。
今日は預言の内容を、まちのひとたちに伝えないといけないとかで、またあの高台に立って話をしなくちゃいけないみたい。
昨日、わたしが神憑きの儀の中でしゃべったことを神官の人が、にんげんにわかる言葉に解釈してくれるみたい。
その言葉を、わたしがみんなの前で話さなくちゃいけない。
そのやり方とかだんどりだとかを一日でできるようにしないといけないからたいへん。
朝ごはんを食べ終わると、神官らしき人がわたしをむかえにくる。
神殿から望める街には人が沢山ごったがえしている。
どうしてこんなに沢山人が集まるのか不思議。
神殿にやって来る前は、自分がやってくる側の人だった。
その頃は何とも思ってなくて、ただ毎年時期が来た時に、この街に集まるようにしていた。
何も考えず、ただそういうものだと思っていた。
だのに、自分が人を集める側に回った途端不思議に思えてくる。
なんでだろ……。
…………。
考えてもわからない。じぶんがやらないといけないことをかんがえよう。
ざわめきが聞こえる。今日は高台で、みんなに言葉を語りかけないといけない。
いつも見ていたあの光景、今度は見られる側になるの。
「さぁ、巫女様、こちらへ」
神官が手を向けるその方向に歩き出す。
ざわめきが大きくなる。
それまでばらばらの方向に飛んでいた声が、一直線にまとまってわたしの方に飛んできた。
体の中から湧き上がる高まりがあふれだしそう。
でも、心は胸にどっしりと落ち着いている。
みんなに迎えられている感じがうれしくて自然とほほえみを作ってしまう。
ゆっくりと手を振ってみる。
歓声はさらに大きく。
すごい。
村にいた時はこんなことは絶対に考えられない。
村のみんなが今のわたしを見ても、わたしだと思ってくれないんだろうなぁ。
わたしですら、じぶんがじぶんじゃないみたいだし。
ふと神官の人たちがこっちを見ていることに気付く。
そうだ……。
何かしゃべらなきゃ。
「あ……、こほん」
軽くせきばらいをする。
「みなさん……、ごきげんよう」
一言一言の間に、少し間を置いて話すように何度も言われている。
言われたとおりに少し間を置いて、話をはじめる。
「浄福なるレトの子は、大地の中心デルフォイにて、信託をお告げになりました。カスタリアの、聖なる泉で身を清め、神殿の聖所で神の霊を身に宿したわたしの言葉は神の言葉。今こそ我らが神の御言葉を伝えましょう。
……たかき樹の枝にかかり、
梢にかかり、
果實好むひとが忘れてゆきたる、
いな、
忘れたるにあらねども、
えがたくて、
のこしたる紅き林檎の果みのやうに」
再び歓声があがる。
すごい。
村でこんなことを言っても誰も相手にしてくれないのに。
「みなさまに、
と付け加えると、さらに歓声があがる。
ずっとみんなの様子を見ていたいと思うけど、話が終わったら、すぐに中に戻れと神官に言われているのだ。
ふぅ……。
奥に戻ると、小さなため息をついて肩を下げる。
まだどきどきしている。
上手くできたのだろうか。
ひとまず下に戻ると、プロフェテスの人がいる。
「よくやった」
と、手短に言ってくれた。
うれしい。上手くできていたんだ。
でも、あの言い方はちょっとそっけないかな。
なんて……、ちょっとしてから思ってしまう。
小屋に戻る。
「ピトさまっ」
リコが目をらんらんと輝かせてわたしの手を両手でつかみながら言う。
「高台での演説、すばらしかったです。あんなにも神様とつながっている方は初めて見ました」
神さまとつながっている。そうなのだろうか。
わたしはぜんぜんわからない。
「そうなのかな……?」
そうわたしいうと、リコは顔を曇らせて言う。
「すみません……。わたしなんかに神様がつながっているかどうかなんてわからないですよね……」
突然神妙な顔をされたのでびっくりする。
違うの。何か言わなくちゃ……。
「でも」
張った声でさえぎられる。
「高台におられた巫女様はとても堂々としていて、神々しく感じられましたよ」
リコはにっこり微笑みながら言う。
そのまま振り返って彼女は去ろうとする。
「待って」
リコが振り返る。
「あの……、ありがとう」
リコリスは何も言わずに再びにっこりとほほえむ。
うれしい。
同じように褒めてくれてるのに、どうして胸への刺さり方がこうも違うのだろう。
わからない。
でも、わたしがもっと褒めてもらいたいと思うのは、リコの方なの。
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