ミッション16—6 ノースロス空軍基地 IV

 ティニーはほんのわずかに手を動かしただけ。

 それだけで起爆スイッチは押され、ノースロス空軍基地の至る所に仕掛けられた爆弾に指示が送られる。

 指示の内容はもちろん、起爆だ。


 起爆スイッチが押された直後、基地の駐機場エプロンに並べられていた戦闘機たちが一斉に爆発した。

 この爆発により、戦闘機に積まれた、あるいは積まれようとしていた爆弾やミサイルも誘爆を起こす。

 結果、爆弾が仕掛けられていなかった戦闘機すらも爆発に巻き込まれ、駐機場は炎に包まれた。


 さらに、大量の燃料を積み込んでいたタンクローリーも爆発。

 複数の盛大な火球が、夜を昼のように照らした。


 加えて基地防御用のレーダー装置なども、ファルたちが仕掛けた爆弾に吹き飛ばされる。

 ノースロス空軍基地は、炎と爆風、爆音に包み込まれたのだ。

 もちろんNPCたちは大混乱である。


「いいぞ、狙い通りの展開だ!」


「すごいです! 大興奮のド派手な大爆発の連続です!」


「エヘヘ」


 両手を上げて大喜びのラムダと、小さく笑うティニー。

 ファルとヤサカは燃え盛る基地を眺めながら、プレイヤーたちに次の指示を出した。


「敵は混乱中だ! 今のうちに基地の外に出ろ!」


「合流場所はヘリだよ! 道に迷わないでね!」


 2人の指示に従い、消防車の陰から飛び出し散開するプレイヤーたち。

 彼らを追って、ファルたちも基地の外へ出発だ。

 

 辺りは炎に覆い尽くされ、破壊された戦闘機の残骸が大空を見上げて燃え盛る。

 そんな中を走るファルたちは、炎の熱気に汗を流しながら、先を急いだ。

 燃える鉄やプラスチック、燃料から漂う異臭に鼻をつままれながら、先を急いだ。


 ただし、ファルは途中で足を止める。

 彼の視線の先にあるのは、爆発に巻き込まれ死にかけるパイロットNPC。


「ファルさんよ、どうしたんですか?! 早く行きましょうよ!」


「そうだよ! 急いで基地を脱出しないと!」


「ちょっとだけ待ってくれ。このパイロットをコピーしておきたい」


「コピー? パイロットが必要なの?」


「いや、戦闘機パイロットなんて滅多に会えないからな。今のうちにコピーしたいんだ」


「おお! あれですね! アイテムコンプリートを目指しているんですね!」


「そういうわけじゃないが……よし、コピーした! 待たせて悪い! 行くぞ!」


 ファルの行動に特に意味はない。

 ただ、これでファルのコピーNPCコレクションの中に戦闘機パイロットが追加されたのだ。

 もしパイロットが必要になる時が来たとしても、もう困ることはない。


 再び基地の外に向かって走るファルたち。

 彼らの背後では炎が巻き上がり、黒煙が暗闇に溶けていく。

 基地の兵士NPCたちは突然のことに混乱中、ファルたちを捕まえる余裕はなかった。


 これといった苦労もなく、ファルたちの前に基地の正面口が近づく。

 一方でティニーは、基地の管制塔をじっと見つめていた。


「じー」


「ティニーよ、どうしたんですか?! さっきから管制塔ばっかり見てますよ!」


SMARLスマール、撃ち込みたい」


「ここでロケラン衝動かよ!?」


「撃って、良い?」


「なんでもいい! お前の好きにしろ!」


「ふぁ、ファルくん!? そんなこと言って良いの!? ティニー、本当に撃っちゃうよ!?」


「関係ないところでロケラン衝動に駆られるより、今やってくれた方がマシだ!」


 撃てるときに撃たせる。

 これがティニーのロケラン衝動を抑制する最良の解決法だ。

 ヤサカもそれに気がつき、黙り込む。


 ロケラン発射の許可が下りたティニーは、嬉々とした無表情でSMARLを構えた。

 そして引き金を引き、鼓膜を突き抜けるような発射音を響かせる。


 ロケット弾は管制塔に着弾。

 ノースロス基地の管制塔は爆炎に包まれ、瓦礫を地面にばらまかせる。

 この一連の流れと爆音、衝撃波を体で感じたティニーは、心を落ち着かせた。


「満足か?」


「うん」


「そりゃ良かったな」


 ティニーの顔を見ることなく、そう言い放ったファル。

 どうせ振り返ったところで、そこにあるのは心地よさそうな無表情をするティニーだけだ。

 

 全速力で、少し息を切らしながら基地の正面口にやってきたファルたち。

 正面口には多数の兵士NPCの死体が転がり、また生き残った兵士NPCはとある男への集中攻撃を続行している。

 

「フハハハ! もっと撃て! 俺様をもっと撃て! 俺様をもっと痛めつけろ!」


 デスグローが、正面口に仁王立ちし兵士NPCの銃撃を一身に受けているのだ。

 HP無限の彼は、どれだけ撃たれようと死ぬことなく、一方的に兵士NPCたちを撃ち殺しているのだ。

 しかも、どこか気持ち良さそうな表情で。


 せっかくならここにデスグローを放置して逃げるのも良い手かもしれない。

 ふとそんなことを思いながら、しかしそれはヤサカに怒られるだろうと考え、ファルは嫌々ながらデスグローに呼びかける。


「スグロー! 逃げるぞ!」


「ああん!? うるせえな! 俺様に指図するな! 俺様は今、超気持ち良い最中なんだよ!」


「知るかド変態! さっさとついてこい!」


「勝手にしろ! 俺様はここを動かねえからな!」


「ったく……おいティニー、やれ」


「分かった」


 AMR82を手にし、デスグローの頭に弾丸を撃ち込むティニー。

 続けてファルは、マグナム銃をデスグローに向けて乱射。

 あまりの痛みにデスグローは悶える。


「おいスグロー! これが気持ち良いんだろ! なあ、気持ち良いんだろう!」


「チッ……ああそうだよ! 気持ち良いよ! もっと撃てよ! ほら、撃てって!」


「撃たれたきゃ俺たちについてこい!」


「クソ! 気に食わねえがてめえらについて行ってやる!」


「よし褒美だ!」


 正面口を離れ、ファルたちの後を追って走り出したデスグローに、ファルは再びマグナム銃を乱射。

 マグナム弾を受けながら、デスグローは満足そうな顔をしてファルたちを追い続ける。


「銃で撃たれるためについてくるって……デスグローさんが理解できないよ……」


 ドン引き中のヤサカ。

 当然の反応だ。

 

 ファルとデスグローの凄まじい変態プレイが繰り広げられながら、同時にファルはコピーNPCを量産。

 大量のコピーNPCの妨害で、敵兵士NPCの追っ手を妨害する。


 コピーNPCに助けられながら、ファルたちはノースロス空軍基地を離れた。

 目的地は、森の中に隠しておいたヘリ――NH900。

 おそらく他のプレイヤーも、順調に目的地に向かっているはずだ。


 小さな町を抜け、ノースロス空軍基地の緊急事態に駆けつける軍の車両や消防車を横目に、ファルたちは森の中に入り込む。

 手に持ったライトだけを頼りに暗い森を走ると、木々の中に佇むNH900が見えてきた。


「ヘリが見えてきたよ!」


「乗り込め! ラムダ、エンジンを起動しろ!」


「分かってます!」


 息を切らしNH900に乗り込み、席に体を落ち着かせるファル。

 ヤサカやティニー、デスグローも席に座り、同時にNH900のもとにやってきたプレイヤーたちも席に収まる。

 ラムダは操縦席に座りエンジンを起動、回転翼を回した。


 勢いよく回転翼を回し、森の木々を揺らすNH900。

 数分後には18人すべてのプレイヤーたちがNH900に乗り込み、飛び立つ準備が整った。


「全員揃ったみたいだね。ラム! 出発して良いよ!」


「了解です! 飛びますよ!」


 ラムダの言葉とともに、NH900は空に飛び立つ。

 ヘリの窓からは、夜空をオレンジ色に染め上げる、基地機能を失ったノースロス空軍基地が一望できた。


 破壊された戦闘機がずらりと並ぶノースロス空軍基地は、これでしばらくは使用不可能であろう。

 おかげでメリア軍に戦力で劣る八洲軍は、しばらくメリア相手に有利な戦いを繰り広げられるはず。

 ファルたちは戦争の長期化に、一役買ったのである。


「作戦、無事に終わって良かったね」


「そうだな。レオパルトたちの方もうまくやってるだろうし、作戦もクエストも大成功だ」


 早くも作戦の成功を確信したファル。

 ヤサカも思いは同じだったのか、明るい表情をファルに向けていた。

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