第2話

その一件で、僕は幽霊が見えるとか、お店にオバケが出たなどと噂されてしまいました。


自分も見たいとか、本当なのか?と茶化す人や、ドン引きして露骨に嫌がる人などいましたが、その全てに僕は否定をしてきました。


そんなものいるわけない。見間違いだ。友人の悪ノリだ。と



そう、自分に言い聞かせていたというのが本音でした。


あれ以来、あの巨大な帽子を被った人は、僕が出勤した日には必ず、それも同じ場所に、同じ格好で、僕に背を向けたままの状態で

現れるようになっていました。


現れるのは、決まりがなく、いつの間にか現れて、いつの間にかいなくなってしまうのです。


なので、野菜コーナーはなるべく見ないようにしているのですが、レジの直線上にあるので否が応でも見てしまうのです。


そうした時に限って、現れているのです。



見たくはないものが、必ず見えてしまう状況に耐え兼ね、店長に進路を考えることを理由に退職の話をしました。


高3ということもあり、退職を聞き入れてもらい、働いていたその月までということになりました。

そのおかげで、心が大分楽になりました。


それからも、やはり現れてましたが、特に気にすることは無くなっていました。


もうすぐ辞められる。そしたら2度と見る事はない。

そんな気持ちで仕事をしていると、その巨大な帽子の人のことは気にならなくなって無視していました。




退職が近づいていた、ある日いつものように仕事をしていると、また例の帽子の人が現れました。

しかし、普段と様子が違いました。


前は、頭と肩くらいしか見えなかったのに、今は腕のまで見える。


大きくなった…いや、それは無いか。などと自問自答をしていたら、




僕は気づいてしまいました。




そのお客さんが現れる位置が、ほんの少しずつですが、明らかにこちらに近づいてきているのです。





また、僕を恐怖が襲い始めました。


しかし、バイトを途中でやめる訳にも行かず出勤しなければなりません。


次の日も、その次の日も…。


こちらに背を向けたまま、帽子の人の現れる場所は、段々近づいてくるのです。



残された日数を消化するのと比例して近くなる距離。


あと3日、あと2日…。その頃には、帽子の人は、もはや出入り口にまで差し掛かっていました。



そして、迎えた最終日。


僕は出勤するなり、後片付けをしながら、レジを打ち早く仕事を終わらせなければ、という一点のみで働きました。


すると、やはり現れました。相変わらずこちらに背を向けて。真っ黒な巨大な帽子は頭を全て包みこみ、手足は黒いドレス覆われている不気味な姿で。


いるのは、もう出入り口の目の前


僕との距離は、もはや数メートル。


そして、いつもなら気づくと現れるはずなのに、その日はいつまでも、いつまでも消えてくれません。


いくら、見直しても、目をそらしても、そこにいるのです。


僕は半分泣きそうになりながら、

必死に、来るな、来るな、来るな…と心の中で叫び続けました。

俺には何もできない。頼むからどこかへ行ってくれ。ごめんなさい。ごめんなさい…。

ひたすら心の中で強く叫びました。



そして、そーっと顔を上げると






そこには、帽子の人の姿はありませんでした。


そして、最終日が終わり、店長達に挨拶をしてバイト仲間達と打ち上げをしました。


正直、その辺りはあまり覚えていません。


とにかく、僕はその帽子の人からの恐怖から、解放されたのでした。

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