フウセンカズラのせい 前編


~ 九月十七日(日) 『白雪姫』 ~


  フウセンカズラの花言葉 永遠にあなたとともに



 ビーーーーーーーーーーーーーーー!


 カラカラカカカラカラ…………



❁ 王宮・妃の間 ❁



 シャララン!

 シャララララン!

 シャララ、シャララ、シャララララン!


「おっほっほ! 今日も清々しい朝だわ! さて、鏡よ鏡よ鏡さん。このマスカット王国で、一番美しいのは、だあれ?」

「お答えいたしましょう……。それは……、それは! 白雪姫様です!」


 ガーーーーーン!!!


「まあ! あたし!?」

「白雪姫様、ちょっとこちらに。なに勝手やってるんです?」

「アドリブはいいって言われてるけど、冒頭はやり過ぎ」


「お、おほん! またあの子が勝手に入り込んでいたのね? 衛兵! しっかりしなさい! ……それにしても最近の衛兵は、王子と小人の格好をしてるのね」

「これはこれは、お妃様。本日も大変おきれいでいらっしゃる」

「おお、鏡の精霊よ。念のために聞こうかしら? このマスカット王国で一番美しいのはだーれ?」

「それはもちろん、お妃様なのでございます!」


「…………ふたまた?」


「いやいや! あれは穂……白雪姫が悪いんだって! 俺だってびっくりしたよ!」

「ふーん、そういうこと。とうとうあの子に王国一の称号を奪われたのね。やっぱりあれ? アンチエイジング、足りない?」

「いえいえ! お妃様の方が断然綺麗ですって!」

「男はみんなそう。目の前の女性を褒めればいいと思ってるんでしょ?」

「うおお! 俺、なんでフられる直前のいい加減男みたいにされてるの!? お妃様のアドリブ怖い! 鏡が涙で曇るわ!」


「やれやれ、本題に戻すわ。……どうしてあの子は急に綺麗になったのかしら」

「秘密は、リンゴ王国の妖精の森にあるリンゴのせいでございましょう」

「おや、それはどういうことかしら?」

「あそこのリンゴを食べ続けたせいで、白雪姫様が美女世界一に認定されました」

「え? あのリンゴに、美肌効果があるの?」

「そんなものはありません」

「じゃあ、鼻が高くなる効果?」

「そんなものはありません。……妖精の森に住む、リンゴの妖精の長は、ミス・ユニバースの審査委員長なんです」

「買収なの!? はあ、それじゃあ仕方がないわね。でも、なんで白雪姫はリンゴを食べ続けているの? やっぱり世界一の称号のため?」

「それは分かりません。……でもお妃様。このまま白雪姫がリンゴを食べ続けると、悲劇が待っています!」


「リンゴダイエットのリバウンド?」


「……って、ボケようと思ってたのに。もういいよ。こんな未来が待ってまーす」

「ずいぶん投げやりになったわね……。え!? なにこれ! なんであの子が剣で刺されている映像なんか映るの?」

「リンゴを食べ続けると、こんな未来が待っています!」

「大変! 白雪姫の元に向かうわ! リンゴを食べないよう言わないと!」

「そんな話は聞いてくれないでしょう。ですからあなたは、オレンジ王国へ出向いて軍隊を動かすのです」

「それはどういうことかしら」

「リンゴ王国を滅ぼせば、すぐにリンゴの栽培をストップさせることが出来るでしょう。さあ、お急ぎください!」

「分かったわ! 誰か! 誰かおらぬか!」


「……くっくっく。上手くいった。これで両国がつぶし合いになれば……。ふふふ。あーっはっはっは!」


 デロデロデロデロ~

 ジャラーーーーーン!



❁ リンゴ王国・小人の家 ❁



 チュンチュン

 チチチチチッ

 パタパタパタ


「げぷ。もう食べられないの」

「白雪姫様。あなたはなんで毎日のようにリンゴを食べに来るんです? リンゴ農家のうちとしちゃ嬉しいですけど」

「リンゴ王国は、このリンゴを使ってオレンジ王国を乗っ取る気なの」

「え? どうやって?」

「教えてください、白雪姫様!」


「「「白雪姫様!」」」


「王様を、リンゴダイエットにチャレンジさせてリバウンドさせる計画なの」

「………………ちょっと台本と違うけど、それはガチで恐ろしい!」


「国民の支持率がガタ落ちしたところを狙う算段なの。そしたら、次に狙われるのはあたしたちのマスカット王国なの。旦那様がブクブクになっちゃうと、やさしいお妃様が困っちゃうから、あたしが全部食べちゃうの」

「なんと崇高な! まさか国の乗っ取りを止めるためにこのようなことを!」

「そしてなんと慈悲深い! ボクたちが作ったリンゴが兵器として使われるのを防いでくれていたのですね!」

「そしてそして、なんとお優しい! お妃様のためを思っての事だったなんて!」


「「「白雪姫様!」」」


「それにしても、白雪姫様はどうやって我がリンゴ王国のトップシークレットを知ったのですか?」

「お妃様の部屋に住んでる加々美さんが言ってたの」

「苗字っぽく言わないの。鏡さんでしょ、穂……、白雪姫様」

「鏡? ……あ! やっと分かったの! 台本、カタカナで書いてあったから勘違いしたの。加々美さん、だれなのって道久君に聞いても困った顔して教えてくれなかったからね、だから……」

「ちょっ! 余計なこと言わないでいいから! ほら、次のセリフ!」


「……………………今ので忘れたの」


「「「えええええ!?」」」


「ぐう」

「こいつ! 逃げやがった!」

「あ、ええと、姫様! こちらのリンゴは食べ過ぎると毒なのです! それ以上は召し上がらないでください!」


「…………ま、まあ! それは大変……、なの。でも、最後に一つだけ頂こうかしら……、なの」


「ぷっ……! くくくっ! せめて女子がやれよ!」

「しょうがねえだろ、女子が揃って笑い転げてんだから! し、白雪姫様! 一度眠ったら、王子様のキスじゃないと起きることができませんよ?」


「……聞こえるわけないよね」


「…………」


「…………」


「おおい! 王子! ちょっとこの状況何とかしろ!」


「「「わあたいへんだ! はやくお呼びしなければ! 王子様、王子様!」」」


「迷惑っ! いてて! 背中を押すな! こんなのどうすりゃいいんだよ……。えー、おっほん! 七人の小人ども! 一つ教えて欲しい! ……台本めちゃくちゃなんだけど。これ、どうするの? 俺が出てきたら、もう、終わっちゃうよね。…………え? 何持たせてきた? ……焼き魚?」


「「「さあ王子様! そのの塩焼きを姫様に!」」」


「ししゃも!」


「さあ王子様! 貴様にいい思いなんかさせません! さあ早く!」

「なあ、小道具間に合わないんだったらシナリオ変えたらいいじゃない。なんで本気のししゃも持って来たの? しかも焼いちゃってるし。大変魚くさいです」

「さあ王子様! キスを一匹摘まんで持ち上げてみてください!」

「こうすると姫が起きるの? ……これでいい?」

「お客様の方向いて!」

「これでいい?」


「「「これで劇のあいだ中、王子の右手が魚くさくなりました!」」」


「あたま来たっ! 俺は正常なシナリオに戻すぞ! ちょっと姫を借りるからな!」

「だめなの道久君。あたしこっちのシナリオしか覚えてないの」

「しれっと起きるなよお前は。寝てろ、ややこしくなるから」

「そういう訳にはいかないの」

「食らえ、数学の教科書」


「ぐう」


「ちょ……、秋山君! ダメだよ!」

「ええい、やむねし! みんな、秋山を抑え込め!」

「ちょっと! 七人がかりとは卑怯な! 痛いよ、紐で縛るな! ……うわあ、ぎっちぎちに巻いたね……」


 ダララララララララララララ! ジャン!


「こんなに縛られて抜け出せるわけないでしょ!? 効果音、下手くそか!」


 ちゃん、ちゃん♪


「絶妙か!」


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