1ー04 秘密の会話

 ――◆ side:海莉彩峯 ◆――



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海莉=彩峯(カイリ=アヤネ)   16歳:女♀

  初期ステータス

   レベル:1   職業:法術師

   生命力:1493/1493   精神力:1984/1984

   攻撃:752

   防御:742

   魔法:885

   素早:615

   命中:702

   知力:896

   運 :83

   特殊技能:霊能力

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 召喚された部屋のある王城。

 そことは別の、渡り廊下で繋がれた隣の建物へと彩峯達は案内された。


 案内の時には先程まで立ち会っていた王女や武官風、貴族風の男はおらず騎士と先を歩く侍女の数人だけしかいない。彼女達も簡単に施設の説明だけ口にすると、さっさと席を外してしまった。


 与えられた部屋は建物の三階に前後隣り合って各自一部屋ずつ、テレビで見たよくある安いホテルの一室程度の広さ。自分達のいた世界ほど設備は充実していないのは言っても仕方がない事だが、妙に大きめに作られた寝台が嫌に目についた。


「………。」


 一度ぐるりと案内された室内を見回すと、彩峯はすぐさま踵を返して部屋を後にする。

 向かう先はこの部屋の正面に位置する部屋。


 自分の部屋の扉を開けて、頭を前に出す。


 見渡した廊下には人影一つ見当たらず、皆案内された部屋にいる様子だ。

 極力足音を立てないように静かに動いて、正面の扉を数回ノックする。

 そう間も空けず、ノンビリした声音で入室を促す返事がかけられた。





「やあやあ、入室1分で異性に甘えたくなったの?それとも夜這い?僕そういうのは受け付けてないから他所行ってもらってもいいかな、彩峯さん?」


 入室して早々、部屋の主である空船ゾラは笑みを浮かべてカラカラと笑う。


 去年の時も、今回の異世界転移も、この男は人を化かす様な笑みを浮かべていた。突然の事態に驚き慌てる彩峯達を尻目に、飄々と。

 だからこそ彩峯は真っ先にこの部屋へ訪れたのだ。

 他でもない、こういった事態に対処できるであろう、この妙な同級生の元に。


 ゾラの揶揄う言葉に耳を傾けず、彩峯は静かに言葉を口にする。


「…単刀直入に聞く。何を企んでる?」


 只でさえ静かな空間にシンと静寂が訪れ、しかしそうは長く続かず如何にも傷つきましたというゾラの言葉によってすぐに打ち壊された。


「酷いなぁ。まるで僕が良からぬ事を企んでいる様な言い草だ。」

「…去年の時も今回も、事が起こる直前にあなたの足元が発光してた。どうして自分が疑われないと言えるの。」


 睨みつける様に視線を向けると、ゾラは大袈裟に驚く仕草をしてみせる。


「おやおや、よく見ているねぇ。彩峯さんは僕のストーカーなのかな?それとも僕を警戒する様にでも言われた?…例えば背後霊にでも、さ。」


「っ!?」


 チラリと彩峯の背後に視線をやるゾラの目に言葉に詰まった。

 勿論そこには何もいない。

 だが確かに彩峯がこの男を意識した切っ掛けは、夢見の淵に囁かれた言葉によるものだ。



 静かに響くような声でそれは『空船ゾラの行動に注意しろ』と言った。






 海莉彩峯には人に言えない事がある。小さい頃から霊感があるのだ。


 そう大袈裟なモノではない。しかし、ふとした時にいるはずのない人影が見え、ちょっとした怪奇現象が身の回りで起きるだけの事。

 だがその中心にいる本人はその現象により落ち着きを無くし、周囲は挙動不審な彩峯に懐疑的な視線を向ける。懐疑的な視線は次第に言葉に変わり、行動へと変わった。

その結果、子供同士故に突き付けられたイジメにも等しい行動に、その原因になった自身の霊感に彩峯は悩まされ続けてきたのだ。


 だからこそ、この事は自身に近しい人間や親しい友人にしか話した事はない。秘密を知る者達も中学以前の彩峯の状態を知る故に、周りに話す事はない。だから高校で初めて関わりを持った者が知り得るはずがないのだ。


 ない、はずなのにこの男は彩峯の秘密を、確信を持って口にした。いつもと同じ笑みを浮かべて。






 顔色を青くして固まる彩峯の様子を見て、やりすぎたかとゾラは両掌を上にして持ち上げて首を振ってみせる。


「…これくらいの軽口はサラリと流せるようになった方がいいよ?そんな特殊技能を手に入れたんだから、さ。」

「………ぁ」


 言われて初めて思い出した。彩峯のステータスプレートには確かに『特殊技能:霊能力』と表示されていた。それを見て入れば先程の軽口が出ても可笑しくは無いのだろう。


 しかしいつ彩峯のステータスプレートを見たのか、そんな疑問が浮かぶ前にゾラは続けて口を開く。


「誓って言うけど、前回のも今回のも僕が何かしたわけじゃないよ。まぁ、図らずとも切欠になった形ではあるけども、望んで事を起こしたわけでもないんだよね。」


 証拠に前のはそれとなく収拾つけてあげたでしょ?と言われてしまうと、彩峯自身それらしき行動をしていたのを目にしている手前何も返す事ができなかった。事実、その後何事もなく元の世界に帰る事ができたのだから。


「…それなら、何故またこんな事に…前みたいにすぐ帰ることは出来るの?」


 前回の様な魔法陣に何か手を出すわけでもなく、動く素振りも見せなかったゾラに眉根を寄せて問いかける。

 召喚直後のあの不穏な空気に、彩峯は何事かに巻き込まれる前に早く元の世界に帰りたくて仕方がなかった。


 だがその願いはゾラの重みを感じさせる溜息によって否定される。


「残念ながら…すぐに、というのは無理だね。前回とは事情が変わってくる。」


 ゾラが言うには、前回はどこかの誰かさん材木坂 弥太郎による魔法陣の落書きがゾラ自身と妙な共鳴反応を引き起こし、中途半端な異世界転移が巻き起こった。完全に転移したわけではなかったのでゾラの方で少し細工をすれば元の状態に戻す事ができたのだと言う。


「今回のは完全な異世界転移、しかも一方的な召喚が行われた状況なんだよ。帰るにしてもそれなりの準備と、エネルギーが必要になるんだよねぇ。」

「貴方なら時間をかければ何とか出来る、という言い方?」

「今回の異世界転移が、僕自身が原因なのか前回の転移に関連しているのかはわからないけど…こういう事は適材適所、慣れている人間がやるものだからね。その辺は安心して任せて貰えばいいよ。」

「…慣れ、てる?………貴方、一体何者?」


 笑みを深めて当然と答えるゾラに、彩峯は疑問を抑えきれずについと口にする。


 そう親密に接したわけではないが、この一年でこの男の性格はある程度把握している。自分の興味のある事にはとことん突き進み、都合の悪い事には飄々と躱し受け流す。

 まともに尋ねて答えが返ってくるわけがないと分かってはいるのだが、聞かずにはいられなかった。


 ゾラは何事か考えるように宙を見上げて唸る。


「何者か、ね。その質問に答えるなら、そうだなぁ…空船ゾラは別世界から来た転移者である。だからこそ、ソレに関する知識はそれなりには持ち合わせている、って感じでどうかな?」


 まさかの返ってきた答えに驚き固まる。

 この男にしては珍しい事に、揶揄う様子も見せずに真剣味の帯びた目で答えている。


「…転移者?何故、私にその情報を開示した?」


 語られた内容を否定する事なく、只々頭に浮かんだ言葉を口にした。

 今までこの男を観察して来て空船ゾラが普通の存在では無いのは分かっている。ゾラが口にした内容に嘘がないと、直感的に感じたからこそ浮かんだ疑問だ。

 ゾラは指を宙でクルリと回すと、裏に何も感じさせずに答えた。


「今回はそれなりに長丁場になりそうだからね。共有できる情報を提供して、僕の代わりに動ける人間欲しいんだよ。」

「それは、貴方が別行動をとるという事?」


 ニコリと笑って言われた言葉に彩峯が訝しげに返すと、ゾラは首を振って答える。


「今の所その予定はないよ。でも今後、一緒に来たが暴走しないように動いてくれる人手は必要としているんだよね。」

「…その言い方、貴方は表立って動く気がない?それどころか貴方の事を、他の人には話す気がない様な感じ。」

「アハハ…あ、そうだ!僕としては帰る術について皆に教える気は無いよ?逃げ帰れると変な気を起こされては困るし、ある程度緊張感は持ったままでいて欲しいからね。」


 確かに見知らぬ世界で自身の世界に帰れると言う安堵で緊張感なく動くのは危険だとは思うが、その危険性を指摘した上で帰れる術があると皆に知らせた方がいいのではないか。

 そう口にしようとしたその時、部屋の扉を叩く軽い音が鳴る。


「おーいゾラ、ちょっといいか?食事の前に皆で一度集まって話をしておきたいんだが――」



 扉の外から洸哉の声がかかる中、彩峯にはゾラの視線が突き刺さった。

 彩峯の言おうとしていた言葉は、口から出されることなく留め置かれる事になる。

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