1-03 日常の変化
――◆ side:空船ゾラ ◆――
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空船=ゾラ(カラブネ=ゾラ) 17歳:男♂
初期ステータス
レベル:1 職業:遊び人
生命力:558/558 精神力:423/423
攻撃:197
防御:211
魔法:159
素早:203
命中:239
知力:217
運 :20
特殊技能:自由人
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サウマリアが他の転移者たちのステータスプレートを確認している間中ずっと、ゾラはステータスプレートと睨み合っていた。なので他の者がどんな内容を表示されたのかは、サウマリアが口にする言葉の内容でしか推測することができなかった。
推測した内容と個人的な趣味でステータスプレートの内容を変化させたのだが、その結果はサウマリアの表情を見れば一目瞭然。やらかしたとしか表現できないものだろう。
「………」
「…えっと、テヘペロ?」
この世界にどこまでの技術があるかは分からないが、まさか異世界から来たばかりの者が何か出来るとは思うまい。
今までの朗らかな雰囲気が一変して静まり返る空気に、ゾラは取り敢えずいつもの調子でおちゃらける。だが、室内の空気に変化はない。
「ぉ、おいゾラ。お前どんな内容が表示されたんだよ。お前自身みたいにヘンテコな内容じゃないだろうな…ん?」
凍りついた空気を変えるべく、洸哉が未だにゾラのステータスプレートを持って固まるサウマリアの手元を覗き込んだ。
「というか、人の個人情報を覗き見解いて固まるって失礼じゃない、の…あれ?」
「…どんな内容でも態度に出すなんて失礼。」
「そうだよぉ。いくら王女様とはいえ…あらぁ?」
「そうそう、いくらステータスが高かろうが低かろうが評価は一定に、だぞ?…で、どんな内容なんだゾラ!」
「ゾラ先輩、どんなチートですか!?それともチート性能なしのハードモード!?」
「鳴宮くんと高円寺さんの弟くん?嬉しそうな顔をするんじゃありません!」
先にステータスプレートを覗き見た人はその内容に難しい顔をして後ろへ下り、後から覗き見た人は目を見開き、一部は歓喜の雄叫びをあげた。
「ゾラくん、なんで貴方だけ…いえ、そんなこと言うのは失礼よね。」
「おいおい、なんでお前だけステータス低いんだよ。おかしいだろ。」
「私でも平均700あるよぉ?ゾラくんのステータスプレートだけ壊れてるんじゃないのぉ?」
「…その可能性はありますね。空船くんのモノだけ交換してもらいましょう。それでもう一度登録の仕直しを。」
「………。」
難しい顔をしてゾラのステータスプレートを振ったり叩いたりしながら話し合う実嶺たち。彩峯はその側で訝しげな表情でゾラの方へと目を向け。その後ろで隼嗣と直樹は「これはまさに!」だの「キター!」だのと互いの顔を見ながら叫びだす。
ガヤガヤと話し合っていると、ようやくサウマリアが思考の海から抜け出し動きだした。
「申し訳ありませんがステータスプレートの故障ということではないでしょう。ステータスの隠蔽という術も存在しますが使用された様子はありませんし、何より此方に来たばかりである皆様が使用できるとは思いません。それに…法魔具で見る限り、本当のステータスが表示されている様です。」
どうやら動きを止めていたのはステータスプレートの状態を見ていた様だ。話の途中でゾラの顔を見てイヤリングに手をかざした事からその装飾品が法魔具で、ステータスプレートと同じ様な働きでゾラの今のステータスを確認したのだろう。
隠蔽の技術があるという話だが、先ほどゾラが行ったのは隠蔽ではなく改竄。隠したわけではないので、その違和感を嗅ぎ取ることは出来ないようだ。
サウマリアはゾラにステータスプレートを返すと、目を伏せて静かに出入り口の方へと歩を進める。
「…ゾラ、大丈夫だからな。今は弱くともこれから何とかすりゃいいんだ。」
「そうよ、レベルとかいうのをあげればいいのよね!」
「バンバン敵を倒して、ステータスあげちゃおぅ。」
「…先生も頑張るから、何とかして生き残りましょう?」
親身になってゾラを元気付ける洸哉達にゾラ苦笑を浮かべていると、出入り口付近に移動して貴族風の男と武官風の男と話をしていたサウマリアがゾラ達へと向き直った。
「皆様、私達から提案が御座います。そちらの、ゾラ様に関してなのですが…彼には別口で動いていただいては如何でしょうか。」
助け合って頑張ろうという話をしていた所に突きつけられたサウマリアの提案に、洸哉達は目を見開く。反射的とも言える動きで洸哉が真っ先にその提案に噛み付いた。
「何でだよ!ゾラは俺たちの中で一番ステータスが低いんだぞ!」
洸哉の反論は予想していたのか、サウマリアは淡々とした声音で言葉を返す。
「…だから、で御座います。集団の中で一人ステータスに差があると皆の足を引っ張り、いずれはそれが致命傷になりかねない事態に発展する。だからこその別口で動いていただくので御座います。」
「っ、だからって!こんな直ぐから!!」
「まぁまぁ。神近洸哉はそんな聞かん坊じゃないでしょ?」
「おまっ!自分の事だろ!何そんなに冷静にしてんだ!!」
自身の事に関する口論なのだが、ゾラ本人には何の焦りも浮かんでいなかった。それどころか、それはそれで良いかもとも思っていたりする。こう言う流れもよくあることだ。
危機感を覚えろと必死に訴える洸哉にゾラはまぁまぁと諌め続けていると、サウマリアが手を顔の横へと上げて言葉を続けた。
「何もずっと別口で、とは申しません。仮にゾラ様が皆様と同じぐらい力をつけられたり、行動を共にしても支障がない様になられたのならば、その時は一緒に行動を共にされればよろしいのです。」
「だけどだな!そんな直ぐにハイそうですかと別れるなんて!っ、そんな事!」
「一時的に。そう、少しの間と思って頂ければ。」
「ぃ、一時的にだけでもゾラと離れられるか!!」
「(…ん?)」
些細な違和感にゾラは疑問符を浮かべる。
サウマリアの手から何事かの力が発せられているが、違和感があるのはソコではない。
消えない違和感に困惑を浮かべるゾラを尻目に、サウマリアが目を細めて洸哉の説得の言葉を紡ぎ続けた。
「そんなに仲間と別の時間を過ごすのが嫌なのであれば、彼にはもっと手っ取り早く強くなっていただきましょう。」
「手っ取り早く強く、だと!?」
「ええ、我が国には試練の間というものがあります。其方で一定期間、修行して頂ければ皆様と共に歩むにふさわしい力を身につけられるかと存じます。」
サウマリアの笑みが濃く、深くなっていく。
そして何か合図をする様に視線を動かせば、他方から声が上がった
「そんなものがあるんだねぇ。それなら別行動でもぉ…」
「獅子は子を千尋の谷へと叩き落とすという話もありますから、そうして貰うのも良いかもしれません…」
「おー、一人仲間と離れて修行ってのも成り上がりモノの定番だよな…」
「ゾラ先輩がチート進化するんだね、ガンバレェ…」
「ん。ゾラなら、きっと大丈夫…」
サウマリアと洸哉の問答を見守っていた他の人間から同意の声が。
「ちょっと何!?皆、どうしたの!?何で賛同してるのよ!!」
いかにも怪しげなサウマリアの言葉に同意し始めた周りの言葉に驚き、実嶺が声を荒げる。
誘導される様に賛同するその姿に実嶺が違和感を覚えるのは当然のことだ。
「やったね洸哉くん、他の方法でも強くなれるんだってさ。だから、もう落ち着こうねぇ。」
サウマリアが何をしようがどうでも良いが、ゾラが気になるのは目の前の興奮する相手の方。
ドウドウと興奮する動物を治めるかの様に手を上下に振り、ゾラは洸哉へとゆっくりと声をかける。
しかし洸哉の興奮は治らない。
「そんなもん必要ねぇ!ゾラを別行動になんかさせねぇぞ!こいつは俺たちの側で、俺たちを見守る神に等しいそんざぃ――」
「おっと、洸哉くん暴走はそこまでだ。」
今まで洸哉の興奮を治めるために振っていた手を相手に向けて、動きを止める。
「!?」
状況が飲み込めていない実嶺は狼狽えるように周りを見渡し、彩峯は何に驚いたのかゾラ達の方を凝視する。
「ほぉうら、洸哉くん落ち着いてぇ。僕は、空船ゾラは、普通の、何の力も持たない普通の人間だよぉ〜。」
少しずつ力を込めながら、洸哉に視線を合わせて言い聞かせる。じわじわと浸透させるように、言葉をかけていく。
「な、ゾラ!何を…」
「大丈夫だからねぇ。ちょっと混乱しちゃっただけだよ。心配無いからねぇ〜。」
サウマリアに賛同する言葉を口にするのは相手の術中に嵌ったから。反論する言葉を口にするのは術に抵抗したから。しかし、この混乱の仕方は見過ごせない。
困惑する洸哉を目で制しながら笑みを浮かべてゆっくり、ゆっくりとゾラが洸哉の肩に手を乗せると。
「…ああ。ゾラは、普通だ。何も変わった現象を起こせない一般の存在だ。」
憑き物が落ちたようなさっぱりとした顔で洸哉は頷いた。それと同時に獅乃と深澄が目をパチクリとさせる。どこかの王女が放っていた何かが解かれたのだろう。
「え!?なに!?何なのよ!?」
全員の動きが止まり何かから解放された様子に、一人ついて行けていない実嶺が混乱混じりの声を上げた。
思惑通りに動かなかったのか、サウマリアが舌打ちしたい気持ちを押し殺して眉根を寄せる。
「…私達の提案は受け入れられない、というお答えでよろしいでしょうか。」
全員の意識がゾラから外れたことで自身の術が解除された事に気がついたのだろう。サウマリアが確認の意味も込めて問いかけた。
それに答えるのは今まで声を荒げていた洸哉ではなく、話題に挙げられていたゾラだ。
「んー…其方の
「…っ!」
言外に色々含ませて答えると、サウマリアの眉根のシワが濃くなる。
お前のやり口は分かっているぞと、ゾラが笑みを深めるとその瞳は憎々しげに鋭くなった。
「今後のことを考えると僕たちは皆一緒に行動する方が、其方にとっても良いんじゃないかな。僕たちはこの世界の事を知らないし、戦う力は無いかも知れない。でもたった一人だけ召喚されたわけじゃ無いんだし、その方が其方も誰がどれだけ、どういう風に動けるのか把握できるでしょ?近いうちに今後の為のお勉強会をやるんだろうし、さ?」
このまま此方を分散させていいのかな?場合によっては何かしらの行動を起こすかもね?と匂わせ、要求も混ぜながら暗に示してやればサウマリアの視線はさらに鋭くなる。
その口元が弧を描いたままな所を見るに、王女としての仮面はまだ辛うじて保っているのだろう。
「サウマリア様、仕度が整いました。」
部屋の手前で控えていた騎士の一人が静かに声をかけると、サウマリアの肩がピクリと反応し剣呑な気配を治めた。
一度閉じた瞳を開けると、そこには初めに部屋を訪れた時に見た柔らかい王女の笑みが浮かんでいた。
「皆様、この話はまた後日と致しましょう。本日からお泊まりいただくお部屋の支度が整ったようです。一度其方へ移動していただき、その後広間にて食事をいたしましょう。我が父、国王へは明日謁見の場を整える事が出来るかと存じます。それまでの間暫し我が城にてお寛ぎ頂ければと思います。」
王女の居住まいをするサウマリアはさて置き、ゾラ達は無言でニヤニヤ笑う貴族風の男と武官風の男の刺すような視線に晒されながら部屋を移動する事になった。
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