ミッション16—5 ノースロス空軍基地 III

 正面入り口に現れた、撃っても撃っても死なない男。

 ノースロス空軍基地の警備兵NPCは、そんなデスグローを排除することに躍起になっているようだ。

 基地内の警備は非常に薄い。


 暗闇に紛れ、整備兵NPCたちの視線に入らず、あるいは黙らせてしまえば・・・・・・・・、駐機中の戦闘機に近づくことは難しいことではなかった。

 ファルたち18人のプレイヤーたちは、目に付いた兵器全てにC4爆弾を取り付けていく。


「ティニー、爆弾を付けるならここが良いと思うよ」


「どうして?」


「ここは燃料タンクがあるからね。爆発させるには効果的なんだよ」


「分かった。派手な爆発、楽しみ」


「ヤーサよ、爆弾とかミサイルに爆弾を貼り付けても良いんじゃないですか!?」


「うん、それもありだね」


「では貼り付けます! 爆弾ペタペタです!」


 学園祭のポスターを貼り付け回る女子高生のようなテンションで、次々と戦闘機にC4爆弾を貼り付けていくヤサカたち。

 随分と楽しげな様子である。


 ファルはヤサカたちを手伝いながら、戦闘機以外の場所に視線を向けていた。

 彼が視線を向ける先にあるのは、タンクローリーや基地防御用のミサイルランチャー。

 そちらの警備は戦闘機周辺の警備よりもさらに薄い。


「なあ、あっちにあるタンクローリーとミサイルランチャーも破壊しないか? 基地は混乱するし基地の能力も低下して、一石二鳥だろ」


「……ちょっと遠くないかな? いつ警備兵NPCに見つかるか分からないし、作戦を早く終わらせるなら、戦闘機の破壊だけで良いと思うよ」


「私はトウヤに賛成。派手な爆発、見たい」


「わたしはどっちでも良いです! もう楽しいですからね!」


 参考にならないティニーとラムダの発言は置いといて、ファルは考える。

 ヤサカの意見に従うべきか、従わぬべきか。


「多少作戦時間が延びても、問題ないと思うぞ。それに俺のアビリティ潜伏を使えばNPCに見つかることもないし」


「ううん……そうだね……」


「ヤサカ、ダメ?」


「分かった。ファルくんの言う通り、タンクローリーとミサイルランチャーも破壊しよう」


「やった」


 ファルの言葉がヤサカを説得したようだ。

 なぜファルよりもティニーが喜んでいるのかは不明。


「じゃ、行くぞ。潜伏使うから集まれ」


 ファルの周りを囲むヤサカとティニー、ラムダ。

 まずは自分に潜伏を使い、そして3人に順番に潜伏を使っていく。

 これでファルたちの存在感は空気レベルと化した。


 空気4人は戦闘機が並べられた駐機場エプロンを離れ、タンクローリーの並べられた場所に向かう。

 戦闘機への燃料補給を待つ数台のタンクローリーは無防備だ。

 爆弾を仕掛けるのは容易であろう。


 誰にも見つかることなく、タンクローリーの側までやってきたファルたち。


「4台のタンクローリーか」


「よく燃えそう」


「早く爆弾を取り付けましょう!」


「ティニー、C4爆弾の用意、お願いね」


「うん」


 ティニーが次々と地面にC4爆弾を用意し、それをファルとヤサカ、ラムダが拾ってタンクローリーに貼り付けるだけの作業。

 おかげで、爆弾設置はすぐに終わった。


「これで全部、かな」


「みたいだ。次行くぞ」


 潜伏は未だ有効。

 ファルたちは再び暗闇に紛れ、基地防衛用のミサイルランチャーのもとに走る。

 

 ミサイルランチャーは、滑走路からも外れた場所に置かれていた。

 ヤサカの指摘通り、そこまでの移動だけでも数分はかかってしまっている。

 だが走り出してしまった以上、破壊しないわけにはいかないだろう。


 天に突き上げられたミサイルランチャーは、しかし地上からの攻撃には無力だ。

 加えて現在、警備兵NPCがほとんどいないのである。


「到着だ。さっさと爆弾しかけるぞ」


「発射機よりも、射撃管制装置とレーダー装置さえ破壊すれば十分だと思うよ」


 ここはヤサカの言う通りに、ファルたちは爆弾を仕掛けていく。

 ランチャー発射機全てに爆弾を仕掛ける時間は削りたい、という思惑はファルも一致していたのだ。


 空に向けてトラックに立てかけられたような、巨大なレーダー装置。

 そのレーダー装置の根元付近に、特に隠れることもなく爆弾を忍ばせるファル。

 この時、彼は背後に近づく複数の人影に気づいていなかった。


「そこの君! 何者だ! 何をやっている!」


「動くな! 手を上げろ!」


 最悪だ。

 銃を構えた5人の警備兵NPCに、ファルは囲まれてしまったのだ。

 潜伏を使っているから大丈夫、という油断が最悪の事態を招いたのだ。


「手を上げて、地面にうつ伏せになれ!」


「お、お、おおおお俺は……その……ちょっと道に迷っただけの善良な市民です!」


「嘘をつくな!」


「た、たまにあるでしょ! 森を歩いてたらいつの間にか軍事基地に迷い込んでること!」


「黙れ! 手を上げて、地面にうつ伏せになれ!」


 咄嗟についた嘘も、NPC相手には通用しない。

 そもそも人間相手にだって通用しない。

 半ば諦めたファルは、おとなしく両手を上げて後ろ頭につけ、地面にうつ伏せになろうと体勢を低くする。


 ファルが体勢を低くしたと同時であった。

 ロケット弾がファルの頭の上を飛び抜け、地面に着弾爆発し、NPCたちを吹き飛ばす。

 ついでにファルも吹き飛ばされる。


「ティニー! いきなりSMARLスマールを撃つな! 俺ごと殺す気か!?」


 ごっそり1000削られたHPに青ざめながら叫ぶファル。

 だがティニーの回答はあっさりとしていた。


「トウヤ、死んでない。NPC、除霊爆破した。結果オーライ」


「結果オーライって時点でダメだろ! お前の判断基準がオーライじゃないよ! お前はなんでいつも――」


 怒りをぶちまけるファルであったが、彼の言葉は銃声に遮られた。

 銃声を響かせたのはヤサカ。

 銃弾によって頭を撃ち抜かれたのは、ティニーの攻撃から生き残ったNPC。


 ヤサカに頭を撃たれたNPCは、銃口をファルに向けたまま息絶える。

 危うくファルは死にかけていたのだ。


「すぐに警備兵NPCが来るよ! 合流地点に向かって走って!」


 そう叫びながら、ヤサカは暗闇に隠れ走り出す。

 ラムダとティニーも彼女を追って走り出し、闇に消えた。

 もちろんファルも、ヤサカのあとを追う。


 サーチライトを避けながら全速力で走るファルたちの目的地は、基地内のとあるハンガー。

 他のプレイヤーたちが待っている合流地点だ。


 必死で走り続けるファルたちの鼓膜を、数多の銃声が震わせる。

 警備兵NPCたちが、闇に隠れたファルたちを殺そうと、辺り構わず銃を発砲しているのだろう。

 時折地面に銃弾が突き刺さる音と合わせて、ファルたちの緊張感はマックスだ。


「ああ! ああ! もうヤケクソだ!」


 いくら銃弾を恐れたところで、当たる時は当たるし当たらない時は当たらないのである。

 むしろ恐怖から足を止めてしまえば、死ぬ可能性もあるのだ。

 今はヤケクソ根性で滑走路を走り抜けるしかない。


 死を運ぶ無機質な発砲音は聞き流し、ファルは目的地に向かって走るだけ。

 がむしゃらに足を動かしているうちに、目的地のハンガーはすぐ目の前にまできていた。


「ファルくん! こっちだよ!」


 ハンガー前に置かれている消防車の陰で、他のプレイヤーとともにファルに手招きをするヤサカの呼び声。

 ファルは消防車の陰に滑り込み、銃弾への恐怖から解放される。


「私、我慢できない。スイッチ押したい」


「ティニーよ、やっちゃいましょうよ! 爆弾のスイッチ、押しちゃいましょうよ!」


「ヤサカ、スイッチ押して良い?」


「プレイヤーもみんな集まったみたいだし、ちょうど良い頃合だね。ティニー、いつでもスイッチを押して良いよ」


「わーい」


 無邪気に喜ぶ無表情を浮かべたティニー。

 彼女は袖の中から、トランシーバーにも似た形の起爆スイッチを取り出した。

 そして安全装置を外し、スイッチに手をかける。

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