第六話 女の子集め
「絶対に足りない……ヤバすぎる。ヤバすぎるぞこれは」
「代表! もう諦めて人間の『コンパニ』を雇いましょう! それしかありませんよ!」
「馬鹿野郎。店の方針曲げたらそれこそウチの実力が低いと言っているようなもんだろ。それだけは有り得ない……」
「あ〜、下手したら首だよこんなの……」
まだ営業時間まで五時間以上あるというのに、遼と幹部達はお手上げ状態であった。珍しく笹久保も苦い顔をして、そこにいる全員がフロアの席に深く沈みこんでいた。
何があったかというと、話は前日の営業前に遡る。
「魔王様。土曜日に来るって……」
「そうですか。準備しておきます」
魔王ジャンヌの来店を伝えるため、またもやマイルは店に顔を出していた。今度は四日後。ヌーフェの時とは違い時間に余裕がある分、遼の心にはまだゆとりがあった。
しかし、マインの次の言葉でそれは覆る。
「ホステス、最低二十人は指名らしい……」
「ん……うん?? それってV3に入る限界の数じゃ……」
「うん。いっぱいって言われたからそれを説明した……。さらに補助椅子を持ってきて五人フリーで回して。指名は上位二十名……」
「そんな無茶な! 店が回らなくなりますよ!」
「本来なら貸切でもいいくらい。魔王様は売上も考えてくれている……。優しいね……」
上位二十名のホステスとなると、もちろん他の客も指名してくる。何せ土曜日は人間界と同じく客足が倍増する。被り対応を考えてもヘルプが足りなすぎる。クレームの嵐が予感され、貸切の方がよっぽどマシだった。
「じゃ、よろしく……」
「ま、待ってください! オーナー!」
無慈悲にも閉められた扉は、遼の死刑宣告のようであった。とりあえず回し方はさておき、ホステスを増やすしかない。
天井を仰いで、遼は力なく膝を付いた。
昨日の話であるということはあと三日。現在確定ホステスが七十人。どうシミュレーションしても後三十人は必要だった。
「ウチがもっと暇な店だったら……」
「そしたらホステスの総数も足りないさ。泣き言は無しだ」
「そんなぁ〜……」
完全に心が折れている五十嵐の頭をクシャクシャと撫で、遼は最終手段を覚悟した。
もう、スカウトしかない。初日の新人でも、ヘルプには使える筈だ。
「笹久保」
「はい」
「俺は当日まで店を空ける。その間はお前が仕切れ。絶対にクレームは出すなよ」
「はいはい。了解」
察しの良い笹久保は全てを理解した上で、いつものようにダルっと返事をする。遼は自分とよく似た性格の笹久保に絶対の信頼を置いている。彼なら、きっと期待に応えてくれるハズだ。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい。代表」
仲間達を残し、遼は店を後にした。緊急事例と称してバランを呼び出し、彼と二人で旅支度を終え、街の入口に移動する。
まさか、こんな形で異世界を旅するなんて考えもしなかった遼は、ため息混じりに今後の予定をバランに伝える。
「これから獣人の多い『ハレマの森』に向かう。好奇心旺盛な森の女の子だ。何人かは捕まるだろう」
「それがいいな。いや〜、ハレマの川魚は最高だぜ! ヨダレが出るよ!」
「バラン……旅行じゃないんだ。頼むよ……」
「わかってるわかってる! まぁ、気負いすぎても女の子が引いちまうぜ? ドンと構えて行こうじゃないか!」
「ん〜……そ、それもそうだな」
移動用の飛龍に跨り、二人は空を駆けた。飛龍の速度から日が暮れるまでには到着するだろう。夜行性が多い分、夜でもスカウトは出来る。
ハレマの森の中央、木の建物が多い集落のような場所に着陸した二人は、遼のお眼鏡に叶った女の子に絞って声を掛けまくる。リザードマンと人間の怪しい組み合わせにそそくさと逃げる者も多かったが、店の評判を耳にしている者は快く聞いてくれた。
「ホント? 私もラグマホリスに住めるの?」
「あぁ、社宅があるから家賃は必要ない。その分働いてもらうけど構わないかい?」
「もちろん! お酒飲んでお喋りすればいいんでしょ? 断る理由なんてないよ!」
意外にラグマホリスに憧れを抱く女の子が多く、ここで予定の半数がスカウト出来た。遼にとってこれは嬉しい誤算であったが、実は、ほとんどがバランが捕まえた女の子だ。人間は少し怖がられている節がある。
「お前がいて良かったよ」
「仕方ないさ。もともと人間は魔族刈りの悪魔だったからな。昔の話だけど」
「よし、次に行こう! 港町『アクアシャンデ』だ!」
「よし来た!」
バランが以前勧めた旅行先アクアシャンデ。漁業が盛んなこの街は、行動派な女の子が多いと聞く。
しかし、翌日の昼に到着した遼を待ち構えていたのは、住人の冷たい反応だった。歴史上、一番人間の被害が多く、王都から離れていてゲートの情報も浸透していない。憲兵から追い回されてその場を去ることとなった。
密かにバランが集めた三人が限界であった。
「遼……旅行先変えようか……」
「そうだな……」
そのまた翌日、ダメ元でドラゴンの里を訪れた遼は、今度はバランに任せて身を潜めた。しかし、人間に対して脅威とも考えないドラグーンは遼を見ても笑顔で応えてくれる。本領発揮とばかりに次々に声を掛けると、七名の女の子が承諾してくれた。レイアのような上級種はいないが、ドラグーンというだけで箔が付く。彼女らの翼なら半日で店にも到着出来るだろう。十分に間に合う。
「もう限界だな。戻ろう」
「あと少しなんだけどなぁ。仕方ないか……」
「ありがとうバラン。この恩は忘れないさ」
「よせやい。親友だろ?」
バランと拳を合わせ、友情を確かめ合う。
しかし、ここである問題が発生した。
「なぁ遼。今気付いたんだが、女の子達は間に合うかもしれねぇが、俺たちは間に合わないんじゃないか?」
「ん? 何でだ? 飛龍なら半日で到着するだろ。ギリギリ間に合うんじゃないか?」
「いや、無理だろ。見てみろよ」
飛龍達は息を切らして倒れ込んでいた。それもそのはず、全速力で飛び回っていた飛龍はまだ子供に入る。ここから帰るだけの余力は残っていなかった。
驚愕の事実に打ち砕かれた遼は、無言で飛龍の頭を撫でた。無茶をさせてしまった。こんな事に気付かないほど、遼は追い込まれていたのだ。
そもそも、移動用の飛龍では速度が違う。成龍なら半日でも、子供ばかりの飛龍はまる一日かかるだろう。諦めるしかない。
無念を抱きながら、笹久保に全てを託す連絡を入れようとした。
その時だった。
「あれ? 何してんの?」
「…………お、お前!」
その出会いが、彼の救いの糸となった。
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