第23話コタロー風呂初体験
翌朝ログインした桜は、顔に何か異質なものを感じていた……。
温かみがあり、それでいて愛情を感じる、それでいてかなりウザイ……ペロペロペロペロ。
ん? ペロペロ……目を開けるとコタローが桜の顔を舐めていた。
「はははは! 桜もコタローの朝の顔舐め攻撃を食らったか、俺もアリシアも飛び起きたわ、ははは!」
「ニワトリの鳴き声の10倍は効果的だったぞ」
アリシアが楽しそうに言う。
しかしニワトリの鳴き声が目覚ましがわりとか、どんだけスローライフしてるのだ、エルフの里恐るべし……。
「おはようでござる! ルークさん、アリシアさん、コタロー!」
桜が目覚めて挨拶すると、コタローがプルプル尻尾を振りながら
「ワン!」
今度は前足を伸ばしながらお尻を突き出し伸びを始めた。
「今度はストレッチ運動であるか野生動物は理にかなった事をするでござるな」
「そうだな朝の柔軟は大切だ!」
桜もルーク、アリシア達もストレッチを始めた、
てか! エルフの2人……180度開脚とかストレッチの領域を超えた、準備運動に変わっている……、さすが戦闘民族、いつでもMAXな動きができるように備えていた。
桜もコタローも口を開けてしばらくポカンとしていたが、果敢にも180度開脚をコタローもマネをしようとして足を開こうとする、
「コタローやめといた方がいいでござるよ、無理は良くないでござる」
「ワン!」
コタローもホッとしたようだ! 無理だと分かってたのね、可愛いやつ!
「ニワトリで思い出したけど昨日倒した鳥系の魔獣がタマゴをドロップしていたみたいでござる、先程気がついたでござるよ、タマゴ料理をつくるでござる」
「そうかタマゴがあったか! それは楽しみだのう、スクランブルもオムレツも好きだぞ」アリシアがストレッチ中断、
「問題は調理具がないでござるよ」
「まかせろ!」
ルークが土魔法で器用に土鍋と土台を作り上げた、桜はファイヤの魔法を使い、目玉焼き、スクランブルエッグ、オムレツを作り、塩、コショウで味付けした。
「はい、ルークさん、アリシアさん、コタローおあがりよ!」
「いただきまーす!」
「ワン!」
ルークが「桜よくぞ、塩、コショウを持っていたな、美味しいぞ!」
「ワン!」
「お師匠の教えで、もしダンジョンの罠にかかり一人だけになっても、塩、コショウがあればモンスターの肉を食べてサバイバル可能だと言ってたでござるよ!」
「そういえば昨日倒した魔物達、肉はドロップしなかったのか?」アリシアの問いに、
「今アイテムBOXの中覗いてるけど、Gの茶羽、Gの脚、スパイダーの脚、蜂の羽とかしかないでござる」
「げー! Gの茶羽や脚とかいらんわ!」
ルークが「はははは! 昨日やっつけた魔物は大型昆虫がほとんどだったからな! 」
コタローは味付けなしのスクランブルエッグに顔を突っ込みながら、尻尾をプルプルさせながら夢中になって食べている。
晃から通話が入った「先程、沙羅、葵と合流した。これから2人を最速で連れて行く。3時間もあれば充分だ、楽勝、楽勝! 待っててくれ!」
「大丈夫でござるか? 待ってるでござる!」
足元には満足気なコタローがスリスリしていた。
「美味しかったでござるか?」
「ワン!」
ルークが「晃達を待ってる間は風呂でも入るか!」
「それはいいでござるよ! 水着でコタローも入れて家族風呂でござるよ!」
「ワン!」
さっそくルークが土魔法で湯船を作り、アリシアが水を入れていく、そして3人のファイアで温めて完成。
水着に着替えた3人は風呂に飛び込む、コタローが「ワン! ワン!」と吠えながら怖くて入れない……。
桜が抱きかかえてコタローを入れようとする、
入れる前から水かきし始めている。
アリシアが「かわいい!」
「教える前から完璧な犬かきだな、野生の本能はすごいな!」
湯船に浸かって落ち着いたコタローも顔が満足気である。
「親子風呂は良いものでござる!」
「ワン!」
一方自信満々で最速到達を目指す晃、沙羅、葵チームは……。
「ぎゃあああああ! 巨大G怖いよー」
晃が葵さんの大楯の後ろで青ざめながら丸くなっていた。
「晃くんしっかりしなさいよ!」
「ほほほほ! たかがGごとき、情けないのですわ」
3体の巨大Gを沙羅と葵がやっつけていた。
晃には幼少時代のトラウマがあった、母親の真似をしてスリッパを持って壁際までGを追い詰めていったところまでは良かったが、壁から自分に向かって飛んできて、顔に止まり鼻をかじられたという。身の毛も逆立つような、恐ろしい経験を持っていた。
逆に女性陣は普段のおしとやかさなどGの前には不要とばかりに、闘争本能全開でGを叩きのめしていた。
「ほほほほ! Gの前だけはお嬢様ぶってはいけませんと教えられて来ましたの! 1匹を見逃すと10匹は子供を産んで……」と葵が言うと、沙羅も追随してきた。
「私も生命に対して慈しみのマリア様の精神を持ってるけどGだけは例外よ! 本能的に叩き潰すわ!」
どこのマリアさんだか知らんが怖い物は怖い……。
と! その時20体はあろう巨大Gが晃達に襲いかかる。
「かなり多いわね!」
沙羅がロンギヌスの槍で突きを入れる!
「あらあら! 多すぎですわね!」
葵もエクスカリバーで切り刻む!
が……しかし、15体はすり抜けて腰の抜けた状態の晃に向かって突進してきた!
「まじかよ! Gに殺される……怖い……風の精霊よ疾風の刃で殲滅せよ!」
晃が得意とする風属性の中級魔法カマイタチが巨大Gに炸裂するものの、残り10体が晃に接近!
パニック状態の晃に襲いかかる!
「ぎゃああああああ! カマイタチ、カマイタチ、ファイヤー! カマイタチ!ファイヤー!」
カマイタチやら覚えたてのファイアやらをGに少しかじられ、わめきながら連発していたその時!
強力な炎の刃が誕生! Gを切り刻みながら焼き上げて行ったのである! アナウンスが流れた「風属性魔法と火属性魔法の混成新上級魔法が生成されました、発明者には命名権がございます」
それを聞いた晃は「ファイヤーカッターとかじゃあ、ありきたりだしなぁ、獄炎斬でよろしくお願いします」
「獄炎斬で受理しました」
沙羅達が駆け寄って来た。
「さすが晃君ね! 厨二病っぽいネーミングセンスね! キャハ!」
「おほほほ! 少しはGに対して耐性出来ましたかしら?」
「まっかせなさい! この獄炎斬さえあれば殺虫スプレーを持ってるような安心感があるよ!」
「あらあら、さっきまでの怯えようが嘘みたいですわね!」
かくして先頭に戻った晃は次々に襲いかかる巨大G、ジャイアントスパイダー、などに爆炎斬を試し打ちして行く、獄炎斬のイメージを持てば、目の前に
「風火の精霊に命ずる、敵を炎と風の刃を以って切りきざめ!」の呪文と魔方陣が浮かびあがり
呪文を唱えても、魔方陣を指でたどっても発動するようだ。
前にソロで魔族のエリアボスを倒した時にドロップしたキャストタイム短縮効果を持つロッドを所持していたので試してみると、呪文の前半簡略、魔方陣の円簡略などの恩恵があって使いやすい。
そして勢いよく進んでいき、桜達が待つ小屋へとたどり着いたのであった!
「お待たせー!」と勢いよくドアを開けた晃を迎えたのはコタローのお風呂上がりのプルプル水飛ばし攻撃であった。
「へ!?」
「結構速かったな! 2度目の家族風呂を堪能してたところだ! ははは!」
「このモフモフ子犬かわいい!」
さっそく沙羅と葵が撫で回している。
桜が「新しい家族でござるよ!」
犬好きの晃も撫でたいのをグッと我慢して、桜に質問をした。
「そいつの面倒を一生見る覚悟はあるのか? 一時だけの可愛さだけに……」
桜がすかさず「さすがお師匠! お父様と同じ事を言うでござるな! 桜にもし将来、好きな人が出来て結婚したくなっても、その人が犬嫌いなら諦めるくらいの覚悟を持ってコタローを拾ったでござる。まぁ、その前にルークさんとアリシアさんが責任を持って飼うと言ってくれたのでござるがな! はは」
アリシアが「コタローの母親が私で、ルークが父親、桜がお姉さんなのだ!」
葵がうれしそうに「と言うことは桜の姉である私も家族ですわね、ほほほほ!」とコタローを撫で回す。「ワン!」
「もちろんでござるよ! 沙羅姉も身内みたいなもんだから親戚でござるよ」
沙羅もうれしそうに「静岡のいとこの沙羅よ、よろしくね!」と撫で回す。
「ワン!」
話の輪に入れない晃が焦って「僕は?」
「友人Aってところでござるかな!」
「えー! なんか寂しいな、まっいっか! 静岡の友人Aの晃だよー!」
晃の家庭は代々トイプードルを飼っており〔現在は両親が赴任先の台湾に連れて行ってるが〕犬とは一緒に育てられたようなもので、仲良くなるスキルは誰にも負けない自信があった。ふふふ!
コタローに近づき、まず耳の後ろを撫でて気持ち良くさせ、背中をマッサージしながら撫でてゴロンとさせて、今度はお腹のマッサージのコンボ技ですっかり虜にした。
さらにゴブリンがドロップした骨を取り出し、噛ませてからビーフジャーキーと交換、そして骨を投げるとあら不思議、本能で骨を拾いに行く。
しかも尻尾プルプルプルプル楽しそうだ!
「ちょ! 晃君、友人Aのくせに家族や身内を差し置いてコタローと仲良しになってるのよ! その骨渡しなさい!」
「はいはい! じゃあみんなの昼食作るね!」
コタローとの骨遊びはルーク、アリシア、桜、葵、沙羅と代わる代わる行われたのでありました。
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