1-07 戦闘訓練

 ――◆ side:華柳獅乃 ◆――



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華柳=獅乃(ハナヤナギ=シノ)   17歳:女♀

  初期ステータス

   レベル:1   職業:戦士

   生命力:2048/2048   精神力:1986/1986

   攻撃:1063

   防御:872

   魔法:732

   素早:746

   命中:633

   知力:708

   運 :71

   特殊技能:細工

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 異世界生活が始まって早幾十日。


 朝は座学を、昼を回れば戦闘訓練、夕食を挟んでまた座学の勉強をする日々が続いている。


 これまでの日々の間、獅乃達が城の外へと出たことは一度もない。

 その事について隼嗣が疑問を口にすると、座学を教える学者風の男は目に見えて狼狽ながらある程度の知識が身についてから出ないと外出は許可できないと答えた。

 もちろんその言葉を獅乃達が鵜呑みにするはずはなく、依然この国には警戒心を持ったまま過ごしている。


 しかし、ここ最近は召喚当初の緊張もある程度は落ち着きを見せていた。

 召喚された当日に行なった意見交換の場で、与えられた個室に各自休むのではなくその内のふた部屋に男女で固まって休み、常に集団で動くことを決めて警戒を続けていた。

 用意された食事を口にするのも良くないのではという意見もあったのだが、何も口にせず餓死しては元も子もないというゾラの一言で不安感を残したままであるが黙って口にしている。


 神経が可笑しくなる程の緊張状態を少し緩めても良いのではという意見が出たのは、召喚された日から続く何度目かの意見交換の場でのことだ。


「ここ数日周りを観察していたんだけど、どうやらこの城で警戒しなきゃいけないのは国の上役ばかりの様だね。もちろん下位の騎士やら次女やらも城に使える身だから無警戒という訳にはいかないけど、危険度としては下だと見て良いよ。何かに怯えている様子からしてその差が良く分かる。」


 発案者のゾラの言葉に、獅乃は座学を教える学者風の男の姿を思い浮かべた。いつもオドオドして、こちらが何か質問をすれば冷や汗流して答えをはぐらかそうとする。

 それは廊下ですれ違った次女に対しても同じ様子を見せていた。まるで獅乃達に勝手に情報を渡さぬ様に命令されているかの様に。


 今まで接した中で少し動きが違うのは、戦闘訓練を見てくれているチャーリーだけだ。


「チャーリーさんがコッソリ教えてくれたんだけど…サウマリア王女には気をつけろって。本人やその周辺の人はもちろんだけど、他の人にもサウマリア王女の話題は出すなって言ってた。」


 どういう事なんだろうと言った顔で口にした直輝。

 この言葉で今まで周囲にいる人間全てを要注意すべき敵として見ていた獅乃達は警戒すべき人間を絞ることができ、極限まで絞られていた警戒心を少し緩めることができたのだ。

 要注意すべきは自己判断できる上位の立場にいる人間であり、命令されている雇われの人間には話題だけを注意すれば大丈夫である。全てを警戒していてはその内誰が倒れてしまっても可笑しくない状態だっただけに、この話は渡りに船だった事もある。






「…ふっ、ハァっ!!」


 振り下ろし、斬りあげる。


 足を前にやり、遠心力を乗せて剣で宙を薙ぎ払うと後を追う様に額の汗が舞った。


「なかなか様になってきましたね。」


 傍らで動きを見ていたチャーリーが手を叩きながら笑みを浮かべる。

 その言葉に動きを止めて良いのだと判断し、獅乃は肩の力を抜いた。


 獅乃達が戦闘訓練を始めてから指導はチャーリー1人が行なっている。

 こちらは8人もいるのだからもっと補佐がいても良いはずなのだが、獅乃達にとっては警戒する相手も少なく都合がいい為何も苦言を出していない。


「実際の剣なんて使った事なかったけどぉ、なんとかなるもんですねぇ」

「初心者でそこまで剣を振るうことが出来ればたいしたものですよ。普通は剣の重みに振り回されても可笑しくないんですから。」

「あぁ確かにぃ。前に一度実物の薙刀を振るわせてもらった時はそんな感じだったなぁ。」

「ナギナタ?皆さんの世界の武器ですか?」


 この世界、少なくともこの国には薙刀という武器は存在しないのだろう。チャーリーは心底不思議そうに獅乃へと視線で問いかけてくる。


「薙刀はぁ、長い棒の先に反り返った刃がついた武器を想像してもらったらいいのかなぁ。私それを使った武術を習ってたんですよぉ。」

「長い棒、先には刃…反り返ったという点がなければ、槍と同じ系統思っても良さそうですね。それで剣を振る動きが少しぎこちなかったんですね。」


 なるほどと頷くチャーリーの姿に、少し違う気もしたが大体同じかと獅乃は肯定した。


「薙刀はコッチには無いのかぁ。あっ、そもそも適性があるかもわからないんですよねぇ。」

「それならば代用品として似た武器を使って見ては?適性武器でなくとも好んで別の武器を使うものも居ますし。」


 チャーリーの助言にうーんと一つ呻き声をあげて獅乃は辺りを見回す。

 周りにはそれぞれ適性武器を手に振るう仲間の姿。

 慣れない得物を手に必死に体捌きを覚えようとするその姿に、自分だけ楽をするのはどうかと首を振る。


「んー、もう少し適性武器で頑張ってみますぅ。」

「あまり口出しすることではないかもしれませんが、早めに決めてしまったほうがいいですよ。動きに変な癖ができてしまうかもしれません。それに、そろそろ…。」

「そろそろ、なんですぅ?」

「…いえ。心配せずとも皆さんが力を合わせれば問題はないでしょう。多分、彼も………。」


 チャーリーは言葉を途切れさせると、視線を別の場所へと向けた。


 その視線の先には別個に与えられた訓練メニューをこなし終えたのか、ノンビリと佇むゾラの姿。

 彼はこの世界に転移してからよく見る、宙で指をクルリと回す仕草を何度も取っていた。

 そしてその彼に近付く、これまた最近よく見る親友の姿。


 珍しく苦笑を浮かべて言葉を濁すチャーリーの姿に、不思議な行動をするゾラと親友の姿に獅乃は首を傾げた。






 訓練が終わり夕食もとって本日最後の座学の時間を、というところで獅乃達に今日は予定の変更を告げられた。


「やったー!装備装備、冒険者装備〜!」

「妙に時間がかかったわね。採寸してから何日?」

「一から服を仕立てるのにも時間はかかるしぃ、防具となるとこれぐらいかかるのかなぁ?」

「城の中でしか生活してないから、こっちの発展具合がわかんねぇしな。それなりに時間かかるんじゃね?」


 はしゃぐ直輝を実嶺は押さえつけながら疑問を口にすると、元の世界を基準にして獅乃は予測を返す。連絡網や技術力の関係もあるのではと洸哉が獅乃の予測を後押しする。


 眼前に広がるのは支給される装備一式。机の上に並べられた各自の装備を前に獅乃達は気持ち高揚する様相を見せて居た。

 机の前には隼嗣が陣取り、声も無く感極まった様子を見せている。


「其々一纏まりになっているのが個々人様の装備になっております。採寸通りに作られているはずですが確認のため、これから一通り身につけていただきます。勿論それらは私共が手伝わせていただきます。」


 装備を運び入れた騎士、次女が軽く頭を下げた。


「…チャーリーさんは来ないんですか?」


 深澄がこの城の中で唯一信用出来る人をと、戦闘訓練の指導をしてくれていた騎士の所在を訪ねる。


「ふ、副騎士団長は…その、所用のため此方には来られません。私共だけでは不安、でしょうか?」


 視線を彷徨わせながら答える次女の姿に、これ以上の追求は無理だと判断して引き下がる。

 彼女の辛そうな表情に何某かの命令が下っている、そんな予感をさせた。


「…仕方ない、さっさと確認しよう。」


 溜息ついて彩峯が呟くと、各自装備確認に移った。

 今着ている服の上から当てるので別室に移動することなく、その場で着付ける。


「(?…何しているのかなぁゾラくん)」


 着付けの補助は人数分いないのでどうしても着付け待ちが出るのは仕方がないのだが、訝しむ深澄や洸哉とは違って一人佇むゾラの姿は妙に見えた。


 ゾラの手にあるのは全員共通装備の黒い輪っか。

 首にも腕にも装備できる調整機能のついたソレを片手に、ゾラは宙に立てた指をクルリクルリと回している。

 その顔は笑みを浮かべながらも酷く冷めた目をしていた。


 そういえば彼は最近いつも以上に妙な行動をしているなぁと、獅乃の頭にボンヤリとした考えが過ぎった。

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