フウセンカズラのせい 後編


 ジャン!

 ジャジャジャン!

 ジャジャジャジャーーーン!



❁ オレンジ王国・国境 ❁



「全軍、整列! マスカット王国のお妃様と、我がオレンジ王国の王子様に敬礼!」

「お妃様、こたびはありがとうございます。あなたが持ってきてくださった大義名分のおかげで、我らオレンジ王国は宿敵であるリンゴ王国へ攻め入ることが出来ます」

「…………今思ったんだけど、六本木君の方が主役の王子様っぽいよね」

「ほんとね。会場からずーっとキャーキャー声が聞こえる」

「まあ、それを上回るほど会場からずーっと笑い声も聞こえてるけどね」

「そりゃしょうがねえよ。あれ、おいしいな。俺がやりたかった」


「じゃあ代わって! 今すぐ代わって!」


「……ゴホン! わが軍は国境を越えて攻め上り、必ずや宿敵であるリンゴ王国の王子を倒すであろう!」

「その王子なら、あそこに紐で縛られて転がっていますけど」

「くそう、笑いを独り占めだよ羨ましい」


「察して! あいつらが置いていっちゃったの! ここには俺がいない扱いでお話を進めて下さいお願いします!」


「……あれは、石だな」

「きゃーっ! 王子様、マジメ~っ!」

「これは男の俺でも惚れるわ……」

「なあ六本木、お前が何をしゃべっても会場から女子の歓声が湧くじゃねえか。後ろから斬りつけていいか?」

「……ゴホン! では全軍、我に続け! ……あと、その石の紐を何とかしてやれ」


 ジャン!

 ジャジャジャン!

 ジャジャジャジャーーーン!



❁ リンゴ王国・小人の家 ❁



「もうさ、どうにかして話を戻すぞ? 君はここで家事をしてあげる代わりに住まわせてもらってるの。お妃様が毒リンゴ持って来るまで真面目にしなさい。ほら、モップ持って」

「お姫様なのに? なんで御厄介になってるの?」

「どうして原作を知らないの? お妃様に城を追い出されたんだよ。いてっ! モップで叩くな!」

「そんなことしないもん! お妃様はやさしいの!」

「だから、なんでそんなややこしいシナリオになってるのさ……。ええい、毛の方を顔に寄せるな! 牛乳臭い!」

「むう。じゃあ、王子様が掃除するの。あたしは料理するの」

「俺の出番はずっと後です。今日の所は帰るから。……ん? なにさ、このピンクの照明?」


 チャラッチャチャラララッチャラ~💕 ハ~ン💕 ハ~ン💕


「……そう言って、あの女のところに行くつもりでしょ?」

「うそでしょ。なんで急にどろどろ系ドラマになったのさ」


 チャラッチャチャラララッチャラ~💕 ハ~ン💕 ハ~ン💕


「いいから、今夜はゆっくりしてくの」

「まっぴるまです。あと、棒読み過ぎてセクシーさのかけらもない」

「いつものを焼くからそこで待ってるの。さっき店長からホットソースの差し入れを貰ってるの」

「あれはダメ―――――――っ!!! ちょっ! 小人さんたちはなんで穂咲の味方なのさ! さっきほどいたばっかりじゃない! 縛らないで!」

「ふっふっふ。あの女の所になんて、帰さないから」

「ああもう、新しいシナリオだとどうなってるんだよ。俺の浮気相手って誰だよ」


「お妃様」


「ほんとにありそうなドラマだな! マスカット王国、ぐっちゃぐちゃの愛憎劇!」

「さあ焼けたの。この、あたしの愛のように真っ赤に染まった目玉焼きを……」

「それはもはや毒リンゴ以上の危険物です。そんなの食べたら王子様のチューでも目なんか覚めませんよ、教授」

「……ん? この音はなに? すっごくうるさいの」

「おお、神の助け! 何かが近付いて来……、る…………? ねえ、もうちょっと気の利いた音無かったの!?」


 ズダダダダッ!!!

 ズダダッ! ズダダッ! ズダダッ!

 キーン!

 ひゅーーー………

 ドカーーーーーーーン!!!!!


「時代とかさあ。世界観とかさあ」

「これは、オレンジ王国が攻めてきたみたいなの」


 バーン!

 ズカズカズカッ!


「ここにいたか、にっくきリンゴ王国の王子! 今すぐこの剣で…………。おい、だれかあの紐をほどいてやってくれ」

「ほらみろグズグズになった! なあ、六本木君。この際だから俺たちがとっとと和解して物語を終わらせるシナリオにしないか?」

「いいや、私は貴様を倒し、愛する白雪姫様を手に入れる!」

「ちょ……! あぶなっ!」


 ズバッ!


「いてえ! 危ないよ六本木君! それ、小道具係が悪ふざけで作った鉄の剣じゃないか! 開いてビーム出るヤツ!」

「問答無用! 覚悟しろ!」


 ズバッ! ズババッ!


「どわっ!? うおっ!? ええい、物騒な物振り回すな!」


 ガキーン!


「音響さん、ほんとハンパねえな! どんぴしゃ!」

「まさか、剣を抜かない気か? 鞘を振り回して、私に勝つ気でいるのか!」

「そっちばっかり凝って、俺の剣は手抜きなの! くっ付いてるんだよこれ!」


 ガキーン!

 ガキーン!

 ガキーン!


「ちょ! 六本木君、ストップ! ストーップ! そんな派手に剣を振り回したら穂咲に当たっちゃうよ!」

「ええい、あと一息! くらえ!」


 ズバッ!


 ……ドサッ!


「うおお、ガードした腕、いてえええ! こら、穂咲! お前がずーっと突っ立ってるのが悪いんだからな!」

「王子様! あたしを庇って血まみれなの! よよよよよ……」

「いや、それほど大げさなものじゃないけど。それより六本木君、なんとかシナリオを……、どうした? おわ、あぶなっ! その重たい剣を落とすな! こっちに倒れてきた!」


「おお、なんということだ! 私が白雪姫様を手に入れようと暴力を振るう中、あなたは白雪姫様を守るために立ちふさがっていたとは!」

「そりゃそうだろ、あぶねえもん」

「これこそ本当の愛! 私の負けだ! ええい、者ども、国へ戻るぞ!」

「愛とかじゃないです。俺は別にこいつの事……」


 ズカズカズカ…………


「ばんざーい! 王子様のおかげで、国が守られた!」


「「「ばんざーい! ばんざーい!」」」


「ちょっと、誤解したまま行かないで! ……まあいいか、ようやく物語がちゃんと終わりそうだし。痛い思いまでして報われゴホおっ!?」

「でも、王子様はあたしを庇って、大怪我のせいで眠ったままなの」

「剣で叩かれた時よか痛いわ! なにさ、その体重の乗った左!」

「白雪姫様! 王子様の目を覚ますには、白雪姫様のキスが効果的です!」


「「「効果的です!」」」


「ちょっ!? なんなのその台本! 俺はやだぞ! 逃げさせてもらう!」

「小人さんたち! 王子を押さえ付けるの!」

「ぐあ! いてててて! ちょ! マジで待て!」


「ほれ、きーす! きーす!」


「「「きーす! きーす!」」」


「会場全体から!? やめてー!」



 ……………………。



「そんなに、嫌なの?」



「あ…………。いや、別にそういう意味じゃ……」


「じゃあ覚悟を決めるの。……あたしの覚悟は、ずーっと前から、決まっているの」


「穂咲…………」



 ちゃららら~、ちゃららら~。

 ちゃららら、

 ちゃららら、

 ちゃららら、

 ちゃららら……、


 ジャーーーーーン!!!




 ちゅっ




「ししゃも!」




「王子様の目が覚めた!」

「「「目が覚めた!」」」

「ばんざーい!」

「「「ばんざーい!」」」


「…………そうね、良かったね。なんなら眠ったまんまの方が幸せだったよ」

「じゃあ王子様。ダンスなの」

「ああ、はいはい。ダンスね」


 チャララン、チャララン、ラン!

 チャララン、チャララン、ラン!


「ねえ、王子様。……最後に、一つだけ言いたいの」

「聞きますけど、せめてまともなセリフをお願いします」



「……魚くさいの」


「それは穂咲のせいだっ!」


 ちゃん、ちゃん♪



❁ 王宮・妃の間 ❁



「くそう、計画は失敗に終わったか……。だが、まだ私の野望は……。はっ!? 二人の人影!? そのハンマーは!」



 がっしゃーん!!!



「白雪姫、これで諸悪の根源は断ったわ」

「そうなの、お妃様。握手なの」

「マスカット王国、リンゴ王国、オレンジ王国。そして私たち。これからも仲良く過ごしましょう」

「もちろんなの」


「それにしても大丈夫だったの? あき……、王子」

「うん。ほんとにあたしの前で両手を広げてくれたの。王子様は、昔からあたしの王子様なの」

「うそでしょ臆面も無しに!? はあ、妬ける~! じゃあ、私はオレンジ王国の王子とくっ付けば、これからも三国は安泰ね!」

「あっちの王子には、香澄ちゃんがいるからダメなの。昨日もいい雰囲気でね?」

「え!? なになに? ……ちょっと、衛兵! そのうるさい王子と、姫の格好をした女を捕まえておきなさい! あ、でも、ここじゃまずいわね。カーテンを閉めておきましょうか」

「そうするの。ガールズトークで今夜は盛り上がるの」


「では皆様、そう言ったわけで、カーテンを引かせていただきます」

「めでたしめでたしなの」



 カラカラカカカラカラ…………



 シャララン!

 シャララララン!

 シャララ、シャララ、シャララララン!


 …………ジャーーーーーーーーーーン!


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