第24章 これ最終決戦ですし、全プレイヤーのログアウトが目的ですし

ミッション24—1 カミのアカウント

 ファルたちには大きな疑問があった。

 カミはどこにいるのか、だ。

 一歩間違えると哲学のような問いに対する答えは、サダイジンの以下の通り。


瀬良兄カミは神様気分を満喫するため、地上約400キロ、宇宙に浮かぶ宇宙ステーション『オリンポスの要塞』にいるんだぞ。斎藤スレイブも一緒なはずだぞ。だけど、宇宙ステーションが今どこにいるかは分からないんだぞ」


 カミは宇宙空間からプレイヤーたちを見下していた、ということか。

 妙なところで神様キャラを徹底しているらしい。

 腹が立つ。


 さて、カミの居場所は分かった。

 ならば今度は、カミの居場所の居場所はどこにあるのか、だ。

 これまた哲学らしさが漂う問いだが、こちらもサダイジンの以下の言葉が答えである。


「オリンポスの要塞の居場所は分からないけど、逆探知は可能だぞ。一度でも探知すれば、しばらくは追跡も可能だぞ。だから、逆探知をするために、瀬良兄カミからお言葉・・・を貰えば良いんだぞ」


 ざっくりとした説明だ。

 しかし逆探知のための機械はティニーが用意した。

 逆探知の準備は、随分とあっさり整ったのだ。

 

 では最後の疑問である。

 どうやってカミからお言葉・・・を貰うのか。

 こちらはなんと、ラムダの以下の提案が採用されてしまった。


「カミってすごく怒りっぽいですよね?! それなら、SNSのカミのアカウントにクソリプを送りましょう! きっと顔を真っ赤にしてお言葉・・・をくれますよ!」


 ひどい提案であると誰もが思ったが、案外うまくいきそうと誰もが思った提案。

 面倒な準備も必要ない。

 ファルたちはラムダの提案を採用、さっそく実行に移した。


    *


………………………………………………

 †カミ†

 @THE_CREATOR

 

 汝ら、目を覚ますのだ。新たな世界に夜明けが再び訪れた。


 6:50 20X6年X月14日

……………………………………………… 

  コピーNPC@bugbugbug 20X6年X月14日

   現実世界で目を覚まさせろロン毛付け髭


  パイロット@YASAchanLOVE 20X6年X月14日

   運営が目を覚ませw

   バグ修正はよw


  ペペリン@imomushi 20X6年X月14日

   店員NPCがお金を受け取ったまま壁に埋まりました。

   お釣りを返してください。


  ヴェノム!!@speedlife 20X6年X月14日

   おはようございます!

   目覚めのゼロヨンをやってきます!

………………………………………………


………………………………………………

 †カミ†

 @THE_CREATOR


 ここは第2の現実である。

 清く正しく生きよ。福音は必ず汝らに与えられる。


 17:10 20X6年X月14日

………………………………………………

  右大臣@magic_pirates 20X6年X月14日

   バグ修正という福音はまだかなんだぞ。


  コピーNPC@bugbugbug 20X6年X月14日  

   クソ運営は良い加減にプレイヤーの声聞け

   第1の現実に戻る福音くれロン毛付け髭

   

  勝手に鳴くカラス@WAiR 20X6年X月14日 

   クソ運営さんよ、お前が清く正しく生きてほしいぜ


  ヴェノム!!@speedlife 20X6年X月14日

   夕日が綺麗な時間ですね!

   あの夕日に向かってゼロヨンをやってきます!

………………………………………………


………………………………………………

 †カミ†

 @THE_CREATOR


 夜が訪れた。光があれば闇がある。

 だがこの第2の現実に、明けない夜はない。


 21:47 20X6年X月14日

………………………………………………

  パイロット@YASAchanLOVE 20X6年X月14日

   不具合の夜が明けない件w

   カミまじ無能ww

   

  スマール@Ghost_buster 20X6年X月14日

   闇、悪霊、全部除霊してくる


  ヴェノム!!@speedlife 20X6年X月14日  

   夜中の高速道路です!

   ゼロヨンをやってきます!


  コピーNPC@bugbugbug 20X6年X月14日  

   プレイヤーが暴れまわっててうるさい

   ポエム書いてないでなんとかしろロン毛付け髭

………………………………………………


………………………………………………

 †カミ†

 @THE_CREATOR


 昨晩、またも悪魔どもが暴れていたようだ。

 悪魔どもには、この我が重い罰を与える。


 10:22 20X6年X月15日

………………………………………………  

  右大臣@magic_pirates 20X6年X月15日  

   重い罰が怖くて現実に戻れない人が何か言ってるんだぞ


  コピーNPC@bugbugbug 20X6年X月15日

   お前が重い罰を受けろロン毛付け髭


  デスグローmk2@oresamagasaikyou

   悪魔上等! 俺様が邪神を成敗してやる!


  ペペリン@imomushi 20X6年X月15日

   友達がゼロヨンで遊んでいたら、NPCが吹き飛んだまま跳ね回ってます。

   運営さん、なんとかしてください。

………………………………………………


………………………………………………

 †カミ†

 @THE_CREATOR


 我とて許さぬぞ!

 悪魔どもよ、覚悟せよ!


 14:30 20X6年X月15日

……………………………………………… 

  コピーNPC@bugbugbug 20X6年X月15日

   クソ運営逆ギレかよ

   ホント、ロン毛付け髭だな


  Hornet@IFRplayer18 20X6年X月15日  

   I shouted in kokyo "im a player!" and then many police gathered.

   now,im in beast mode!! yeaaaaah!!


  スマール@Ghost_buster 20X6年X月15日

   背後霊、スマールを撃てと疼いている


  ヴェノム!!@speedlife 20X6年X月15日  

   今日は警察が多いです!

   ゼロヨンじゃなくてカーチェイス日和です!

 ……………………………………………


    *


 カミのSNSアカウントは散々なことになっている。

 ファルたちも途中からカミの反応が面白くなって、調子に乗っていた。

 これが荒らしの心理か。


 結局、ファルたちは2日間にわたってカミのアカウントに粘着し続けた。

 カミの短気な性格は、すでに限界寸前だろう。


 作戦開始から2度目の日の出。

 スライムのようにベッドから這い出たファルは、カミのアカウントを確認する。

 

「あれ? 更新されてないな……」


 毎日必ず、朝には更新されていたはずのカミのアカウント。

 ところが現在のファルのスマホに映る画面には、先日の夜のつぶやき以降の更新がない。

 更新がなければないで、なんだか寂しいものだ。


 スマホをしまったファルは、メニュー画面をいじり着替え、食堂へ。

 食堂ではすでにヤサカが朝食を作り終え、ファルを待っていてくれていた。


「おはよう、東也くん」


「おはよう、八千代」


 人が少ないことを良いことに、お互いに本名で呼び合う2人。

 そしてファルはヤサカの対面――ではなく隣に座った。

 2人で仲良く並んでの朝食である。


 しばらく2人は、その幸せな時間を共有していた。

 そんな2人の背後に、妬みの塊と化した1人の少女が近づく。


「ファルさんさァ、クーノのヤサちゃんとォ、随分とォ、楽しそうにしてるねェ」


「「ク、クーノ!?」」


「なんかさァ、2日前からさァ、2人の様子が変だよねェ」


「き、きき、気のせいじゃないか!?」

「き、きき、気のせいだと思うよ!?」


「白状しなよォ」


「ちょっと、クーノ!?」


「ヤサちゃんは動かないでねェ。害虫はァ、クーノがきちんとォ、退治しておくからァ」


 殺人マシンのように目を光らせ、ファルの胸ぐらを掴んだクーノ。

 これは面倒なことになった。

 にもかかわらず、食堂の入り口ではラムダたちがニヤニヤとこちらを眺めている。


「おお!? 見てください! クーノさんの顔が怖いです! 沙織さんとクーノさんという恋敵……! ファルさんとヤーサの将来は大変そうですね!」


「トウヤの霊力、震えてる」


「やる気のないお兄さんに命の危機が迫っているんだぞ」


「あれが修羅場ですのね。見るだけなら楽しいですわ」


「ニャ! ご飯はまだなのか!?」


「良いわね、まだまだ若いわね」


 コトミまでもがファルたちを眺め笑うだけ。

 ファルからすれば、早くクーノから救って欲しいところなのだが。


「おいおい、痴話喧嘩してるとこ悪いけどよ、近場のモニター見てみろ」


 突如として食堂に響いたレイヴンの低い声。

 かなり特殊な痴話喧嘩だとファルは思いながら、レイヴンの言う通りスマホのモニターに視線を向ける。


 スマホのモニターは、何の操作もしていないのに勝手に、砂嵐が映し出されていた。

 この時点で、ファルたちはこれから起きることを理解する。

 早くもカミの堪忍袋の緒が切れたのだ。

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