ミッション24—12 カミは言っていた、最高のゲームを作りたいと
イミリアに残ったプレイヤーは、わずかに8人(と1匹のネコ型通信機)。
まさしくカミの望み通り、プレイヤーたちはイミリアから排除されたのだ。
ところが、カミは唾を飛ばす。
「狂っている……狂っている! 戦いを楽しみ、死を喜ぶだと!? どうかしている! お前らは狂人だ! 悪魔だ!」
怒りに震えているのか、恐怖に怯えているのか。
ファルたちを罵りながら、カミは玉座を蹴り倒し、叫ぶことをやめない。
「狂人! 悪魔! 人殺し! 犯罪者ども! お前らは罰を受けなければならない……罰を! 罰を! 人を殺し戦いを楽しみ、殺されても笑っているような者たちは、罰を受けなければならない!」
顔を真っ赤にしたカミの叫びが、部屋中に響き渡る。
彼の言葉が虚しく空間に溶けて消えていく。
哀れなカミをこれ以上は見ていられない。
武器を構えたファルたちは、武器を握る手に力を込めた。
ガロウズも剣先をカミに向け、今にも飛び掛ろうとしている。
だが、そんな彼らの前に1人の少女が一歩踏み出した。
お姫様のようなドレスを揺らし、力強い視線をカミに向けたサダイジンだ。
「
「何を言うかサダイジン! まだ分からないのか!? 俺たちは、新たな現実世界を創造したのだ! 俺たちは創造主だ! 創造主として、第2の現実を汚す輩――」
「違うんだぞ。私たちが作ったのは、現実世界ではないんだぞ。私たちは、イミグランツ・フロム・リアリティという、ゲーム世界を作り出したんだぞ」
「黙れ! 何がゲーム世界だ! おもちゃと俺の世界を、同列に扱うな!」
「おもちゃ……。私には、どうして
「だろうな! 分からないからこそ、お前は単なる愚か者でしかないのだ! サダイジンよ!」
ロン毛を振り乱し、同僚でもある少女を嘲笑したカミ。
そのあまりの態度に、ファルとヤサカの怒りは増大するばかり。
憎悪にも似た空気がカミの間を覆っていた。
サダイジンは憎悪に負けはしなかった。
彼女はカミに嘲笑されながらも、カミに対し柔らかい笑みを浮かべていたのだ。
「今の
「なに?」
「だぞ、そもそも
この言葉は嘲笑されたことに対する反撃か。
いや、違う。
「本来の瀬良兄は、そういう人のはずだぞ。もうすぐ40歳なのに、未だに厨二病が抜けない、少年の心を持った人なんだぞ。それが、瀬良兄の魅力なんだぞ」
なぜ15歳の少女が、事件当時は13歳の少女が、瀬良とともにゲーム開発などをしていたのか。
その理由を、サダイジンは滔々と語りだす。
「もう7年も前のことなんだぞ。まだ8歳だった私が、大好きなプログラミングで遊んでるうちに、いつの間にか天才扱いをされてた頃だぞ」
天才と持ち上げられ、雑誌にまで取り上げられた少女。
当時の彼女は何を思っていたのか。
「天才扱いされるのは楽しかったんだぞ。だけど、知らない大人たちが私のところに群がってきて、いろんなお仕事の依頼をしてきたんだぞ。私はプログラミングで遊びたかっただけで、仕事をしたかったわけじゃないから、興味ない依頼は断ってたんだぞ」
まさしく天才の余裕というもの。
「あんまり依頼を断ってたら、大人たちが札束を持ってくるようになったんだぞ。私も子供ながらに、大金を払ってくれる大人たちの依頼は受けるようにしたんだぞ。そうしたら、だんだんプログラミングがつまらなく感じるようになったんだぞ」
それは8歳の少女が知るには早すぎる世界だったのだろう。
「そんな時、瀬良兄が現れたんだぞ。瀬良兄は、イミリアの開発が行き詰まって、私のところに開発の協力を依頼しにきたはずだぞ。普通なら、分厚いアタッシュケースを持ってくる場面だぞ」
人を動かすのに最も有効的なものこそ、金だ。
だが相手は8歳の少女、そして依頼主は永遠の少年。
「だぞ、瀬良兄は私に『一緒にゲームで遊ぼう』と言ったんだぞ。言葉通りだったぞ。それから数時間、私と瀬良兄は一緒にゲームで遊んだんだぞ。あんなに楽しいお兄ちゃんに会ったのは、あの時がはじめてだったんだぞ」
こうしてサダイジンは、イミリアの開発に参加した。
「瀬良兄の依頼を引き受けて、5年間もイミリアの開発を進めたんだぞ。安月給で、それでも楽しかったんだぞ。瀬良兄の『最高のゲームを作る』なんていうフワフワした目標が、私には心地よかったんだぞ」
文句ばかり言いながら、サダイジンは瀬良とともにゲームを作るのが楽しかったのだ。
だからこそ、今のカミを見てサダイジンは悲しい顔をするのである。
「あの瀬良兄と、今の
小さな声が辛うじてカミの耳に届けられる。
だがすぐに、サダイジンは笑顔を取り戻した。
彼女は今も瀬良をお兄ちゃんとして慕っているのだ。
「だぞ! あの時の瀬良兄にはまだ、
まだ瀬良を見捨てない。
あの時の楽しいお兄ちゃん――瀬良を取り戻す。
ただそれだけを思い、サダイジンは叫んだ。
話を聞いていたファルたちは、武器を下ろしてじっと待つ。
サダイジンに対するカミの答えを待つ。
「そうか……そうだったな……」
顔を俯かせ、カミは小さな声で呟く。
彼はおもむろにメニュー画面を操作し、言葉を続けた。
「サダイジン――宇喜多、お前はいつもそうだったな。お前はいつも、楽しそうにゲームをしていた。宇喜多、お前のおかげで、俺もようやく気づいた」
にっこりと笑いながら、カミはサダイジンのもとに歩み寄る。
まるで何かから解放されたような、清々しい表情で、カミはサダイジンの前に立つ。
そしてカミは、メニュー画面のある箇所をタッチした。
次の瞬間、サダイジンの周りに複数のNPCが召喚される。
NPCたちは各々が銃を持ち、その銃口をサダイジンに向け、引き金を引いた。
カミの間に轟く数発の銃声。
薬莢が地面に落ちるのと同時、サダイジンもその場に倒れた。
彼女は今、血溜まりに浮かんでいる。
「サダイジン!?」
「サダイジンちゃん!?」
ファルとヤサカはすぐさまNPCを撃破、倒れたサダイジンのもとに駆け寄る。
サダイジンは全身を撃たれ、HPはわずかに3。
そのわずかなHPも、出血デバフによりすぐ消えてしまうだろう。
治療は間に合いそうにない。
「
憎悪を掻き立てられカミを睨みつけたファル。
ところがファルは言葉を失った。
彼の視線の先には、不敵に笑った男がサダイジンを見下していたのだから。
「愚か者め。ゲームを楽しむ? 最高のゲームを作る? いつまでそのような卑しいことを言っているつもりだ? サダイジン、我はゲームなどではなく、現実を作り上げたのだ。ゲームなどにうつつを抜かす愚かな我は、自ら捨て去った。故に、取り戻す必要もない」
冷たい言葉が、瀕死のサダイジンに浴びせられる。
ファルは拳銃を握り、カミを殺してやろうと立ち上がった。
ところが、カミを殺そうとしたファルを止める者が1人。
消えゆく力を振り絞ったサダイジンである。
「お兄さん……ダメなんだぞ……。プレイヤーがプレイヤーを殺しても……
「知ってる。俺はただ、このクソ野郎をぶちのめしたいだけだ」
正直に答えたファル。
サダイジンはふっと笑って、そんなファルに伝えた。
「あの頃の瀬良兄は……もういないんだぞ……。そこにいるのは……頭のおかしい変態なんだぞ……。お兄さん……お姉さん……カミを……めっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃのボッコボコにして……ほしいんだぞ……」
「ああ、分かってる」
「私たちが、必ずカミを倒すよ」
「ありがとう……だぞ……」
「なあサダイジン」
「なん……だぞ……?」
「現実に戻ったら、一緒にゲームでもやろう」
「……だぞ……お兄さんは……どこか……昔の瀬良兄に似て……いるん……だぞ……」
最後に笑って、サダイジンは死亡エフェクトに包まれた。
カミに裏切られながらも、彼女は新たな居場所を見つけ、イミリアを去って行ったのだ。
「愚か者がまた1人、死んだ。だが悪魔どもよ、お前らはサダイジンの死すらも、喜ぶのだろう?」
「もちろんだ。プレイヤー救出作戦が順調に進んで、喜ばないはずがないだろ、ロン毛付け髭」
「でも、勘違いしないでね。私たちは、サダイジンちゃんを裏切ったロン毛付け髭変態を、許さないから」
「ロン毛付け髭変態クソ野郎、除霊する」
「サダのお望み通りにします! めっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃのボッコボコにしてやりますから、覚悟してください! ロン毛付け髭変態クソ野郎童貞!」
「……我は……変態ではない! 童貞でもない! 図に乗るな愚か者ども!」
もうカミと交わす言葉はない。
ラスボス戦も、いよいよ終盤だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます