第2話
しかし言われてみれば、夜に星が流れ始めてもう一週間経過しているのか。
夜に数多の星が一定時間流れ続けるという怪奇現象。
先週の教室内の少ない生徒たちはみんなで流れ星の話をしていたものだった。今日はもう教室に入った時から勉強をしている人間だけだ。世間でも最初の三日間はテレビで騒いでいたが、次第に興味が薄れたらしい。昨日の昼にぼんやり見ていたワイドショーでは、流れてますよーすごいですね、だけで受験戦争の激化やら地方議員の仕事ぶりやらに話題に移ってしまった。
きっとそんなものなのだろう。
「呑気にあいさつしてんじゃないわよ静寂。受験で大変なあたしたちをこいつは内心で笑いに来たんだよ?」
女子A子が食いかかった。あらぬ疑いだ。
「で、でも登校日だし……、それに私たちも来ないことだってできるよ?」
ぐぬぬ、と委員長の友人A子が呻いた。ありがとう委員長、君が良い子で本当にありがたい。
「そうだけど、ここはこのイヤミなヤツを罵る場面なのよっ、しかもチュウは罵るとお金を払ってくれるわ」
「チ、チュウくん……いくら?」
委員長が小さく訊いてくる。
「誰が払うか、人に変な属性付けんな。委員長も本気にするんじゃないよ」
委員長がたほーと安心するように息をついた。
「よ、良かった。私、罵るのは自信ないよ」
あったらやるのか。
「あんたの目には必死に勉強しているあたしたちなんて、さぞ滑稽に映ってることでしょうよ」
「やけにつっかかってくるな」
俺は思わず小さく嘆息した。気持ちもわからないではない。自分たちはまだ勉強しなくてはならないのに、同じ教室にもう合格している人間がいるのはやりづらかろう。まあ、それは俺もなのだが。
せめてもの皮肉を言ってやることにする。
「ただ友人A子ごときが、委員長と自分を同等に語っている点が最大に滑稽に映ってるがな」
委員長は近所から進学校と認識されているこの学校で上から数えるとすぐに名前が出てくる学力を持っている。
にもかかわらず、卒業式後に行われる公立大学の後期試験が控えていた。
なんと前期試験で風邪をひいて動けないという、不運というかのんびりしているというか、ベタな理由でまだ受験生だ。しかし後期試験は難しいと聞くが、彼女の合格は確実だろう。
「う、ううん、私なんて……全然だよ」
委員長が小さく口にした。A子がこちらを睨んで言った。
「A子て。人をモブみたいに呼んでんじゃないわよ」
「ほう、主要キャラになれるのか?」
「いつだってあたしはあたしの人生の主人公よっ」
切った啖呵に委員長が小さく呑気なリズムでパチパチと拍手した。
「せいぜい次回作にご期待されないようにな」
委員長がこちらを見て驚いたように瞳を大きくする。
「い、今のはなかなか鮮やかだったね」
そのまま俺の皮肉にまでパチパチと拍手を送ってくる。
「その皮肉なんとかなんないのかしら」
A子が委員長の手を止めて続ける。
「大体あんた、静寂の時は髪の毛先から足元まで説明できるぐらいにガン見してたくせにあたしは一瞥って、あんたの主要キャラがわかりやす過ぎるのよっ」
それを聞いた委員長が慌てて隠すように頭に手をあて、体をさらに縮ませる。俺の視線を確認するようにチラチラと委員長がこちらを見た。
な、な、なにをいきなり言いやがるんだ。
慌てていると、背中から低い声が聞こえた。
「おはよう」
俺の横を通った影は前の席の椅子を引く。声の主のガッシリとした広い肩から荷物が学生鞄が下ろされた。立ったままでも見上げなくてはならないのに、座ったままだと首が痛くなりそうだ。夏の練習による日焼けで浅黒い男に挨拶を返す。
「シュンくん、なんで来たの」
「自転車」
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