第14話沙羅救出作戦 黒ゴスロリドレスの女

 気絶して倒れた沙羅を見下ろしながら、奴隷密売や貴族の誘拐専門の秘密組織クランノストラの3天王のひとりである『黒のシェパード』がつぶやいた。

「防御力20まるでゴミですわね、普通に攻撃していたら殺してしまうところでしたわ……お前達アース大陸の連中は死に戻りや、突然別の場所に転移したりする能力を持っていたかと思えば、1日ずっとピクリとも動かなくなったり、謎が多い。そのためボスからは、アース大陸の冒険者には手を出すな、と命令されているが、私の持つ敵を気絶させるスタンスキルを使えばこいつらも私達の自由ですわね、おほほほ! おーい誰か2人こっちに来て運ぶのを手伝うのですわ」

 2人の西洋人がやって来て、気絶している沙羅を眺めながら

「シェパードの姉さん、この女アース大陸の人間ですぜ、あとあとトラブルになっても知りませんぜ」

「大丈夫さ、責任は私が取る、こんな上玉ほっとけないだろ」


 地下11階階層野営地それは東京ドーム10個分の敷地を持つ広大な草原エリアでエリアボスを倒した後の休憩及び宿泊地として、魔物が入ってこないように結界で守られている冒険者にとっては憩いのエリアと言える。


 ダンジョンに潜ると強力な敵はいるが、倒せばたくさんの貴重なアイテムがドロップする上に、ところどころに宝箱が設置されていることもあり、最近では、一攫千金を狙って王国周辺の街の住民やエルフ、または家名の名声を得ようと貴族などのAIのNPCがダンジョン攻略に乗り出していた。

 それに目をつけたのが奴隷密売や貴族の誘拐専門の秘密組織『クランノストラ』である。

 彼らはこの11階層に目をつけ、一番奥に目立たないように地下建造物を作り、貴族やエルフの誘拐に暗躍していた。貴族は身代金の要求、エルフは奴隷として売却していた。



 一方その頃、ハンティングワールド運営会社のオフィスでは騒ぎが起きていた。「今、プレイヤーの1人が気絶させらた、ログインしたまま気絶させられるなんてあり得ないだろう、どういうことだ? 誰がAIにあんな強力なスタンスキルを授けたのは?」

「ルークがやられた以上、ランカーでもなかなか勝てないようなNPCを創造するように指示したのは部長じゃないですか?」

「もし彼女が気絶したまま明日学校を休んだら、社会的問題になりかねないじゃないか? 彼女はどういう状況に陥ってるんだ?」

「彼女の状態は、操作やログアウトは出来ない状態ですが、VRには本人を気絶させる機能まではないのでHMDを外せば、普通に寝ることも出来るし、学校にもいけますよ、今は第三者視点カメラに切り替わっているので、運ばれている自分を見ながらワクワクしてるのでは?」

「そうかそれなら良いが、しかし何か事故があってはマズイ、俺たち運営の、ガチャを経費で回し放題チートチームで救出した方がよいのでは?」

「今から11階層に潜るには半日はかかりますよ、それより彼女のチームにはランカーのアキラや、NPC最強エルフのルーク、アリシアがいるので任せれば大丈夫ですよ、念のためにアリシアに異変に気付くよう合図を送ります」

「そうか頼んだぞ」


 テントの外が輝いている、あまりの眩しさにアリシアは目をこすりながら目覚めた、となりを見ると龍ヶ崎姉妹が死んでるようにピクリとも動かない、そうかこれがアース大陸の冒険者がログアウトした状態なのだな……そういえば姫宮沙羅がいないなと、思いつつテントの外の謎の光を見に外に出てみると、出た瞬間に光は一定の方向に向かって消えていった。


 その方向には沙羅のものらしき、足跡が続いている、足跡を辿ると60メートル程で途絶えており、何人かで運び去った足跡が見える。

「どうやら只事ではないな……兄者も起こすか?」ひとりごとをつぶやきながら、アリシアはテントに戻った。


「兄者起きろ! 沙羅の身になにか起こったようだ」アリシアが叫ぶと、

「アリシア、何を夜中に騒いでるんだ」

 ルークが目をこすりながら起き上がる、

「沙羅さんがどうしたって?」

 アリシアが詳細な状況を伝える、

「私達で助けねば」とアリシアが言うと、

「まてまて、アキラにも伝えなければ、あいつの言動を見てると、どうも3人娘の中でも、沙羅さんが一番気になるみたいだからな、俺達だけで救出したらアキラのやつ、きっとすねるぞ」

「おー! 確かにそうかもな、兄者にしてはなかなか見事な考察じゃな!」アリシアが感心しながら言う。

「アニメとやらで微妙な恋愛感情を学んだからなははは」ルークが何やら自慢気である。


「で! アキラにどうやってしらせるのじゃ?」

「緊急の場合はこの緊急メールボタンを押すように言われている、押すぜ」


 その頃晃の自宅マンションの部屋では、寝室のスピーカーから、声優の結城奈々のボイスが大音量で響き渡った。

「晃くん起きて! 起きなさい! おーきーてー! 起きんかいコラァ!」晃が目をこすりながら、寝ぼけまなこで起きると、

「やっと起きたかなー! ルークより緊急メールだよ、なんでも沙羅って子が事件に巻き込まれたらしいよ」

「え? マジ」晃はあわててVRHMDを装着してログインを行った。


 ルークとアリシアがのぞきこんでいた。

 状況説明してもらい、武装しながら沙羅にメールを送るが反応がない……。

 沙羅の自宅にも緊急メールを送るが同じ状況である。

「確かにトラブルの可能性あるな、助けに行こう」と晃が言うと、

「龍ヶ崎姉妹はどうするのじゃ?」とアリシアの問いに、

「俺たち最強3人組で大丈夫さ! 沙羅を救出だ」

「おー!」と掛け声とともに気合いの入った3人だった。


 一方その頃、VR操作が出来なくなっている沙羅は、エルフ8名と共に奴隷密売組織である『クランノストラ』のアジトに運び込まれているところである。少し前に気絶から覚めた沙羅であった。

 しかしエルフ達も沙羅も縄で手足を縛られ、猿ぐつわまではめられていて、抵抗のしようがない。晃からのメールがスクリーンに映し出されたのは見たが、答えようがないし、彼女自身は隙をみて、エルフ達をなんとか助けたい一心であった。


 ダンジョン11階層野営地の北西の端に位置する洞窟のような入り口の地下建造物である。入り口には2人の門番が見張りをしており、頑丈そうな鉄の扉で塞がれている。


門番が「エルフの大漁じゃないか? ボスも喜ぶぜははは」と言いながら扉を開ける。

「ボスとナンバー2の『白のアルカイン』はいるのか?」黒のシェパードの問いに、門番が答える。

「本日は外の本部アジトにいますので、不在ですわ、シェパードの姉さん」

「そうか、ご苦労」

「は!」

 入り口を入ってすぐにある階段を降りて行く、そして地下には体育館並みの広さの空間があった。松明があちこちに配置され中は明るい。


 中には5人程の留守番が待っていた、総数は門番も含めて30人弱といったところか、沙羅は後ろ手に縛られているが見渡す事は可能だった。

 エルフ達と一緒に中央まで運び込まれて降ろされたが縛られたままだ。

でも沙羅には不安感は無かった……、なぜなら晃からのメールに「必ず助けるからね」と書いてあったからだ。


 一方その頃晃、ルーク、アリシアの三人組は、足跡をたよりに追跡を行い。そして怪しい砦を見つけ、門番に見られないように草むらで伏せていた。

「ルークにアリシアさん、何度も言うようだけど、奴らは罪人かもしれんが王国に所属する人間である可能性だってある、決して殺さず無力化して縛るんだ、いいな!」

「分かってる、王国とは国交を結んだばかりだ、不用意なトラブルはこちらもごめんだ」とルーク、

「承知した、殺しさえしなきゃいいのよね」アリシアが不敵に笑いながら答える。


 まずは門番の2人からだ、40才位の体格の良い西洋人である。晃とルークがそっと近づきルークは足技で、晃は柔術で倒した。アリシアが2人とも縛り付けた。


 そして門番から鍵を頂戴して、鉄の丈夫で重そうな門を開けた。


 ルークがつかつかと入ろうとするのを制して、アキラの持つ盗賊の罠発見スキルを有効化する、すると天井の見えづらい角度でボーガンが仕掛けられていた。多分、仕掛け解除ボタンか何かあるのだろうが、手裏剣でボーガンを無効化した。


「僕が罠を解除して行くので、後ろをついて来て」ルーク、アリシアが頷く。


 そして階段を降りて行き、広間が見えるギリギリまで降りて、広間の様子を伺う。


 縛られているのはエルフの男女8名と沙羅である。

25名が武装している、ほとんど男で剣を持っている。1名だけゴスロリの黒いドレスを着た女性がいて、男達に指示を飛ばしている。

 ボスか? 彼女の持つ武器がやばい、鋭利に尖った先端の傘のような武器だが、星7のレジェンダリーウェポン同様の虹色のオーラを放っている。

 それに身のこなし方も隙がない、強敵なのは見て取れた。

「ルーク、アリシアさんは雑魚の無力化と人質救出をお願いします。僕は奴をやります」

「そりゃいい、晃が活躍するところを愛する沙羅に見せつけるのを手助けするぜ」ルークとアリシアがにやにや笑っている。

「は? そんなんじゃあ……」顔が赤くなる、

「いいってことよ、まず俺が弓矢の雨を敵に降らす、アリシアと晃はスピードマックスで斬りかかれ!」

「わかった」


 弓を構えたルークが弓矢の雨を降らし先制する。

「敵襲だ!」

「なんだ!」

「痛え、肩を撃たれた」と怒号が響き渡り、敵は大混乱になっていた。それでも立て直しながら武器である剣を構え始めたところに疾風の勢いで晃とアリシアが走りながら斬りつけていく。


 アリシアは巧みに敵の斬撃や突きをかわしながら、相手の急所は外して肩や足を切りつけて無力化して行く。


 晃も同様に妖刀イザナギ改を使い、ジャンプを繰り返し相手の後ろから足を凪いでいく。


 あっという間に半数は無力化していた。

 ルークも人質の縄をほどきながら、近づいてくる敵に小さめのファイヤーボールを放つ。


 グリモアが「ルークの旦那、助けに来てくれたんだありがとう」

「まさかお前達まで捕まっていたとはな! 沙羅が捕まってなかったら気が付かんとこだった」

「ルーク様! ありがとうございます……もう少しで奴隷として売られるところでした」エルフの女性陣が泣きながら感謝している。

 ルークはそれから沙羅の縄もほどき猿ぐつわを外すと、

「ありがとうルークさん、助かったわ」沙羅も感謝の意を示す。


 一方戦いの行方は、アリシアは残りの剣士5名を相手に奮闘中……。

晃はゴスロリドレスの女と対峙していた。

 彼女は圧倒的に不利な状況にも関わらず、澄まし顔で挨拶をしてきた。

「はじめまして、クランノストラ三天王のひとり、黒のシェパードよ、貴方達ここの男達大半を倒して勝ったつもりかしら? 私ひとりの方がこの男達全員より強いのよ、ほほほ」

「僕もアース大陸の冒険者の中では上位ランカーだよ、疾風のアキラと呼ばれている」

「面白いわね、いざ勝負」

 彼女は傘型レイピアを構え、迅速な突きの連打を繰り出してきた。

速い……忍術体術で後ろに飛ぶが、彼女も同様な速さでジャンプしてきて突きがくるのをかろうじて妖刀イザナギ改で防ぎ、すかさず大ジャンプしながら手裏剣を放つ、彼女の傘が開き手裏剣は下に落ちた。物理無効化効果があるみたいだ。

 しかもこの女、晃のスピードに簡単に追いついて来た。かなりヤバイ相手かも……。


「あら、疾風と言うだけあって中々の速さね! 私もスピードには自信あるの、面白い勝負が出来そうですわね」不敵な笑みを浮かべながら話すシェパードには余裕さえ漂っていた。



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