第11話野口先生のHR …… ダンジョン

 夜会での演奏の興奮も冷めぬまま、月曜日の朝を迎え学校に登校した晃であった。


 教室に着くと、人が何やら集まっている……

 中心にいるのは沙羅だった。顔を真っ赤にしている、

「姫宮さん!  昨日の動画チャンネル見たわよ! 歌上手いのね」

「最高の歌声だったよ」

「英語で歌うなんてかっこよすぎ!」


 動画チャンネルのPVチェックしてみる、25万超えていた。


 雷太に向かって「貴様の仕業か?」

 雷太がうろたえながら「だって僕も姫宮さんの歌声聞きたかっただもん」

  すると晃達にサッカー部のそこそこイケメンである坂上大和が近づいてきた。

「木崎君ドラム上手いじゃないか……そんな才能があったとは気がつかなかった、俺さ、学祭に向けてロックバンド作ろうと思ってるんだ、ちなみに俺がヴォーカルとギター、サッカー部のダチがベース、あとキーボードやりたいっていう女の子はたくさんいるので選考中だ……ただドラムだけは見つからなくて、そこに昨日の動画チャンネルだ、クラスに天才ドラマーがいたとはな、木崎君うちのバンドのドラムやらないか?」


 さすがリア充そこそこイケメンだ、自分が目立つためには、利用出来る物は利用しようという腹だな……あとベースとかドラムなどの地味な楽器のやり手が少ないのはアニメなどのリサーチ通りである。特にドラムは金がかかる、練習はしづらい、顔が隠れるなどの理由により、売り手市場でバンドの掛け持ちなどもあると言う。

 晃にとっても学祭で演奏するのは悪くない気分だが、ゲーム時間をバンド練習時間に奪われるのは勘弁してほしい。

「もし、本番までにドラマーが見つからない場合は、助っ人のゲストドラマーとしてなら参加しても構わないよ」と上から目線で答えてみた。


「助かるよ、それでも充分だ嬉しいよ!……ところでもう一つ頼みがあるんだが、メインボーカルとして、姫宮さん誘ってもらえないかな?」

 そっちかい! 本命は……


「何を騒いでるんだ、ハイハイ席に座って!」

 担任の野口先生だ、29才独身男、中肉中背のどこにでもいそうな先生である。いつの間にかチャイムが鳴っていたようだ。


「今日は月曜日なのでいつも通りイジメをテーマに30分のロングホームルームをする、では先週、イジメを受けた者やイジメを目撃した者はいるか?」


「はい」と立ち上がったのは野球部の中村である

「女子数名が中村君って不潔よねーって言ってるのを聞きました」

「心当たりのある女子はなぜそんなことを言ったんだ?」

 ひとりの女子が立ち上がり「だって中村君トイレから出てきた時ズボンで手を拭いてるんだもの」

 すかさず中村が立ち上がり「その日はたまたまハンカチを忘れただけで……」

 野口先生が「ハイハイわかりました……女子のは陰口ですね、陰口は言いたい事を本人に告げずにこっそり行う最低行為のひとつで、イジメにつながっていくのでやめましょう。ちゃんと中村にそっと注意してあげよう。ただし公衆の面前で注意されると侮辱と取られて逆ギレで逆転イジメが始まったりする、逆ギレもせっかくの人の意見を聞こうともしないで怒る最低の行為だ。

中村も人前でそういうことをするから、陰口が発生したのだ、先生もたまにハンカチを忘れるが、トイレの中でズボンで拭くか、中にも人がいる場合は、エアハンカチと呼ばれるさもハンカチ使ってるように見せかけて自然乾燥させる技を持っている」

「はははは!」野口先生はなかなかの技スキルをお持ちのようだ……

「いいな!  陰口と逆ギレはイジメにつながるからやめろよ、他にはないか?」

 女子が立ち上がり「先生!  安木君が、春日君や木崎君にゲームオタクだのアニメオタクだの罵ってました」

「安木そうなのか?」

「はい確かに、今は反省してます」

「クラス委員長の君がそれでは困るな、しかし反省しているのなら、それでいい、クラスでは絶対強者である担任が生徒を叱責し続けるのもイジメの一種だと私は思う、オタクは先生の親の時代では、マニアと呼ばれて、むしろ尊敬の対象だったらしい、例えば映画マニアの人にみんな質問をしに行ったりしてた、ちなみに先生だってエヴァンギャルオンのBDなら序、破、Q、シン……Z、X、VR、……XLまで全巻持ってるぞ」

「先生ふるーい」

「はははは!」


「あーそれから、生徒会長からイジメ撲滅のレポートを書いて欲しいとの要望があった明日提出してくれ」

 生徒会長は3年の新月透で、イジメ撲滅を謳って生徒会長になった。月曜日HRがイジメテーマなのは彼の提唱による。そういえば彼は沙羅の大好きなイケメンタレントのタックンになんとなく似てる優等生イケメンである。次の日沙羅が何気なく提出したレポートがきっかけとなり、後に晃の心を引き裂かんばかりに苦しめることとなるのは、まだまだ遠い先の話でありました。


 学校も終わり、ハンティングワールドにログインした晃だった。少し時間が早いが、待ち合わせ場所のエルフの里の入り口にワープしてくると、ルークとアリシアが忠犬ハチ公のようにじっと待っており、晃を見つけると満面の笑顔で駆けつけてきた。多分尻尾があったらプルプルプルプル振られていただろう。


 ルークが「アキラ殿待ちくたびれたぞ、やっと狩りの誘いが来て嬉しいぞ!」

アリシアさんが白髪ロングのストレートを振りながら大きな青色の目で

「兄者ったら恋文を待つ乙女のようにまだか、まだかとアキラ殿の文を待っておったわ、私も嬉しいぞ!」

「殿つけはいらないですよ、アリシアたん」

「たん?」しまった、アニメキャラに重ねてしまった……

とその時、沙羅達もやって来て

「お待たせー!」


 沙羅には「坂上君のバンドのヴォーカルを……」

「いやよ」

 はい、一言終了……坂上君、義務は果たしたぞ。


「今日はルーク、アリシアさんというLV90越えの強い味方がパーティに加わったので、僕も前から行きたかった2週間前に実装されたダンジョンに潜りましょう!」


「おおおお!」皆んな大喜びだ!


 肩をいからせながらダンジョンの入り口の前までやって来た風のドラプリ御一行でありました、さて、彼らにどんな試練が待ち受けていることやら……



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