曼珠沙華のせい
~ 九月十三日(水) お昼休み 三センチ ~
にじにじと近付いてきた隣の席に腰かけるのは、昨日は香澄ちゃんに散々叱られたのとニコニコ話す
軽い色に染めたゆるふわロング髪。
今日はそれを耳の後ろ、首の横に二つのみつ編みリングにして、そのリングの中に
このリーススタイル、つい俺が考案してしまったのだが、おばさんの食いつきようはハンパなく、定番になりそうな気がする。
でも、そんな髪形をあまりお気に召していない様子の穂咲。
なんとか機嫌を取らねばなりません。
でなければ死活問題。
というのも、寝坊して朝ごはんを食べ損ねたせいなのです。
「というわけでロード君! やはりマジックにはチャイナドレスだと思うのだよ!」
「教授、いきなりすぎて意味が分かりません。それよりお腹と背中がくっつきそうなので早く食べましょう」
今日のお昼は大変ご無沙汰の、シンプルな四角い目玉焼きだ。
気分は塩コショウ。
でも、そんな定番があり得るはずもない。
一体どんなアレンジをされるのやら。
……まあ何が来ようが、今の俺にはすべてがご馳走だ。
すでに最強の調味料で味付け済みです。
それを証明するかのように、調味料がグウと大きな音を鳴らしたものの、教授は話をまともに聞かない俺に頬を膨らませて力説し始めた。
「君には分からないというのかね!? マジック、ボーントゥビーチャイナ!」
「さらに分からなくなりました。いいから早く食べましょうよ」
教授は、まあ待てと言わんばりに俺を手の平で制すると、ポケットから、ザ・チャイナと言わんばかりの赤に金刺繍というランチョンマットを取り出した。
「昨日、テレビでマジックを見て感動したのだ! 君にもその感動を分けて差し上げよう!」
「いらないです。すぐにその目玉焼きを食べさせてもらえたら感動しますけど」
「ではいくぞ! えっと、お皿を真横から見て、ランチョンマットで隠して……」
俺の文句を聞き流しながら、のたのたと手際も悪く机の脇にしゃがみ込む教授。
お皿を布で隠す仕草を呆れて見ていたら、その布が持ち上げられた時には既に目玉焼きが消えていた。
「えええええ!? すげえ! ほんとに消えた!」
「ふっふっふ。驚いたかね? たねもしかけもないのげぷっ」
……仕掛け、あるね。
「仮にも乙女なんだから。げぷってなにさ」
「そんなこと言ってないの。いりゅーじょんなの」
「仮にも乙女なんだから。口の周りにべとーって付いてる黄身をなんとかなさい」
俺の指摘に、くるっと一回転した穂咲の口からは跡形も無く黄身が消えていた。
「手にしたチャイナ風の布が、黄身でべっとべとです、教授」
「今度こそ上手くやるの」
「それ俺の分!」
「さん! にい! ずるっ! はい!」
ああもう汚いなあ。
仮にも乙女なんだから、そんな下品な食べ方しちゃダメです。
「君は乙女(仮)に格下げです。それより俺の分は」
「うう……、お腹いっぱいなの。あ、キメ台詞を忘れてたの」
「俺の分」
「では諸君! またお会いしましょう!」
「俺の分っ!」
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