第11話 夢は現実を……
「頬がおかしいな。水ぶくれか。火傷みたいだ。
ヘルメットが熱を持ったのかな」
助手がつぶやいた。確かに頬に傷みを感じた。
ヘルメットが熱を持ったから火傷をしたのか、それとも夢で火傷をしたから現実も火傷になったのか、不安が湧いてきた。
治療がすんだところで、いくつかの体のチェックを受けて、朝食の席に着いた。やはり、現実の世界でも有惈さんはいなかった。
朝食は、納豆に、アジの開きに、味噌汁という純和風メニューだった。僕は、夢の中で、生臭い魚型のフュージョンが出現しなかったことに感謝した。
「気分はどうじゃね」
「まだ眠い……です」
「夢は続いていたかね」
「連続ものでした。ただ……」
分厚いレンズの向こうから、博士の目が僕を覗き込んでいた。彼は火傷を気にしているに違いなかった。
頭はちょっと重いが、気分は悪いわけではない。だが、納豆をかき混ぜている内に、訊いてみたいことが浮かんでいた。
「ただ?」
「種野博士、夢の中のことって、現実にも反映しますか」
「いやいや、現実世界の反映が夢じゃが、なぜじゃね」
「実は、夢の中で敵と闘って、頬を焼かれたんです」
博士は返事をすぐにはせず、僕の頬を見た。それから真顔になり、ちょっと考えてから、こう答えた。
「おそらくは、先ほど助手の原口がつぶやいたことが答えじゃろ。つまり、ヘルメットの中の機械が熱を持ち、それで低温火傷をした。そういうことじゃと思う。
だが、もちろん違う可能性もある。こういう実験を知っておるかな」
博士は、ポケットから十円硬貨を取り出した。
「これを火であぶり、熱したものを見せてから、被験者に握らせる。すると、どうなるじゃろう」
「もちろん、ひどい火傷です」
「だが、握らせるときに、熱していない十円玉とすり替えたら」
「そしたら、何ともないんじゃないですか」
「物理的にはそのはずじゃ。ところが、なぜか火傷と同じ状態になる人がおる。つまり、熱い硬貨を手に握らせられたという思い込みに体が反応する」
「ええ、じゃあ、もしも、もしもですよ。夢の中で殺されたら、可能性としては、死ぬってこともあるということですか」
博士は、斜め下を向き、真剣な顔になったが、なんどか頷いてから顔を上げた。
「それは通常考えられん。なぜなら、夢にはその人の意思やら願望やらが反映する。ということは、心底死にたいと思っている奴でもなけりゃ、そもそも死ぬ夢なんぞ、まず見ないはずじゃ」
そうだろうかという疑問が心の片隅にあったけど、僕は一応納得した。夢の中でフューズドと闘い自分が倒され、そのまま本当に死んだではシャレにならない。
「しかし、博士すごいですね、あのヘルメット。だって、昨日昼寝した時に見た夢は何も覚えていないんですよ」
「人は脳の十パーセントしか使っていないというのは、嘘じゃが、それでも脳には余裕があるから、夢も記憶させてしまうようにしただけのことじゃ」
「ところで、有惈さんは今朝もいないんですね」
「うむ、私の代わりに調査に出てもらっておる」
「調査活動だったんですか」
調査活動がいつまでなのかは訊かなかったが、有惈さんと彼女の友人達が出迎えてくれるハッピーな夕方がまたくることを期待しつつ研究所の門を出た。
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