第19話温泉でほっこり……バージョンアップの謎


 偉大なる魔導師デスマーリンとの魔法対決による死闘をくぐり抜けた風のドラプリ御一行は、21回層の野営地に来ていた。


 この回層も11階層以上の数の夜光虫が高い位置で天井から輝いており、曇り空くらいの明るさである。

 なんと、この21回層野営地の中心には目玉とも言える巨大温泉があり混浴仕様になっていた、運営の粋な計らいに感謝だ!


 とりあえずテントを張ることにした、骨組みを組み立て布を張り、四方にロープを伸ばし巨大なペグは職業タンカーでハンマーを扱える葵さんにお願いする、星7のミスリル、オリハルコン、アダマイトの合金で作られた伝説級ハンマーは一撃で巨大ペグを地面にめり込ませた。


「やっぱ先に風呂だよね! 皆さん行くよー!」


「ちょ! 少し待って!」と沙羅が声を上げる。

「沙羅さん何してんの?」晃の問いに、

「ガチャ引かせてよ、今度アニメのフローラ王国騎士団が実写映画化される事になって、それを記念してハンティングワールドオンラインとのコラボが決まったの、ガチャの目玉が四銃士が愛用している、槍、大剣、弓、メイスなのよー! しかも実写版のランサー『槍戦士』役にタックンが決まったのよ! タックンと同じ武器使いたいのよ!」


「アニメの実写化なんて……はい残念でしたと言う系列にジャンル化してるんですけど」


「晃君、それは間違ってるわ、タックンが髪型を変えてまでオーディションに臨んで勝ち得た配役である作品よ、名作になるに決まってるの!」


「出来レースじゃなきゃいいけどね……役者はタックン確保しました、作品は適当に人気のあるやつ選んどきました、監督お願いします! ただし予算はオーバーしないようにってなパターンじゃないければいいのだが」


「晃君、なんでそんなにネガティブな意見ばかり言うの?」

「経験上ハードルを下げられるだけ下げといた方がまだ楽しめるからね!」

「まあそれも一理あるわね」

「ガチャ何回ぐらい回すの?」

「ダンジョン入ってからレベル15は上がって45になってるからサービスの10連ガチャ15枚は貯まってるわ!」

「150連か?動画撮影させてよ! 爆死ガチャは結構再生稼げるのよ」

「ちょ! 爆死が前提になってるんですけど、なんで爆死ガチャ動画が人気あるの?」


「多分皆、自分の爆死をなぐさめるために見るのだろうな、あっさり当たったら、有料ガチャ促進で儲けたい運営の回し者に違いないってコメントされる」


「まあ、私の名前を出さないなら撮影してもいいけど!見事当ててやるわ!」

 と沙羅の150連ガチャを15分間撮影。


「きゃー! 爆死しました」沙羅が悲しそうに語る。

「ご愁傷様です」晃が慰めたつもりだったが

「ちょ! 晃君……爆死動画を撮れたうれしさを隠しきれないって感じ、ミエミエだよ!」

「イヤイヤ! そんなことないっすよ! 沙羅さん」

 と、その時葵さんが「私がコラボアイテム出るまでガチャ回す企画やりますわ」 

 さっすが葵さんゲームプラス有料会員になってからは、ゲーマーが喜びそうなネタ知ってるな! やはりガチャを回す方はコラボ武器の排出率を推測するべくお金に糸目をつけないガチャ動画も、爆死動画の次に人気である。まあ実際は、あっさり出る時もあれば、何十万つぎ込んでも出ないのがガチャと確率の関係なのだが、昔から外国ではゲームガチャ規制が強く、日本は緩いと言われている。


 その背景には日本には富くじ文化があって、当たることもあれば外れることもあるさと、くじを引くこと自体を楽しむところがあるのかも知れない。だからこそガチャ動画が再生回数を稼げるのかも……。


 アリシアとルークがデスマーリンのロッドを未だに取り合ってるのを尻目に、葵さんのガチャが150を超えて、数万円程さらに課金して回したところでコラボのメイスが当たった。僕ら普通のプレイヤーが充実したゲーム生活を楽しめるのは、こういった廃課金プレイヤーのお陰様なのだ!


「メイスが当たりましたわ! 晃君メイスを装備できる職業ってなにがありますの?」


「メイスはロッドやワンドと同じで、魔法使い、ヒーラー、賢者、ガーディアン、魔法剣士、魔法戦士、魔法弓師とかかな? アリシアさんの職業は魔法剣士になってるから装備できるね!」


「それじゃあ、アリシアさんに差し上げたいのだけど、渡す方法はお有りかしら?」


「そうだな裏でオークションとか行われない様に、プレイヤー同士で武器は渡せないようにはなってるけど、武器販売免許を持ってる岩田さんなどの武器屋を開いているプレイヤーを通じてなら、NPCに対して売れると思うよ」


 それを聞いたアリシアが、うれしそうに兄妹争いをやめて駆けつけて来た「何?

そのメイスを貰えるのか?」

「ダンジョン攻略後になりますけど、それでもよろしければですわ」


「かたじけない! これで兄者と争う必要がなくなった」

ルークもうれしそうに「これでエルフの里ナンバーワン魔法の使い手の座は守られた、兄の威厳と共に……」


「どうせそんなことだろうと思ってたよ、かわいい妹にプレゼントする度量はないのかね?」と晃が囃し立てると、


「群れのボスザルから落ちたやつの成れの果てを知らないのか?」


「えっマジ! エルフって猿山と一緒?」


「基本的には変わらんかもな、はははは!」

「キャハハ!」

「はははは!」

 皆んなでひと通り笑い合った後、


「さーて21階層目玉の混浴温泉へ行きましょう!」

「おー!」


 温泉にたどり着くと建物があって中は水着売り場になっていた、そりゃそうだわな、成人向けゲームになってしまうと僕達高校生は締め出されるから、それは困る。

 ルークと男性水着売り場に入り水着を選ぶ、あまりデザインや柄に無頓着な晃は普通に黒のトランクスを選ぶ……、ルークも「俺も同じでいいや」

と黒のトランクスをつかもうとする。


 その時ふと晃は思った、ルークはイケメンとは言え、実は エルフの田舎で育った純朴な青年なんだなっと……おしゃれやファッションに凝りそうなイケメンなのに、これじゃなんかまるで、礼儀正しくて純朴な昔の韓流スターみたいじゃないか!


 いかんいかん! ルークの株が上がりすぎるのはマズイ、そういやぁ晃はルークをエアタオルや湯沸かし器がわりに使ってたもんな、晃が対称的な腹黒な悪役になりそうで非常にマズイです。

「ルークさんは、僕と違って筋骨たくましいんだから、これがお似合いです」と紫色のブーメランパンツを渡す。これなら似合うかもしれんが、軽い奴に見えるはずで、女子どもはきっとひくに違いない、ふふふ。

「そうか? こういうものは普段はかないからよくわからん、じゃあこれにするか」素直でよろしい。


 着替えて奥に入ると巨大な露店風呂があり、すでに5パーティー程の人数の男女が水着姿で温泉を堪能中であった。


 沙羅達の姿は見当たらない、女子は水着選びとか時間かかりそうだもんね。


 隅の方にある湯船に浸かって温泉を楽しむことにしよう。第四世代のVRともなると、微弱ではあるが脳波コントロールにより、暖かさや冷たさや痛覚などの感覚を認識出来るのだ、第一世代が振動のみの物理要素でしか表現できなかったのに対しかなりの進歩である。


 ルークと湯船に近づいて入ると、6人の25才前後のお姉様方が近づいてきた「キャー! エルフのイケメンよ! しかもすごい筋肉、カッコいいわ!」

「キャー! 筋肉触らせて!」

「なんて素敵なロン毛の白髪なの!」


 瞬く間に女性陣に囲まれたルークは照れながらもまんざらでもなさそうであった……。


「……」晃はそれをポツンと眺めながら、自分の地道な策略などなんの意味をなさないことを思い知ったのであった。まあ、日本の混浴にイタリア人のイケメン俳優が入って来たようなもんだもんな、水着のデザインなど、もはや関係ありませんよね。


 その時沙羅達が登場! 

 アリシアは白のビキニで登場、真っ白な肌にぴったりで素晴らしい、それにデカイ!

 葵は紺のビキニで大人びて見えます、やはりデカイ。

 桜はピンクのワンピース、入院中のせいか、姉に比べると痩せてて小柄に見えるけど、そこはやはり双子やはりデカイ。

 沙羅は真紅のビキニ、すらりとしてて素敵ですよ……。

「ちょ! 晃君、目線が胸の大きさ比べしてるんですけど、レイピア持ってくれば良かった、その目を……」沙羅が笑いながらも目はマジでさらりと恐ろしいことを言い放つ。

「やめてー! 沙羅さんも水着似合ってるって! ホント」


 ルークの状況に気づいた女性陣が、「あらあら、さすがルークさんもてもてですわね、おほほほ」

「兄者のやつ鼻が伸びとるな」

「晃お師匠カヤの外だったのでござるか、ご愁傷様でござる」

「キャハハハ! 晃君それでポツンとひとりで湯船に浸かっていたのね」

「うるさいー!」

 笑いに包まれながら皆んなで風呂に浸かるのは幸せだな……。


 ルークがお姉様方を引き連れて、近くまで移動してきた。


 お姉様方のひとりが「このイケメンエルフさん貴方達のパーティの仲間なの?」

 沙羅が「そうよ! ここに妹さんもいるわよ」

「あらホントだ! 美人の白髪エルフもいますわね、私はリーダーをやっております千花です、よろしくですの!」愛嬌のある感じの方だ。


 葵が「お姉様達、6人のパーティーですの?」

「違うわ、あそこに2人男性がいるでしょう!彼らと8人のパーティー組んでいるのよ」

 指差す方を見ると2人の20才くらいの真面目そうな西洋人が……。視線に気づいてこちらに寄ってきた、ルークやアリシアと同じAIのNPCだな。

「彼らとはどうやって知り合ったんですの?」

「彼らは兄弟でダンジョン近くの村でニートしてたので……」それを聞いたNPCはあわてて、

「ちがいますよ姐さん! 僕たちは村の雑用全般をやっていたフリーターですよ!」

「キャハハ! はいはいフリーターでしたね、彼らが村の近くでウルフの群れに苦戦していたので、助けてあげたら、すっかり懐いてしまって、たまに一緒に狩りをしていると、ダンジョン潜りたいと言ってきたので連れてきた訳ですの」

「ダンジョンで名を挙げて村を出て行って大物になる!」と2人の好青年。しかし大物って、また漠然とした……夢だな。


晃が「でもここまで来てるってことは、かなり皆さんお強いんですね! 20階のフロアボスの魔術師リッチーとか強かったでしょ?」

「あらアイツは楽勝でしたわよ、攻略法通りに全員斧かハンマーが装備できる重戦士かタンカーに一時的に転職して、自己紹介が終わる前にフルポーションを全員でぶつけながら、接近して取り囲んで後は全員斧とハンマーでぶっ叩くだけですもの!」

「ははは! どうりで僕たちがロングレンジの魔法を撃ち合うと喜んでいた訳だ、相当ストレス溜まってたんだろうな」


「え! あんな化け物と魔法勝負したの? その前にアンデッドの群れにまず、皆んな全滅させられるって噂よ! あんた達すごいね!」


「まあ魔法に関してはこのエルフの二人のお陰様だけどね」アリシアとルークがうれしそうにドヤ顔を見せた。


葵が「そういえば先程メールで魔法の術式がとか本能的に魔法がどうのこうの書かれてましたわよね、意味がいまいち理解できなかったのですわ」


千花さんが「文面が分かりづらい内容でしたものね! 魔法使いならわかるかも、カナちゃん来てー!」すると呼ばれた、可愛い系の25才くらいのお姉様が、


「はーい! 魔女っ子のカナでーす。確かにバージョンアップがあったみたい、今までは魔法を使うときは頭で念じると魔法のアイコンが多数現れて例えばファイヤのボタンを押すと魔法発動までのキャストタイムに自動で自分の音声データによる

詠唱がはじまり終わると発動みたいな感じだったのですけど、今は火を心の中で念ずると……」


彼女の手のひらに炎が宿った!


「おおお!」びっくりする晃達に対し、ルークやNPC達が

「それが普通じゃないのか?」と不思議そうだ。


「今回のバージョンアップでMPさえあれば生活魔法くらいなら誰でもできるようになったみたい。そこからはこれからいろいろ試しているところよ」


葵さんが「ゲームプラスの動画に今回のバージョンアップについてのインタビュー動画が配信されてますわ、流しますね」とスクリーンを展開。


あ! 岩田さんだ「ゲームプラス編集長の岩田です。今回はハンティングワールドオンラインのチーフプロデューサー山本氏にお越し頂き、今回のバージョンアップについて語って頂きます。しかし、今回は特に魔法廻りの部分を思い切って変えて来ましたね?」


「本当言うと、2年前にハンティングワールドオンライン立ち上げの時から実装したかった機能だったのですが、お恥ずかしながらプログラムやら何から、なかなか上手くいかずにやっと実装に踏み切れた次第です」


新しい魔法機能とは如何に?

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