1ー11 別離と相談
――◆ side:鳴宮隼嗣 ◆――
—————◇—————◇—————◇—————
鳴宮=隼嗣(ナルミヤ=ハヤツグ) 17歳:男♂
初期ステータス
レベル:1 職業:重戦士
生命力:2046/2046 精神力:1422/1422
攻撃:772
防御:874
魔法:747
素早:746
命中:698
知力:338
運 :69
特殊技能:鉄壁
—————◇—————◇—————◇—————
恐れていた事態が発生した。
これまで召喚された仲間は一人たりとも離れることがないように、細心の注意を払って動いていたというのに。ここに来て一人、それも一番低いステータスのゾラが離れてしまったのだ。
誰もがその事実に不安気な顔を――、浮かべてはいなかった。
「あー、このタイミングで離れるのかゾラの奴。」
朝食の席でサウマリア王女の言葉を聞いたその後、隼嗣たちはいつもと同じ様に座学と戦闘訓練をこなして過ごした。その間各自の顔にあったのは思案に満ちた表情だ。
それを見ていたそれぞれの時間を受け持った者は、痛ましい者を見る態度で隼嗣たちに接した。隼嗣たちが仲間のことを心配しているのだと思って。
「どこかで動くとは思ってたけど、ダンジョンから戻ったこのタイミング?」
ドサリと隼嗣が寝具に倒れて呟くと、実嶺が続く様に呆れた声をあげる。
今は最後の座学の時間も終わって皆が部屋に戻って床につく、その前の全員集まっての話し合いの時間だ。
「…一言も声をかけずにいくとか、許せない。」
「空船くん、大丈夫なのかしら…心配ですね」
ブスッとした顔で彩峯が言うと、深澄はゾラ本人がと言うより何をしでかすかという意味合いでの心配を口にした。
「洸哉くんはゾラくんを追いかけなくて良いのかなぁ?」
ニヨニヨとした嫌な笑みを浮かべて獅乃は洸哉の顔を覗き見ると、洸哉は顔を反らせて息を漏らす。
「アイツが自分から離れたんなら、追いかけても意味ないだろうよ。…だから今まで気に掛けてたってのに。」
静かに首を振るその姿に、揶揄う気満々だった獅乃は目を瞬かせた。
思っていた以上に今回のゾラの行動は、洸哉にとって気持ちを落ち込ませるものだったらしい。
「でもでも、ゾラ先輩はその内戻ってくるんでしょ?超人的な強さを身につけて!」
直輝はどこかの漫画の様にゾラが成り上がって戻ってくると信じている様だ。その目は爛々と光り輝いている。
「戻ってくる、とは思う。全員で元の世界に変えるってことは考えてたみたいだしな。ただそれが、いつになるかは想像できないぞ?今日か明日か、半年後か来年か…下手すると何年後って可能性もあるかもな。」
これが元の世界でのことなら戻って来もしないかもな、と乾いた笑みで洸哉は口にした。
「あぁ、彼ってそんな感じあるものね。」
全員の共通認識として、空船ゾラという人物は掴み所がなく何時ふらりと居なくなっても可笑しくないと思わせる何かがあった。それと同時に何時居なくなっても何処かで元気に生きているというのも。
だからこそ彼が離脱して危険の多い異世界で行動しようと大丈夫だと、心配一つして居なかったのだ。
「なぁ、アイツはアイツで何とかやるだろうし、此れからの俺たちの事を話し合おうぜ。」
場の雰囲気を変えるために隼嗣が寝台の上で起き上がって、話題を提供する。
仲間が1人欠けようが、隼嗣たちはまだこの城で行動しなければいけない。
ダンジョンから地上に出た後、逃亡を図れなかったのは痛手だがレベル自体はあげることができたのだ。それによってステータスも上がり、取れる行動が増えているかもしれなかった。その事を確認し合おうというのだ。
「じゃあ、ステータスプレートを見せ合いましょ。それで各自の強さも分かるんでしょ?」
ハイと実嶺が無造作にステータスプレートを寝台の上に置くと、続いて隼嗣たちも同じ様に並べてそれぞれのモノを眺めた。
「へー、お互い確認してなかったけど皆のレベル10以上はあるじゃない。」
「ステータスの数字も結構上がってるの、かな?」
「誰もスキルとか技能って増えてないんだな。そもそも増えねぇのか?」
「みんなレベル結構上がったねぇ。何気に彩峯ちゃんも私たちと同じくらい?」
「…皆の回復で法術を使ってる時も経験値が入ってたみたい。」
各自のその内容を確認して感想を漏らす。数字では今一つ実感はないが、ダンジョン内での自身の動きで強くなっているという実感は持って居た。
「ゾラだけ、レベルの上がりが悪かったんだよな…」
渋い顔をして洸哉が呟く。
ずっとゾラのことを気に掛けていた洸哉はそのレベルなどを逐一聞いていた。ゾラ本人は嫌そうな顔をしていたが。
「ゾラくんは攻撃力が低かったから仕方ないわよ。」
「その割に敵の攻撃を全く受けてなかったけどな!」
「遊び人の本領発揮ってことなのかなぁ?」
「むしろ空船くんは本人の本領発揮ってことではないでしょうか。」
「あはは、ゾラ先輩ならなんでもアリって感じ?」
「………。」
気楽に笑う隼嗣たちとは違って、眉根を寄せるのは洸哉と彩峯だけ。しかし思う内容は別のものではあるが。
2人の様子にも気付かず、隼嗣と直輝はゾラを話題のタネに盛り上がる。
「ゾラだったら戻ってくる頃には最強になってんじゃね?」
「ニコニコ笑って、敵をバッタバッタと倒す感じかな?」
「魔術も法術も自由自在に使っちゃったりしてな!」
「えーっと、魔術とか法術は『祈るは〜』で始めればいいんだよね?」
「そうそう、でもゾラなら普通の詠唱もしないじゃねぇかな!なんか、ほら!」
「あ、わかるぅ。ゾラくんが誰かに祈りを捧げるのって、想像出来ないしぃ?」
「だよね!ゾラ先輩なら神様がいようが知ったこっちゃねぇって感じだしね!」
途中で獅乃も参戦して話はさらなる盛り上がりを見せる。
「彼なら自分の思う通りに『つくる』とかあってるんじゃない?」
「そうですね、それも創造という感じの字があっている様な気がします。」
「でもアイツなら、そんな素直な言葉を使うか?」
「…彼なら神をも騙す様な言葉を使いそう。」
悪ノリに便乗して残りの仲間も話に乗った。
「騙す感じ、ありそう!」
「そうよねぇ。偽装する、謀る、欺くとか?」
「おぉ、それいいねぇ。『欺くは、閃光の光線』!とか、な………ぁ?」
冗談交じりに隼嗣が手を前に振りかざしてそれっぽい呪文を口にした途端、盛り上がっていた場に沈黙が訪れる。
その理由は隼嗣が呪文と同時に振った腕の先、そこへ一条の光が射したからだ。
「「「「「「「………。」」」」」」」
誰もが言葉を発しない。
無音の支配するその空間で、いち早く復帰した実嶺が未だに光を放つその大元へと動いた。
「ね、ねぇ誰?こんな所に懐中電灯を仕込んだのは。」
布団の隙間にあった懐中電灯を持ち上げて、ムスリした顔でカチカチとスイッチを動かしながら隼嗣たちを睨み渡す。
その言葉でやっと各自身動きを止めていた体を動かし始めた。
「ははは、誰だよ。こんなイタズラするのは。」
「冗談きついよねぇ。」
みんな動き出しはしたが、その視線は定まらず忙しなく動き回っている。何と無く誰が犯人かを突き止めてはいけない様な気がしたのだ。
もちろん名乗り出るものはいない。
「そ、そんな事より皆レベルも上がったんだし、特殊技能が使えないか試そうぜ。」
召喚初日から各自の持つ特殊技能は目にしていたが、初期レベルのせいか使うことができなかった。それを今なら使えるかどうか検証しようというのだ。
洸哉の出した提案に誰もが不満をあげることなく、話題を切り替えることにする。
「(私達…懐中電灯なんて持ってきていたかな。)」
どう見ても自分たちのいた世界にあったその作りに、彩峯は一人薄ぼんやりと疑問を浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます