11袋目 夢は夢でしかない

 騎士団。それは裏切り、強欲、略奪、凌辱、残虐の限りを尽くしたもの。蛮族より厄介な支配層の蛮族。しかしひとたび戦いとなれば、彼らは命をかけて戦う。

 騎士はいつしか身分を得て弱者を保護する。無私の勇気、情愛の深さ、慈悲の心。人は一人では生きていけない。ゆえに家族を愛し、恋人を求め、友人を作る。いつしかそれらは失われるが、しかし追い求めていた心まで忘れ去られずに残される思い。

 いつしか騎士達は騎士団となり、皆が抱く思い思いの気持ちが一つになった。

 それは遵守すれば周囲から賞賛される究極の建前。それは「良い騎士」になる為の理想の行動規範。騎士道の誕生である。



 魔狼狩りは終わりを迎えた。エイトは指以外の爪で裂かれた体も、墓守の魔法使い――オスカー・ヘヴィエレメンタル・ベルデュラン――の回復魔法により完治。エリンも先ほどの出来事を「もいっかいなげて―」と危機を危機と思っていなかった様子で、後に残ったのは柱に命中した矢と、衣服と革靴を燃やした跡、魔狼の長の死骸。二人の門番の死だった。

 エイトと騎士達はそれから適当に自己紹介をして、魔狼の長を老魔法使いが回収したのを見届けた後、その場で解散。エイトとエリンは宿屋に戻った。

 宿屋の女将に魔狼の襲撃があった事を話したら「あんたは娘の命の恩人だよ!」と背中を叩いて、エイトを1階の6人部屋ではなく2階の個室に移すことにした。

 2,3の手続きと古銀貨1枚でエイトは一人で暮らせて、羽を伸ばせる空間を手に入れた。エイトは軋む音がしないベッドに倍増袋を置く。ふと自分の衣服が、魔狼の爪で引っ掻かれて上半身はボロボロ。下半身は獣脂で濡れて大量の獣毛がくっついていた事に気づく。すぐさま服を全部脱いで、別の衣服に着替える。

 倍増袋で増やしておいた同じ衣服を取り出して、着替え終わると“ふっ”と労苦のため息が出る。ここへきてやっと、積もり積もっていた疲れが噴き出したのだ。

 部屋に備え付けてあった机から椅子を引いて、ドカッと腰を落とす。座るというには大袈裟で、お尻の痛みが気にならないくらいに疲れていた。

 腰の下あたりから痺れる、火炎舌の蛇が這いあがってくる疲労感とストレスが込みあがってくる。深呼吸するたびに体の節々から、砂袋に針を刺して作った小さな穴から砂が漏れ出る、ざらざらとした感触の汗が噴き出てくる。

 このまま砂上の楼閣のように崩れるのではないかと思い、エイトは急いで椅子から立ち上がり倍増袋からタバコとライターを取り出し、窓を開けて、一服。

「・・・・・・・・・ぷは」

 街の中は昨日までと変わらない、平和なものだった。

 2階から見るトラトスの街を見下ろして、エイトはこれまで起こった事を思い返していた。

 親切な人に拾われて、仕事もなんとかこなして、それなりに住民ともよろしくして、魔法(で痛い思い)も体験した。この世界で初めてモンスターとも遭遇した。

 そしてこれからどうするかも考えていた。これまでは倍増袋で増やせる物を遊び半分の行き当たりばったりで考えていたが、そうもいかなくなった。

 あの犬畜生モンスターと抵抗する覚悟を決めた今は違う。


 今の目標は――――「元の世界に戻ってアイツをブッ飛ばす事」


 そうと決まれば後は行動・・・と行きたいが、あまりにも情報が乏しい。むしろこれまで生活基盤を構築することにかまけて、積極的に外の世界の情報を集めようとはしなかった。

 この砦の外の情報。そもそもこの砦はどこの国に属しているのか。それから世界の情勢はどうなっているのか。戦争か平和か。宗主国なのか植民地なのか。民主主義か共産主義か。どういった時代の世界なのかさえ解らない。

 剣と魔法の王道ファンタジーの知識がもっとあれば、ある程度の見当がつくのだろうが、生憎バリバリ働くだけが能のビジネスマンには門外漢だった。

「・・・ま、とにかく今日は休もう。徹夜明けからいろいろあり過ぎた・・・」


 早めの昼食を取り、最後は多めに水を飲んでから部屋に戻って仮眠を取る事にした。靴を脱いでベッドに入った途端、すんなりと意識が、ストンと落ちた。

 見慣れない天井が黒とも白とも赤ともつかない色に点滅し、視界で捉えている天井と脳が認識している天井の違いが判らなくなり、今見ているものなのか、記憶の中での景色なのか。はたまたこれまでの出来事が夢だったのかと意識が混濁する。

 それは音のない世界で音を拾おうとする苦痛だった。首を後退させすぎて脊髄が軋む音と筋肉の収縮。頭蓋脊柱に感じる圧迫感と大後頭孔から痛みの境界線を感じる。

 中へ、気絶するように中へ。

 そして落ちる。

「っ――――つぁ――――」

 寝落ち寸前の「カックン」を回避した瞬間。目の前に広がる光景の変わり様に閉口する。余りの喧しさに耳の中の細胞が死んだように眠り、視界の上部はレンズ境界位置の限界からかはっきりとしない。わかるのは一枚板のカウンターと、抱えるようにカウンター席に座っていること。

 隣の優男が訝しむ。

「あれ? どうしたの? お話の途中で寝ちゃおうとした?」

「いや――――そんなことは無い・・・・・・ほら、あるじゃないか。突然、ふとした拍子で、なんというかそう・・・何か無意識下で脳の認識に引っかかるものがあって、それを連想してしまう・・・」

「虫の知らせってやつ? 認識した瞬間、頭の中がクリアになって焦燥感を覚える、予期できない予測情報だね」

「ん・・・・・・まぁそうかもしれない・・・」

 少し居心地が悪いのか、正面を向いて席を座り直す。せっかくの出会いと酒の席に、何をやっているんだか・・・。

「ふ~ん、じゃあ話を戻すけどサ――――キミって特に将来の夢とか無いって言ってたのに、消防士を目指してたっていうのはどういうワケ?」

 ――――そんな事まで話していたのか・・・。

「いや、ああー・・・そうだな。順を追って話そうか・・・

 思い返せば俺は・・・特に将来の夢とか持たずに過ごしてきた。そんなことを考える前に、俺は周りの人間に褒められていた。褒められると、俺はそれ以上に褒められようとした。特別足が速かったから部活に専念した。部活に専念したから進学できた。進学できたら将来どうするかって聞かれて・・・それから・・・ああそうだ。

 確か大学で一番仲良かった奴に“消防士にならないか”って言われたんだ。それでとりあえず将来の夢は消防士だって話だ」

「なんでならなかったの?」

「親が反対したから。早死にせず安定した職にしてほしいんだと」

「ふーん、それで素直にサラリーマンになったんだぁ」

「不甲斐ないと思うだろうが、そうだ。

 今までの俺は言われたとおりにやって、目の前の事にしか集中できない性質だったんだ。それで社会人になってから苦労するんだけどよぉ・・・」

「消防士になれなくて、後悔した?」

「いや、全然」

「なんで?」

「さあ?・・・夢や目標じゃなかったからじゃね?」

「ふーん・・・・・・じゃあさ。カリにだけど――――もし君に夢や目標ができちゃったら――――ドウスル?」

「そりゃ勿論。脱サラして第2の人生さ」



「ゲフッ――――」

 不意に訪れた腹部への衝撃に、場面が転換する。見た事ある天井。酒気の無い空間。仰向けに寝てた事。頭が枕から外れて奇妙な寝相で、首を上げてし掛かるものを見ると、宿屋の娘、エリンが手足をパタパタして空を飛ぶ仕草。

「おきろー・・・おきろー・・・」

「――――なんだエリンか」

 急に現実に戻されたエイトは、絶望する。深呼吸して両手で顔を覆う。

 夢だった。

 しかもこの夢にはニカ・トバルが神通力的なものの介入があったとか、俺個人の不思議なパワーとかではない。

 普通の、夢。

 目が覚めた途端、夢だと分かったあの瞬間、昨日まで継続されていた日常の感覚が失われ、また一から“いつもの調子”を取り戻さなくてはならないと確信させる。

 余りにもリアルすぎる、夢。

 夢は、夢でしかない。

 おそらくだが、先ほどの夢の会話は実際出会ってから飲んだ時の記憶とは違うもの。エイトの夢の中で作り出した思い出の続き。奇妙な幸せの偽物。

 エリンがエイトの体をよじ登るように這って、目線を合わせる。

「おきろー・・・ごはんなにー?・・・」

「――――ぁんだって?」

 エイトは両手を開けて視線をエリンに向ける。急に目が合ったエリンはエイトの胸に両手を置いて、上体をそらす。何もない中空を見つめて、

「えっとねー・・・おかーさんが・・・ごはんすっごくいいものにってー・・・」

 母親が言っていたことをうろ覚えで伝えるエリンに、

「ああ。そういう・・・」

 エイトは一緒に魂も漏れてしまいそうなほど大きなため息を吐く。

 窓の方を見れば夕焼け色の陽が射していた。エイトはエリンの両肩を掴んでから腹筋だけで起き上がる。それからエリンを中吊りにしてベッドから離して床の方に移動させ、自身も床に足をつけてベッドに座る姿勢に。

 着地したエリンがぼうっと呆けた顔で静かにエイトを見つめている。

 両者が同時に口を開ける。

「あのねー・・・エイトー・・・」

「夕日が見たい」

 エイトが立ち上がり、大きく背伸びする。一つ深呼吸して、

「どこか見晴らしのいいとこ、知らねぇか」

 何か言おうとしていたエリンは、素直に頷く。

「・・・んとねー・・・」



 トラトスの街、西側の砦。

 忘れようとしていた冬の隙間風が混じる東からの風が、火照った体を冷やす。体の節々がまだ痛むが、それでも夜の訪れを知らせる冷たい報せは衣服の隙間に忍び込んで熱を奪い去っていく。

「ずいぶん昇ったが・・・ここまでくれば・・・」

 エイトはエリンを肩車で担いでレンガで積みあげた長い階段を登り切り、衛兵が外敵を見つけるため周回する砦の最上階にたどり着いた。最上階と言っても、弓と矢筒を背負った衛兵が見張る塔があるので違うのだが、一般人が来られる中でも一番高い場所まで来れた。

「まったく、今回だけだぞ・・・」

 エイトを先導していた衛兵が嘆息する。

 宿屋を出たエイトはエリンと手を繋いで案内してもらい、西側の砦、階段の前まで着いたはいいが、勝手に階段を上るのはどうかと思い、衛兵に頼み込んだのだ。

 最初は「ダメだ」と断られていたが、エリンが「まろーとたたかったひとー」とエイトを指さし、今朝の件の人間だと知るとしぶしぶ承諾し、上まで案内してくれた。

 階段を上る途中、エリンが「あきたー」と言ってエイトにしがみ付き、駄々を捏ねる。エイトは仕様が無い子だと思いながら肩車をしてやって、昇り切ったのだった。

「ああ、ありがとう」

 エイトは夕焼けを見ながら衛兵に礼を言い、しばらく黙って夕日を見つづける。

 衛兵は少しだけエイトを見て、それから自分の持ち場へと帰って行った。

「・・・・・・・・・」

 本当はここで夕日に向かって叫ぶはずだったが、エリン以外にも砦を周回している衛兵が気になってそれができなかった。妙に気恥ずかしいのか、心の中で叫ぶことにした。口ではなく鼻で大きく息を吸って、上半身を膨らませてから。


 あの野郎絶対ぶっとばしてやるからなぁ!!!!


「・・・・・・・・・よしっ」

 声に出さず、心の中で叫んだのが思いのほか満足して、声に漏れ出た。エリンが首を傾げて、それから何か聞こうと口を開いた時、こっちに向かって階段をのぼる足音。カツカツと、他の衛兵とは歩調も格調も違う兵士の音。

 二人は音のする方に振り向き、階段を上がる男を待つように見ている。

「・・・・・・こんな所にいましたか」

 息を切らすことなく階段を上り切って、エイトの近くに立つ。

 鎧のパーツを最低限、体の重要な部分にのみ取り付けた軽装。凛と一本筋の通った芯の強そうな体格。日に焼けた長いアッシュブロンド(僅かに青の要素がある銀髪)を後ろにひとくくりにしたポニーテールが風で揺らぐ。左右対称の色白で美しい端正な、思わずずっと見つめ続けたくなるような顔貌。真面目さを体現したかのような朴訥な目は藍色で、その瞳の中にケガレを洗い流す清めの雨の色を連想させた。

 フリムジーク・アムステルダム。アポロン騎士団の若い騎士だった。

「やぁ、今朝はどうも」

 エイトはこの男が自分を探していた事に気づいて、エリンを肩車から降ろしてフリムジークに向かい合う。フリムジークはエリンを一瞥してから。

「宿屋の女将さんから招待を受けまして。自分とイーサン、それと衛兵のヴィクティム君も宿屋にお邪魔になる事になりました」

「そうか。そろそろ帰った方がよさそうですね」

「あれから半日が経ちましたが、体の方は、もう大丈夫ですか?」

「ええ、ばっちりですよ。あの墓守の魔法使いの回復魔法は回復痛ってやつが全然なかったからな。予後も悪くない」

「そうですか。それは何よりです」

 フリムジークが微笑むと、エイトは思わず息をのんだ。パッと彼の周囲が華やいで、輝くように見えたものだから、一瞬ひきつけを起こしたのではないかと思った。

 魔狼の長の件でドタバタしていたが、こうやって話をするのは初めてだった。改めてフリムジークという男を見て、美男子だと意識させる。

 エイトは元の世界にいた見てくれの良い営業マンや眉目秀麗な取引先の受付嬢たちの顔を思い出して、それでもフリムジークはエイトが見てきた中でも指折りの美形だと思った。しかしなぜこんな男が騎士になったのだろうかとも思った。

「あの後にですね、失礼とは思いますが貴殿の事を調べたのですよ。つい最近、旅の行商人にくっ付いてこの街に現れ、そのまま滞在なさっているそうで」

「はい、そうですね」

「そこにいる子供の両親が切り盛りしている宿屋に泊っていて、砂金採りの作業に従事している。しかもその作業を指示する側に立っている」

「はい、あってますね」

「それに、と」

「え? 語学?」

 思わず調子はずれな声を出して、フリムジークが笑顔になる。それもただの笑顔をとは質が違う、疑いとも賞賛とも取れない仮面の笑顔だった。

「ええ。この街には、貴殿以外にも様々な人間が滞在しております。仮にも辺境の軍事都市、トラトスには私達をはじめ異なる出身者が集まってできた街です。特に傭兵だった者たちは異国の者たちがほとんどです。

 それなのに貴殿は、少なくとも4つの言語を母国語のように喋っているそうですね。トーマス氏も驚いていましたよ。これまで交流の少なかったギブヌン系、グルーニカ、パリソ人たちと一緒に砂金を採れるのは、貴殿が間に立ってできた功績だと。

 ・・・嗚呼あと、メイ=イン・ブランジェンドのパン屋で働いているヘイルくんが『次の新作のパンは期待しといてくれ』と仰っていましたが、意味は解りますか?」

「・・・・・・次の新作のパンは期待しといてくれ、だ」

「そうおっしゃってましたか、流石です」

 気づかなかった。

 異なる言語がこの街で飛び交っていることに。それが俺の耳にはすべて同じ言語に聞こえた事に、気づかなかった。

 フリムジークに取り調べを受けているかのような錯覚のさなか、エイトは砂金採りの作業を思い返してみる。そういえば、よく一人で黙々と作業をするお爺さんが居て、それをエイトが声をかけて作業の指示をしている以外には、誰も声を掛けなかった事。ピンセットで砂金を採る地味な作業をするおばさんグループには、少しおもむきの異なる衣装のおばさんがいて、話の輪に参加していなかったことに気づく。

「・・・うーん」

 エイトは思わず腕を組んで考え込む。

 自分がなぜ語学が堪能なのか。ではなく、なぜこの異世界で言葉が通じているのか、今更になって考えていた。

「貴殿を調べていくうちに、我が騎士団の中で、あなたは他国のスパイ、もしくは工兵の疑いを持つものが現れまして。・・・少なくとも私やイーサンはそうは思っておりませんが」

「はぁ? 俺がスパイか工兵?」

「ええ、他所からやって来た男が街の住人の子供を守った。その男は何者か?ごく自然な流れで調べる、他意はないものでした。しかし、この短期間で貴殿はずいぶんとこの街に順応していきました。それは貴殿の並々ならぬ努力によるものでしょうが、それを度外視する者にとっては、スパイ等を疑うでしょう」

「勘弁してくれよ・・・」

 せっかくこの異世界で生活基盤を構築しようとしていたのに、水を差すような真似をされるのは嫌だ。エイトは大袈裟にため息をついた。

「・・・スパイはわかる。が、工兵ってのは?」

「ええ。貴殿が魔狼の長に火を投げつけたでしょう? 魔法を用いず道具だけで作って見せて、あまつさえ火薬を用いず爆発する物も使用していたので、もしかしたらと、イーサンと一緒に冗談で言ったのですが・・・それを真に受ける者がうちの騎士団に多く居まして・・・」

 ここで少し申し訳なさそうにするフリムジークに、思わず。

「オオカミの追い込み漁に行ってないヤツらが街の防備についていたら、こんな大袈裟な疑いをかかる事にはならなかったろうな」

 皮肉の言葉を無視して、フリムジークが尋ねる。

「あなたは何者なんでしょうね?」

「俺が知りてーよ」

 それっぽく毒づいて見せるが、エイトは困惑していた。自分の事を正直に話しても誰も信じてくれない。しかし疑いを晴らす方法は無い。もしこれで痛くない腹を探られたものなら、この街に居られなくなるのではないかと考えていた。

「ですが、あなたの疑惑については大丈夫かと。疑っているのは退屈しのぎに蛮族退治に出かけるような類の者たちですし、そうやって助けた子供に懐かれている男を、私とイーサンは他国の軍人とは思っておりません」

「・・・そう言ってくれると、少しは気が楽になる」

「エイトー・・・もうかえろー・・・」

 エリンがエイトの袖を引っ張り、退屈そうにしている。エイトは頷いて、手を繋いだ。フリムジークは二人に道を譲って、後を付いて行く。

 長い階段をゆっくり降りながら、エイトとフリムジークはなんとなく会話する。

「集めた砂金をさぁ」

「はい」

「他所の街に売ろうと思っていたんだが、今朝の魔狼の一件で何も準備せず街を出るのはヤバイって流石の俺でもわかったから、もうしばらく働きながら準備しようと思うんだ」

「でしたら是非、我らがアポロン騎士団を頼るといいでしょう。

 もちろんお代はしっかりと払っていただきますが」

「ええ・・・いいよ。それ絶対ボったくれるやつじゃん」

「ところで、エイト殿は何ヶ国語を喋られるのですか?」

「知らん。俺にもわからない」

「準備をなさらなくとも、定期的に巡回する馬車を利用すればよろしいのでは?」

「そうなのか? じゃあ砂金を売るならどこがいい?」

「・・・ラクシュミーの街、でしょうか。あそこなら出所でどころを確認せずに買い取ってくれるでしょうし、ここよりはモノやヒトに溢れてますから」

「・・・・・・それ絶対、治安とか最悪だろ?」

「ええ、勿論です。あそこは自然の要塞にしてこの国一番の歓楽街ですから」

「そりゃ楽しみだ。やはり入念に準備した方がよさそうだな・・・」

「でしたら是非――――」

「あ、それはいいです」

「そんな・・・」

「かえろー・・・かえろー・・・」

とりあえず、当面の金策の目的地は決まったようだ。あとは何が要るか考えながら準備しよう。

 階段を降りたところで、陽は落ちて空の赤みが消え、淡い黄昏が訪れる。エイトたちは宿屋へまっすぐ帰って行った。

 

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