第35話決着! アスタロト戦……そして
アリシアの生還が起こり歓喜に包まれた晃達であったが、アスタロトが復活したため、レイドパーティーを組み直すために、一旦戦略的撤退を行う事となったのである。
「最下層であるここまで進んでこれるパーティーなら神官や賢者などの上級者ヒーラーを組み込んでいるはず、ヒーラーの支援を受けながらなら、充分にアスタロトと互角以上に渡り合えるよ!」
晃の指示通りにアリシアを真ん中に、沙羅、葵、桜が後退を始めた。
アスタロトが恐ろしい表情になり、「エルフの女剣士よ逃げる気か!」
晃とルークがアスタロトの前に立ちはだかり、「お前の相手は俺たちだ!」
「お前らには用はない! この俺様を半死まで追い詰めたあの女剣士だけは必ず、復讐してやる。
邪魔だどけ!」
「どけろって言われてどけるわけないだろ!」
晃は妖刀イザナギ改で、ルークは至近距離からの魔法弓で攻撃をする。
魔剣グラムが晃の剣を受け止め、猛反撃して来る、「防御に徹すれば、奴の攻撃は凌げる!」
晃の掛け声に、ルークも「おう!」と応じる。
「ならばお前達を排除してからあの女剣士を屠るとするか!」アスタロトのオーラが強くなり、「ダークニードル!」無数の闇の針が晃とルークを襲う!
「土の精霊よ……ロックウォール!」
ルークがすかさず土属性魔法である岩の壁を出現させダークニードルを防いだ!
「晃、お前だけなら俺が防いでやる、攻撃を続けるんだ!」
「ありがとうルーク!」
そして晃は沙羅達を見やる、敵に背中を見せずに後退するよう命じているので遅めだが、校庭大の広さの最下層の半分は遠ざかっている、あと5分頑張れば彼女達は無事脱出出来そうだ。
「もうひと踏ん張り頑張れば彼女達の脱出が無事成功する」晃が鋭い突きをアスタロトに繰り出しながら叫んだ。
「させるか! ダークフレアボム!」
アスタロトが焦り気味に闇の爆弾を放つと、
またもやルークが瞬時に
「その技も見ているからな、ロックウォール!」
岩の壁が阻んで爆発が起こった……。
壁に守られた晃が、
「サンキュー! ルーク、完璧な防御だな、あと少しだ……」
その時! けたたましい音響と共にルークが展開していたロックウォールが破壊された……。
魔剣グラムの必殺スキルだ! 破壊された隙間からアスタロトが恐ろしい表情で「お前達だけにしてはよく頑張ったな! それもここまでだ!
闇に集いし我が眷属達よ……ダークミスト!
……ダークパインド!」
闇の霧が晃とルークの視界を奪い!
さらに闇の緊縛に拘束されてしまう……。
ルークが悔しそうに「チクショウ! ここに来て、違う技を使われると対応が間に合わん!」
勝ち誇った表情に変わったアスタロトが「はははは! とっておきは最後まで取って置くものさ! エルフの女剣士を追わせて頂こう!」とセリフを残し全力疾走で沙羅達を追いかけ始めた!
暗闇と身体全体が痺れて身動きが取れない状態で晃が絶叫する「アリシアー! 全力で逃げろー!」
後退しながら物凄い速さでアスタロトが迫ってくるのを確認した沙羅は「アリシアさん逃げて!
私達が食い止めるから! 扉まであと50メートルよ!」
「お前達を残して、私だけ逃げる訳にはいかない……私も戦う!」アリシアが叫ぶ。
葵が「それは間違ってましてよ、奴の狙いはアリシアさんですから、あなたが逃げることが勝ちに繋がるのですわ!」
「わかった……任せた!」
そこにアスタロトが出現!
沙羅、葵、桜の3人が立ちはだかる……。
「ザコどもに用はない! エルフの女剣士だけだ! 闇に集いし我が眷属達よ……ダークミスト!」
闇の霧に対し桜がすかさず閃光玉を投げつけ無効化させる「ナイス! 桜ちゃん」沙羅が掛け声をかける。
一方、晃は闇の中で音だけを頼りにアスタロトや沙羅達のいる方向に痺れた身体に鞭を入れながら移動していた……。
時間と共に視界が開け、身体が自由になり始め、晃の眼前には……。
アスタロトに次々と蹂躙されて行く沙羅達の
姿が映ったのである。
アスタロトの爆裂魔法に吹き飛ばされる葵……
闇の針で足を貫かれた沙羅……アスタロトの強烈な蹴りを腹部に浴びて前のめりに倒れる桜……。
彼女達がいくらLV55まで急成長したとはいえ、レイドを組まなきゃ倒せないような強力な敵とは相手になる訳がない、という現実を直視せざるを得なかった。
そして、アスタロトの魔剣グラムが扉まであと5メートルに迫っているアリシアの背中に向けて振り下ろされ、必殺スキルの刃が8本放たれ高速で向かっていった!
「アリシアよけろ!」晃が叫ぶ!
アリシアが振り向きとっさにジャンプをしてさけようとするが間に合いそうもない……。
アリシアの表情があきらめのそれに変わった……。
と、その時! コタローが母ちゃんを守ろうとアリシアの前に飛び出して来た!
ルークが首につけて繋いでいた紐を食いちぎったのであろう……。
「コタロー危ない!」アリシアが叫ぶと同時にコタローの首輪に変身してた金属甲虫達が分離、十数匹が犠牲になりながらも魔剣グラムの刃カッターを次々と防いで行った!
しかし、7本目までは防いだが8本目がアリシアに……。
鮮血を撒き散らしながらアリシアの剣を持った右腕が切断された……。
「アリシアー!」頭の中が真っ白になりながら
晃は叫んだ!
アリシアは痛みの為か、右腕を抑えてうずくまっている。
アスタロトが「腕だけだったか……まあいい、ゆっくり仕留めてやる!」
とアリシアに向けて歩き始めた。
「貴様よくもアリシアの腕を! 許さんぞ!」
鬼気迫る形相のルークがアリシアの剣を拾いあげアスタロトに斬りかかった!
魔剣グラムで受け太刀をするアスタロト、激昂状態であるルークの攻撃が凄まじく、ひたすら受けに回っている。
「明らかに剣の腕は素人だが、凄まじい攻めだな
あの女剣士は身内ってとこか? ふふ、力尽きるまで待つか……」余裕の笑みを浮かべたアスタロトがルークの剣をさばいている。
やっと起き上がった桜は「アリシアさんにヒーリングをかけなきゃ」たどたどしい足取りでアリシアに近づき、ヒーリング魔法をかけて行く。
沙羅も葵もアリシアに付き添い興奮しているコタローをなでながら「大丈夫、母ちゃんは桜がヒーリングで治すからね……」アリシアは痛みで気を失ったようだ。
晃は呆然自失の状態で突っ立ったまま、それらの出来事をただ眺めていた……。
そして理解していた、腕の切断……すなわち身体の部位欠損は神官や賢者などが習得出来る上級ヒーリング魔法でしか治癒出来ないことを……。
晃や桜の使える中級のヒーリング魔法では決して治癒が出来ない。
もちろん中級ヒーリング魔法で傷口や出血を防ぐことは可能なので命には別状ないだろう……。
しかしアリシアはこれからのエルフの長い人生を隻腕で生きていかなければならなくなるだろう……。
晃は涙を流しながら憤怒した、アスタロトへの怒りとまた己が自身の楽観的な性格から生じた今回の出来事に……。
ダンジョンを攻略することを決めた時点で、神官を雇うとか、いくらでも先を見通すことで今回のような事態を回避することは出来たはずであった。
晃の中で後悔からの自身への怒りとアスタロトへの怒りが融合し渦巻き、黒いオーラが晃の周りから発生し始めた。
「いいぞ、その憤怒の感情じゃよ!」
突然、晃の耳に直接老人の声が伝わって来た……。「だれ? デスマーリン?」
「そうじゃわしじゃ! 小僧、その強い負の感情状態なら闇属性魔法を使えるわい! お前達に最後わしが使おうとした殲滅魔法ダークネスダウンフォールなら奴を抹殺出来るはずじゃ! あれはわしの魔法研究の集大成じゃからな! 今のお前の憤怒の感情を右手に集めるんじゃ! 詠唱もいらん!」
晃は言われた通りに、憤怒の感情を右手に集中した……右手の掌の上に黒い球体が形成されて行く、サッカーボール大になったところで……。
デスマーリンから「奴ひとりを殲滅させるなら充分な大きさじゃ! ただしそのまま投擲しても奴に簡単にかわされて終わりじゃ! あとは小僧の持ち味を最大限に生かして奴にぶつけるのじゃ! ではさらばじゃ!」
「……」僕の最大の持ち味? 晃はじっと考えた……最近の強敵達に凌駕され続けて忘れていた! このハンティングワールドオンラインに於いて晃がプレイヤーの中での絶対的な優位性とは?
そうだ、スピードだ! 疾風のアキラのアダ名は何故つけられたか! 何のために敏捷性、回避力ばかりにポイントを振り分けて来たんだ? 全プレイヤーの中で最速なのは僕だ!
アスタロトを見やる、ルークが狂気の猛攻撃を依然続けていたが、かなり体力を消耗しており、息を切らせ始めている。
「チクショウ……チクショウ」ルークが悔しそうにつぶやく。
晃はウインドウォールを下半身に纏い素早く動きながら、「分身の術」を唱えた。
3人の晃がアスタロトに迅速に襲いかかる、アスタロトは「ふふふ、ヒューマンのガキめ、また幻術か同じ手に2度もやられん、ダークニードル!」闇の針が3人の晃を同時攻撃する。
ガキッと音がした、「ふははは! 手応えあったぞ本体はそこだ!」3人の晃のうちの1人に魔剣グラムで斬りつけた。
一刀両断にされたのは大理石の柱の欠片であった。
「なにぃ!」アスタロトが叫んだ!
「空蝉の術さ」背後からずっとアスタロトの隙を伺っていた晃が真っ直ぐ突っ込んで振り返ったアスタロトの顔面にダークネスダウンフォールの黒い魔球を叩き込んだ!
「な、なんだこの魔法は、身体の中から崩壊が……! うああああぁ!」
アスタロトの身体が爆発をおこし、最後は光るポリゴンに変わって行った!
アナウンスが流れた「初めて単体パーティーでダンジョンクリアされました。この場の全員に『ダンジョンを制した覇者』及び『悪魔の天敵』
の称号を授けます。
そして、宝物庫への扉が解除されました」
ルークが近づいて来てグータッチをして来た。「ついにやっつけたな」
「アリシアのことはすまない」
「晃、お前が謝ることないさ、こうなることはあいつの宿命だったのさ……」
そして重い足取りでアリシア達に近づく。
さふ
アリシアはヒーリング魔法により、止血された麻酔状態で横たわっている、切断された右腕はその横に置いてある。
そして取り囲むように沙羅、葵、桜、コタローが見守っている。
桜が泣きじゃくりながら「晃お師匠、ヒーリング魔法ずっとかけ続けてるけど、アリシアさんの腕が繋がらないよぅぅ……ひっく」
葵も眼を真っ赤にしながら「晃君ならなんとか出来ますよね?」
晃がポツリとつぶやく「それが僕の中級ヒーリング魔法では桜と変わらない効果しか出せないんだ」
同様に眼を真っ赤にした沙羅が「それならすぐに、上級ヒーリング魔法覚えなさいよ、さっきの戦闘でスキルポイントもらえたでしょ?」
「残念ながら、上級ヒーリング魔法覚えるには、神官か賢者に転職してLV50以上にならないと……ん、待てよ……」
思い出すんだ……このゲームのチーフプロデューサーが何て言ってたかを……。
確か〈新しい魔法を創造することができる〉と。
現代医学では切断された腕や足を手術でもと通りに出来るという!
そうだ手術を魔法でやればいいんだ!
「やれるだけやってみる、みんなは火魔法で周りを明るくしてくれ! 桜は引き続きヒーリング魔法をかけ続けてくれ!」
沙羅がうれしそうに「さすが晃君、そうこなくっちゃ!」
コタローも周りの空気が変わったので「ワン!」
と張り切る。
みんなが見守る中、晃はアリシアの右腕を持ち
切断面同士を近づける、もちろん高校生の晃に医学の知識などあるわけもない。
でも記憶をたどって思いだすのだ……名作アニメのBJ先生の手術シーンや江戸時代にタイムスリップした現代医のマンガの手術シーンを……。
縫合だ! そして晃は頭の中でひたすら糸を思い浮かべる、すると金色の細い糸が浮かび上がる
そして切断面同士をひたすら血管から細かく正確に縫合していく。魔法の糸なので思い浮かべたところに正確に入って行った!
それから1時間が経過しただろうか……。
ヒーリング魔法を桜と晃が縫合されたアリシアの腕にかけ続け、治癒速度を加速させている。
そしてアリシアの眼が覚める、悲しげに自分の右腕を見て眼を大きく開いた!
「え! 私の右腕斬られたのでは?」
沙羅がにっこりしながら「晃君が治してくれたのよ! 動かしてみて」
アリシアが右腕を動かす!
「動くぞ! 痛くもない!」
そして立ち上がり剣を抜きビュンと振り下ろした。
「前と変わらない、完全に治ってる!」
「やったー!」沙羅、葵、桜が笑顔でアリシアに抱きついた!
その時アナウンスが晃に向かって流れた、「近代オペレーション魔法が創造されました。『超高校級の闇医者』の称号が授与されました」
「闇医者だってよ」苦笑いしながら晃がいうと、
沙羅が「医師免許無しで手術なんて勝手にするからよ!」
「お前が言うか?」コツンと沙羅の頭にグータッチ。
「ちょ! キャハハ!」
「はははは!」
「ワン! ワン!」
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