第42話エルフ兄妹と1匹の王国奮闘記 ギルド編③


 王国ギルドに登録して、Eランク冒険者となったルークとアリシアは猫探しクエストをスピード達成し、次に大蚊の大量発生クエスト挑むこととなったのである。


 ルークとアリシア、コタローはギルドでもらった地図を頼りに王国外にある貴族の領地に歩いて向かうことにした。

「兄者、晃達がいないとワープ出来ないので、不便だな」


「仕方ないさ、まあ考えてみれば、俺たち金持ちだから、馬車をチャーターしても良いのだがな! しかしクエスト報酬よりも運賃の方がかさむのはさすがに避けたいな」


「ははは、それもそうじゃな! まあそんなに遠くはないみたいだしな! それにBランク以上になれば、無料でギルドの馬を借りれるらしいし、頑張ってのし上がるぞ!」

「ワン!」


 王国の門外に出て畑の続くのどかな風景を抜けて、30分程歩いただろうか……。


 やっと大きな石造りの建物が見えてきた、芝生が綺麗に刈り込まれた立派な庭を抜けて門前に行くと、門が開いて老齢の執事が現れた。

「お待ちしておりました、冒険者の方ですね、ハーバード家の執事をしております者です。あいにく主人夫妻は用事で出掛けておりまして……」


「お! やっと来たか、待ちくたびれたぞ! まあ、なんてお綺麗なエルフさん達なの! さっきの役立たず連中とは雰囲気が違いますのね、期待してよろしいかしら?」と奥から顔を出したのは金髪のポニーテールの13歳くらいの可愛いらしい女の子である。


「ハーバード家のシーナお嬢様でございます! 

彼女は毎日、裏庭にある大沼でナマズ釣りを楽しんでましたのに、今回の大蚊の大量発生のせいで

楽しみを奪われて……」


「お父様お母様は仕事で出かけることが多く、釣りだけが私の楽しみだったの……」


 アリシアが笑顔で

「私達兄妹に任せるのじゃ! こう見えても私達は最強だからな!」


「でもさっきの冒険者さん達、2時間もかかって20匹を退治したところで放棄して逃げてしまったのよ……」


「ははは! 30分もかからず全滅させるさ」


 かくして大きな裏庭に案内されたルークとアリシアが見た風景は、まだ昼過ぎだというのに、暗い……大蚊が沼の上空を覆っていた。


「聞いてた数よりはるかに多いな?」


 執事さんが「なにぶん、異常繁殖で増え続けているみたいです。それではご健闘を!」


 執事も迅速に立ち去り、裏口を閉めた様子である。


「さーて! 5000匹以上は居そうだな! アリシアさっさと片付けるか!」


「お安い御用さ! コタローはここで待ってろ! あんなのに刺されたら大変だぞ!」


「ワフッ!」コタローも納得のようで尻込みしている。


 30センチの大蚊の群れにジャンプをしたアリシアが神剣白狐を抜き剣撃乱舞で数十匹を粉砕!


 ルークもアスタロト戦で手に入れたばかりの魔剣グラムの試し斬りを行う! 次から次へと切り刻む。


「さすがに物理攻撃ではきりがないな、アリシア爆裂魔法で一気にやっつけるか? ただし周辺に被害が及ばないように空に向けて放つのだ!」


「わかっておる、アニメなら周りもぶっ潰してしまうのが定番だがな、ははは! 火の精霊よ……

煉獄の爆炎を以って奴らを滅せよ! メガフレア!」


 アリシアの呪文の詠唱が終わると大蚊の大群の中央からマグマの大噴火のような大爆発が起きた。


 煉獄の炎が大蚊達の大半を焼き尽くして行った!


 「残りは俺がやっつけるぜ、水の精霊よ……

雷鳴と共に奴らを撃ち滅ぼせ! ライトニングサンダーボルト」


 閃光と共に大音響の雷が残りの大蚊を完全に粉砕していった。

 

 執事とシーナお嬢様や屋敷の使用人達が拍手をしながら近づいて来た。


 「お見事です。しかし凄いものですな、エルフの魔法というものは……」


 すかさずシーナが「私も学校で魔法習ってるけど、先生でも使った事がないような大魔法だったわ」


 その後、大喜びのシーナお嬢様の懇願により、昼食を御馳走になったルークとアリシアは屋敷を後にした。


「さすが貴族の食事だな、美味い肉においしいスープ、新鮮な野菜だったな兄者!」


「美味かった! コタローも満足したか?」


「ワン!」尻尾をプルプル振りながらコタローも応ずる。


 ギルドに戻ったルーク達は受付嬢マリッサに

「え!……もう終わったの!」絶句する彼女に

首に掛けていたギルドカードを見せる。


 「うそ……大蚊討伐数8304匹になってますわ!  一体どうやって、こんな短時間でBランク冒険者でも苦労しそうな数を倒したの?」


「爆裂魔法やら雷魔法で……」


 キリッとした表情に変わったマリッサは

「わたくし覚悟を決めましたわ、私の推薦ですぐにでもBランク昇格試験を受けられるように、ギルドマスターと掛け合って来ますわ、4階にあるマスター室に行ってきますので、お二人はこの階で待ってて下さい」


「面白くなって来たなアリシア!」

「Bランク昇格試験か! 楽しみじゃ!」


 マリッサは4階まで駆け上がり、ギルドマスターの部屋のドアをノックして開ける。


 そこには初老のたくましい男性が豪華なデスクに腰掛けていた、ギルドマスターのグローストークだ、来客用のソファにはSランクパーティの

『闇の閃光』の一団が座っている、男3人女2人のパーティである。


「マリッサどうした? 息を切りながらあわてて……」


「ご談笑の途中申し訳ありません……わたくし一世一代のお願いがあります……」


 満足そうな顔をしながら、マスター室を出て行くマリッサを見ながら、『闇の閃光』の一人が「グローストークの旦那、試験なんか約束していいのか? 決まり事を崩して例外を認めるはまずいのでは?」


「マリッサがあそこまで懇願するような逸材だ! すぐにでも見たくなってな、ただし……エルフなのが気に食わん、使えるようなら利用するし、駄目なら潰す! ちょうど今2階にいる教官は元Aランクの剣豪クラークと現役を務めながら教官も兼務している魔法使いのイレーナがいる、あの二人をぶつける」


「ははは! 旦那も人が悪いな……試験は本来教官一人なのに……せいぜいエルフ兄妹が再起不能にならないように見守るか」


 一方、マリッサを待っていたエルフ兄妹は、戻ってきた彼女から「試験してくれることになったわ! ただし条件が……教官も同じ2人を用意するって……」


「大丈夫だ! 試験を受けられるように取り計らい感謝する」


「わかりましたわ、ではギルド構内にある広場で1時間後に試験開始よ!」


 広場には何事かとC級やB級の冒険者達で人だかりが出来始めていた。


「B級昇格試験やるみたいよ、それにしても物々しいな! ギャラリーにギルド長や、Sランクの『闇の閃光』がいるし、他にもAランクパーティ達もいるぞ!」


「なにせEランクからの飛び級試験らしいからな、試験官も一人じゃなくて、あの剣の達人クラークと有名な魔法使いの名手イレーナの二人らしい!」


「そんなの試験じゃなくて、虐殺されてしまうじゃない! あんなに美しいエルフの二人が可哀想よ……」


 広場の真ん中に佇むルーク、アリシアに近づいて行くのは少し年は老けたが185センチの身長と鍛え抜かれた筋肉を持つ剣士クラークと、派手なドレスを着た30才なかばの美貌の魔法使いイレーナであった。


「イレーナ! 殺さない程度で加減してやれよ!

ギルド長は本気でやれって言ってたが、さすがに本気をだすのはまずいだろ!」


「当然ですわよ! Eランクの素人相手に駆り出されるなんて失礼ですわ、さっさと終わらせてシャワー浴びたいのですわ」


 不敵に微笑む二人が近づいて来るのを見ながら、「アリシア! やっとエルフの強さを披露出来そうだ、楽しみだな!」


「Aランク冒険者の強さを確かめられるな、ワクワクして来たぞ兄者!」


さてエルフ兄妹の運命は……。

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