第2話

 喉が渇いて目を開けると、見覚えある部屋だ。

 今朝、ここで目を覚ましたのだから間違えるはずもない。

 ソファに着の身着のまま寝かせられてる。


 うう、またやっちまった。

 飲み過ぎて寝ちまったようだ。


――チッ、またチカに笑われるな。


 チカのニヤけた顔を思い出すと悔しいが、とにかく今は水だ。

 ソファから起き上がると、隣の部屋からチカの声がした。


「起きたらシャワー浴びとけよ。着替えはもう置いてある」

「水飲んだら帰るよ」

  

 台所で蛇口をひねり、流れ落ちる水に口をつけ喉を潤す。

 ひとしきり飲み、落ち着いて蛇口を閉める。

 口元を袖で拭き、身体を起こそうとした時、背後から抱きすくめられた。


 煙草と香水の混じったチカの体臭が香り、ハッと心臓が止まるような感覚のあと、ドキドキと鳴る心音が徐々に高まっているのが判った。


「本当に帰るのか? 」

 

――やめてくれ。

 そう言い返したかった。

 だけど、耳元で囁く艶めかしいチカの声と、背中に感じる弾力ある堅さと温かさに、このままで居たい気持ちがこみ上げてきた。

 言葉を返すこともできずにいる俺を抱くチカは、そのまま腕に力を込めてきた。


「俺は覚悟できてるぜ? 」


 先ほどより耳に近いところで聞こえる。チカの息がフウッと耳に当たりゾクッとした。


――俺は何を期待しているんだ。


 チカの手が胸から腰にかけて、俺の肌をシャツの上からなぞる。

 その際感じるゾクゾクしたざわめきに、俺自身戸惑っていた。


 腰から下腹部にかけて熱くなっているのが判る。

 膝から下に力が入らなくなっていた。


――抵抗しなくていいのか?


 首筋にチカの唇があたり、チロチロッと舐めている。

 ガクガクと身体が揺れ、足から力が抜けていくのが判った。

 

「おい、いい加減に……」

「やめて欲しいのか? 」


 その言葉を口にするためにチカの唇が俺の肌から離れたのが辛かった。

 辛くてどうしようもなかった。


「さあ、シャワー浴びて来いよ」


 目を閉じた俺の顔を横に向けさせ、チカは唇を重ねて閉じた唇をこじ開けるように舌をねじ込んできた。

 チカの舌に舌を絡めることに俺はもう抵抗を感じなくなっていた。


             §


 翌朝、俺が目を覚ますと、昨日と同じようにヘビメタが流れていた。

 今日はGAMMA RAYのMan on a Mission。

 上半身裸で、ベッドに座り煙草の煙をくゆらせながら、チカはメロディに身体を揺らしている。


――何が、ミッションの男だよ


 小刻みにリズミカルに動く背中に、そう憎まれ口をきいてやろうと思った。

 だけど、後孔に違和感を感じているのが判り、何か照れくさくて口を開けなかった。

 

 チカが振り向き、ニカっと笑って「起きたか」と声をかけてきた。


 その鎖骨から胸にかけてキスマークがついている。

 俺がつけたものだろう。

 

――チカは俺のモノだ。

 

 もう迷わない。


「ああ」

「じゃあ、シャワーを浴びてきな」


 それしか言うことないのかよと苦笑しつつ、ベッドから降りようとする。

 ベッドから立ち上がると、俺の腕を掴んで手の甲に舌を這わせてきた。


「お前はもう俺のものだからな」


――チッ、こんなことまで先に言われるとは……


 顔を上げて挑戦的な笑いを向けてきたチカに


「うるせえよ」


 俺はチカの唇を奪い、そして背を向けて風呂へ歩き出した。

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