第20話桜の重大発表 晃の決心
ハンティングワールドオンラインは新たにバージョンアップを行い、魔法廻りにおける変革がなされた。
ゲームプラス編集長岩田氏による、ハンティングワールドオンラインのチーフプロデューサー山本氏へのインタビューはさらに続く。
ルークが「このヤマモトとか言う男、さっきから新しい魔法は自分が創造したかのように言ってるが強いのか?」
なんと言ってもこのゲームの創造主だからな、神と答えるのが近いところではあるが、そのまま答えるとルークやアリシアが自我崩壊を起こしかねん。
僕だっていきなり、今までの人生は作り物で君はサーバーの中に作られたモブキャラのひとつだよ、記憶は全て虚構なんだよ……なんて言われたら、自分の気が狂うか、言った奴を精神異常者扱いするだろう。
エルフの精神病院にはやはりエルフの女性看護士さんとかいるのかな? などと後ろ髪を引かれながら、
「僕達アース大陸の将軍ですね」
と無難に答えておいた。
「で、具体的な魔法に関しての説明に移ります、一部の方は気付いてるかもしれませんが、例えば水を想像するだけでクリエイトウォーターが出来ます。脳波にあるイメージをVR機器が拾ってくれるのです。生活魔法くらいならMPさえあれば誰でも出来るようになります。ただしクリエイトウォーターのままでは水鉄砲と同じで魔物やモンスターに当てても、なんのダメージも与えらません。さらに水を圧縮して放出するイメージが持てばウォーターカッターとして初めて相手にダメージを負わすことができます。そのイメージの具現化の手助けを、魔法詠唱なり魔方陣を指先で描くなりをすることで可能にします。話だけを聞いてると以前のやり方の魔法名のボタンを押すだけの方が簡単に思えますが、一度覚えた魔法は思い浮かべると詠唱呪文や魔方陣が目の前に現れるので、練習次第でキャストタイムを短縮したり、詠唱と魔方陣で多重魔法を瞬時に操れるようになります。そしてここからがポイントですが、イメージ次第では全く新しいオリジナル魔法も生み出すことも可能になりました」
「それはワクワクする試みですね、しかしそうなると魔法職の方はこれから楽しみが増えますが、物理攻撃職一筋でやってきたプレイヤーからすればあまり面白い話ではないのでは?」
「最初にも言いましたが、最初からこのゲームを他のゲームのようにアイコンを押して魔法が発動するよう物とは一線を画したかったのが本当の理想だったのです。バージョンアップによりやっと理想に近づけたかなと……。要するに物理攻撃職の人にも魔法の楽しさを体験してもらいたい訳なんですよ。ですから今までは、剣士に対して魔法剣士、槍士(ランサー)に対し魔法槍士、タンカーに対しガーディアンなどの今まで身に付けた身体能力を損なうことなく魔法が使える上級職を用意してましたが、それでは一部の方しか恩恵が得られないことも考慮して全ての物理職に魔法上級職を加えました、例えば魔法侍、魔法アサシン、魔法忍者、魔法重戦士など、ですから皆さん魔法を楽しんで下さい」
「おー!」
「マジか、スゲー!」
いつの間にか、温泉にいた50名の冒険者達全員が同じ動画を見ており、あちこちから大歓声が湧き上がっていた。
沙羅達が「私はランサーだからウィザードランサーに早速転職しなきゃ」
「わたくしはガーディアンですわね、ほほほほ!」
「すぐにでも魔法忍者に転職するでござる」
晃が「こういうのは掲示板で転職した連中の様子を伺ってから……」
「転職したでござる」
「私も!」
「わたくしもですわ」
やはり女子達は魔女っ子に憧れていたのね、仕方ない……。
「ええい、ままよ! プロデューサーがあそこまで推すんだから乗り遅れたくない! 僕も思い切って魔法忍者に転職してやる」
晃もポチっと転職ボタンを押してみた。
湧き上がるパワー……とかは感じなかったが、職業欄が魔法忍者に変わっている。ステータスを見る限り、忍者の頃のステータスを継いでいるようだ、MPは増えている、その代わり魔法忍者LV97と忍者の時のレベルのままだ、上級職転職の特徴である。普通の転職はスキルはそのまま残せる代わりに、LV1からやり直しになるので体力等が大幅に下がってしまう。低レベルなだけにレベル上げはしやすいとはいえ、97まで上げるには数ヶ月はかかるだろう、ただし、いいことばかりではない、レベルがそのままなため上がりづらいわけで、本来レベルアップ時にもらえるポイント稼ぎが出来ないので魔法や新職業スキルを覚えるには値段の張る魔法の書や秘伝書を購入しなきゃならない。ただし今回のバージョンアップで魔法は自分で作れるようになったみたいなので楽しみだ……。
あともうひとつ心配であったハンティングワールドランキングを覗く……晃は7位のままであることを確認してほっと胸をなでおろした。
むしゃくしゃしてやった……今は後悔している、とならずに済んで良かった。
とその時、晃の顔に冷水がかかる
「ひょえー!」変なリアクションしてしまった。
沙羅がイタズラ顔をしながら、「キャハハ! クリエイトウォーターよ」
桜と葵は手のひらに炎を宿している、
「それを人にぶつけるのはやめましょうねー」
晃が恐る恐る言うと、
「あらあら失礼ですわね、そんなことしませんわよ、ほほほほ、それよりこの生活魔法を使ってわたくし達、龍ヶ崎姉妹が料理を作りますわ」
「そうでござる」
大丈夫かなーと思いつつ、
「このままだとのぼせるのでキャンプに戻りましょう!」
「はーい!」
千花さん達が「ルークさん行ってしまうのー! なんならニート兄弟とトレードしても良いわよ!」
村の兄弟が「姐さんそれはないすよー!」
「冗談に決まってるじゃない! 貴方達を立派な大物に鍛えるからね!
それじゃあ皆んな頑張ってねー」
と見送られ温泉をあとにした。風呂上がりはやはり皆んな浴衣姿になり、キャンプ地に戻ってきた晃達であった。
龍ヶ崎姉妹が夕食の準備を始めていたので晃が
「なにをご馳走してくれるの? お嬢様達、食事を作った経験はあるの?」
「カレーですわ、もちろん龍ヶ崎家には優秀な専属料理人やメイド7人衆もいますので、私達キッチンに立つのは初めてですわ、しかし桜のVR熟練のために、晃君や沙羅ちゃんルークさんやアリシアさんみんなに毎日楽しい経験をさせて頂いて、なにか感謝の気持ちを……と思いまして、それに料理なんて3Dレシピ動画にそって作るだけですから余裕でございますわ、おほほほほほ!」
「桜からも感謝の印でござるよ、あと料理は隠し味が決め手でござるよ!」
あー……なんか! 既に初めての死亡フラグが建ってるような、まさか料理で建つとは思わんかった、初めての料理に隠し味がどうのこうのってのはまさしくやばい……。
龍ヶ崎姉妹は野菜カットから始めたようだ、感知スキルをMAXにして見守る。あまり露骨に見ると姑みたいでお嬢様達のプライドを傷付けかねない、しかし彼女達が左手をパーに大きく開いて野菜カット始めた……いつ指が落ちてもおかしくない。瞬足の忍者スキルで接近、さりげない様に装い、「あー! お姉様方、左手はグーにした方が安全ですよー!」
「あら晃君、確かに理にかなってますわね、ほほほほほ!」なんとかプライドを傷付けずに済んだようである。
あとは人参、玉ねぎ、肉のカットは大振りだがまあ良しとしよう、逆にじゃがいもは皮剥きが大雑把で、原型の半分くらいになってしまって勿体無いが、まあそれを指摘する程野暮じゃない!
晃がダンジョンに入ってから最難関の緊張感を味わっているのを尻目に、沙羅はルーク、アリシアから生活魔法を教わって雪玉をつくり、
「ちょ! キャハハハハ!」
「沙羅、私の番だそれっ!」
「痛っ! 当てやがったな、ははは!」
季節はずれの雪合戦を楽しんでいるようである。
桜が「姉ちゃんご飯炊くよー!」と覚えたての生活火魔法で薪に火を着け! 最大火力で炊いていく……ご飯のおこげならまだしも炭化しそう……。
大ジャンプで桜の横に飛んでいく。
「晃お師匠、どうしたでござるか?」
「はーじめちょろちょろ中ぱっぱ、じゅうじゅう吹いたら火を引いて……って歌知らない?」
「その歌ならおばあちゃんが良く歌ってたでござるよ! なんの歌でござるか?」
「ごはんがおいしく炊ける歌だよ!」
「さすがお師匠! 参考になるでござる」
葵さんがカットした野菜や肉を鍋に入れて沸騰させた後、カレースパイスを適量に入れ始めた。
晃はほっと胸をなでおろしていた、これでアニメによく出てくる、紫色の得体のしれない液体を食わされる羽目にはならないだろう。
その時桜が「姉ちゃん隠し味のりんごとハチミツいれるでござる」……りんごは6分の1カットされたまま、ハチミツはハートマークで……。
隠し味が原型を留めてどうする……。
さらに桜が「間食用に持ってきた、チョコレートも入れるでござるか?」
「あらあら、美味しそうですわね!」
やばい! 疾風の如く再度出現した晃は、桜の手からチョコレートを奪い、
「ちょうど小腹が空いてたのだよ! チョコレートありがとう!」
桜も「お師匠、食事前の間食は良くないでござるよ!」
「すまない! お詫びに鍋番するから、君達も沙羅さん達と雪合戦してきたら?」
「そうですわね! あとはカレー煮込んだら完成なだけですわね! 晃君、焦げ付かないようによろしくですわ」
と龍ヶ崎姉妹が雪合戦に加わっていくのを見届けた後、りんごをイザナギの20連撃でペースト状態にした後、ヨーグルトと牛乳を混ぜてインドの飲料ラッシーを作り隠し味として投入、まろやかさを増す。さらに本みりん、赤ワインを投入し、コクと酸味を与えて行く。
そろそろ出来あがりそうなタイミングで龍ヶ崎姉妹が戻って来たのでバトンタッチした。
彼女達が慣れぬ手付きで装うのを見守りながら、
「ドリンク用意するね」
「よろしくですわ」
さっきのラッシーとエルフ用のビールを用意してテーブルに置いて行った。
準備も整い「カンパーイ!」
晃や沙羅の自宅にも、龍ヶ崎姉妹の作り方を再現して、龍ヶ崎グループセンターキッチン静岡支部のコンピュータが製造した具の大きめカレーが宅配されて来た。ごはんのおこげ部分まで完璧に再現されている。
みんなで龍ヶ崎姉妹カレーを食べる、アリシアが「これがアニメに良く登場してくるカレーか、初めて食べるがものすごく美味しいぞ」
ルークも「うまい、うまい!」とパクついている。
高校生が作るカレーだけに甘口だったのが初めて食べる人にもうまく作用したようだ。
沙羅も「あなた達やるじゃない! 私も料理やりたくなってきたわ!」
晃が「初めてにしては上出来です。さすがですねー」
葵も桜もドヤ顔しながら、食べている。
少し落ち着いたところで葵が「桜から重大な発表がありますわ!」
桜が立ち上がり「皆さんご存知のように私こと、龍ヶ崎桜はVRでは元気に走り回ってますが、実際の身体は下半身不随で病院のベッドで寝たきりの入院生活を送っているでござる、でもいつかはVR連動したパワーアシスト装置を腰につける事で、何不自由なく下半身が動かせるようになるとの事で、誤動作による事故を無くすためにも、ハンティングワールドの中で身体操作を特訓して来たのでござる……そしてついに、米軍と自衛軍の共同開発であるパワーアシスト装置の民間人への使用許可が夏休み中旬頃には下りることになったでござるよ!」
沙羅が感激しながら「おめでとう! 桜ちゃん」
ルークやアリシアにも俺たちアース大陸の人間は仮の身体でこちらに遠征して来てる、などと作り話を交えて説明済みである、また桜の本体は入院中である事を理解しており、
「おめでとう!」
「良かったな桜!」とお祝いする。
そして晃が立ち上がり近づいて桜の頭を撫でながら「桜おめでとう!」と言うと、うっすらと桜の目から涙がこぼれ落ちた。
「お師匠ありがとう、お師匠のおかげで楽しいゲームライフが送れているでござる」
沙羅が寄ってきて桜と抱き合い涙する、
「桜、辛かったよね! 良く頑張ったよね!」
晃も貰い泣きしながら、一抹の寂しさも感じていた……。
この夢のような1週間と数日、しゃべりかける事すら叶わなかった沙羅や龍ヶ崎姉妹とゲームの中で一緒に楽しく過ごして来た……永遠にこの楽しい日々が続くわけがない事は分かっていたはずである。桜の足がパワーアシスト装置のおかげで自由になるということは、以前の生活に戻るということと同義である。彼女達は以前のようなリア充生活に戻って行くのだろう。今は6月中旬、夏休み中旬の8月中旬まで約2ヶ月……。
晃は改めて決心を固めた、VRゲームがあったからこそ体験出来た、この楽しい夢のような生活……。
いわば〝VRからの贈り物″を残り2ヶ月思い残すことないくらい楽しんでやろうではないか!
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