第13話 あらら 再び 闘いへ
町を見下ろすような小高い丘の上にギリシャの神殿のように白亜の建物があり、その前には、玉座が据わっている。建物の回りだけは、スポットライトでも当てたように、闇の中に姿が浮かび上がっている。
『救出に行くか』といいながら玉座に座りなおした僕は、後ろにそびえている白亜の神殿に入ることにした。
「まず自分の強化策をどうするか、ちょっと考えることにしよう」
中には、有惈さんの友人達がズラリ並んでいた。そう、六人の高校生が色とりどりのアラビアンナイトにでも出てくるような服装で僕を待っていたのだ。
この光景に、僕の強化策なるものは吹き飛んだ。
「今、厳しい闘いを切り抜けたところだ」
「まあ、さすがネグレマン様」
「ステキ!ネグレマン様」
「お待ちしておりましたわ」
僕の言葉を、皆が口々に褒めそやした。教室で、僕の口から出た言葉は、クラスの誰に拾われることもなく、ただ消えていくことがある。残念ながら、時々ある。
だが、ここでは、そうではない。僕は主人公なのだ。
「強敵だった。メタモーファシスフューズドだったからな。
ちょっと、頬に火傷を負った」
「まあ、大変」
「カウチに横になってください。私、瑚都が治療しますわ」
「さあ、咲良の膝の上に」
当然のこととして、僕は膝枕で寝そべった。膝を提供してくれた娘、吉田咲良からは、奇妙なことにちょっと糸婆ちゃんの匂いがした。どうもミディアムショートの髪型も似ている。だが、それは気にしないことにした。
僕のことを心配し、キラキラした瞳で見つめてくれる彼女たちの癒やし効果は絶大だった。
「あら、さすがネグレマン様、頬の傷が見る見る治っていくわ」
「うむ、当然かな。
じゃあ、これから、みんなでゲームでもするか」
「ゲームといいますと」
「もちろんポーカーだ。一位になった者は皆に命令ができることにしよう」
大理石のテーブルをアラビアンナイト衣装の娘達と自分で囲み、ゲームが始まった。
それぞれ十枚ずつのチップが積まれている。もちろん、僕はスケベ心満々で手にしたカードを眺めていた。手札は悪くない。きっと勝てる
いきなりの二ペアで僕のチップは三倍になった。
「ネグレマン様、あんまり変な命令しないでくださいね」
「そうよね、麗佳、ネグレマン様、ちょっとエッチだから」
早くも、皆、僕が勝つことが当然のような話を始めている。素晴らしい序盤だった。ゲームが進む毎に僕のチップが増えていく。
だが、影のようにダークスーツ姿の父が現れ、咲良の傍に寄ると耳打ちした。彼女は頷くと僕を見てニッコリとした。
不吉なものを感じた。
その時、すでに勝負は咲良と僕の一騎打ちになっていた。しかも僕のチップの方が多かった。だが、その不吉さは配られたカードにすぐ表れた。ブタかせいぜいワンペアしかこなくなり、結局、吉田咲良が勝者となった。
「ネグレマン様」
「な、なんでしょう?」
「有惈さんが、フューズドのボスに捕まっているそうね。お父様から聞いたわ」
咲良がきっぱりとした口調で言ってきた。糸婆ちゃんと同じ話しぶりだった。
「ボスは、彼女の癒やし能力を使って、傷んだフューズドを治しているそうよ。
そこで、今回の命令はこれにするわ」
「これって、あれですか」
「そう、直ちに有惈さんの救出に向かうこと。わかりましたね」
しぶしぶ立ち上がったところに、真太郎が現れた。手には、シルバーブルーのスーツを持っている。
「ネグレマン様、『液体アーマー』を使ったスーツです。これを着用すれば、敵の攻撃の衝撃はほとんど吸収されます」
僕がいやいや着用している脇で、兄は、スーツの素材は剪断減粘液体(せんだんげんねんえきたい)を染みこませたもので、いかに優れたものかを力説した。
兄の横には、もちろん種野博士が立っている。僕は、削岩機のついた義手を博士が用意していないか凝視した。
「すまんなネグレマン。プラズマ溶接のついた義手を用意する予定じゃったが間に合わなかった。」
「いえ、それが一番です」
僕は怪しいサイボーグにはなりたくなかった。
「じゃが、一つアドバイスがするならばじゃ」
「アドバイス……。メタモーファシスフューズドととは闘うなということですか」
「いやいや、この世界は、精神が色濃く実際に影響する世界じゃ。じゃから、君が強く願えば、いろいろなことが可能になる」
「闘わないで済むということですか」
「いやいや、君の精神が闘いの武器になる、つまり超能力という奴じゃ」
「超能力?!」
「うむ、可能じゃと思う」
博士の言葉に兄も頷いた。
こりゃあ、面白いことになるかもしれないと思ったところで、夜が明けたらしい。まぶしい光が射し込んだ。
Save the day 君が夢見る毎に世界は変わる 立 青 @sakataro
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