第13章 ゲームは少数で多数に勝つのがセオリーですし

ミッション13—1 サダイジンの答え

 あっさり見つかった、イミリアの製作者の1人であるサダイジン。

 彼女はあっさり、キョウゴたちサルベーション本隊に付いてきた。


 現実でIFR事件が報じられる際には、必ず『13歳(事件当時)の少女』として紹介されるサダイジンは、10歳に満たぬ頃からこのイミリアを作ってしまう天才プログラマーだ。

 だが魔法少女姿のサダイジンは、背が低いのもあってか、小学生にすら見える。

 正直、この少女がこのゲーム世界を作り上げたとは思えない。


 サダイジンを連れ、戦車とストライカー、ハンヴィーに乗り、鬼を轢き殺しながら地獄ダンジョンを脱出したファルたち。

 洞窟ダンジョンに到着した彼らは、ここから洞窟内を徒歩で進む。


 湿気の高い洞窟を歩く間、キョウゴは情報収集だ。

 彼は次々と、サダイジンに質問を投げかける。


「デバックルームはどこにある?」


「月の裏側だぞ。この世界には月に行けるロケットはまだ未実装だぞ。だから、誰もデバックルームには行けないんだぞ」


瀬良カミも含めてか?」


「そうだぞ。瀬良カミ兄は神を名乗ってるけど、この世界を操る超人になりたいわけじゃなかったんだぞ。瀬良カミ兄はただ、自分が作った世界でプレイヤーたちがどう生きるのか、高みの見物がしたかっただけなんだぞ」


瀬良カミはどこにいる?」


「高度450キロにある宇宙ステーションに引きこもってるんだぞ」


「なぜ宇喜多サダイジン君は――」


「質問が多いんだぞ。取り調べがはじまってるなら、カツ丼が食べたいんだぞ」


「悪いが今は、カツ丼はない」


「だったら答えないんだぞ」


 突然の宣言に困り果てたキョウゴ。

 サダイジンは随分とマイペースな人物である。

 このまま質問に答えてくれないのは困るので、ファルはティニーに小声で話しかけた。


「ティニー、カツ丼は道具じゃないから難しいだろうけど、せめてカツ丼みたいなのって用意できるか?」


「カツ丼、ある」


「え? あるの!? カツ丼って道具扱いなのか!?」


「取り調べに使う道具」


「そういうことか……。ともかく、カツ丼をサダイジンに渡してやれ」


「分かった」


 ティニーはメニュー画面を開き、カツ丼を出現させる。

 そして彼女は、カツ丼を箸付きでサダイジンに手渡した。


「はい、カツ丼」


「だぞ! カツ丼だぞ! ありがとうだぞ! 大好きなのだぞ!」


「美味しそうですね! 私もカツ丼が欲しいです! お腹が空きました!」


 カツ丼ひとつで目を輝かせ、ティニーに抱きつくサダイジン。

 一方で表情を動かさないティニーと、なぜかサダイジンと一緒になってカツ丼を欲しがるラムダ。

 ファルとヤサカ、レオパルトは、そんな彼女らに苦笑いを浮かべることしかできない。


「いただきますだぞ! だぞだぞ! 地獄のマズイ料理から解放されんだぞ!」


 どういう仕組みなのだろうか、ツインテールをピコピコ動かすサダイジン。

 幸せそうにカツ丼を頬張る彼女は、ますます小学生にしか見えない。

 

「カツ丼は用意した。質問に答えてもらう」


「なんでも答えるんだぞ! スリーサイズは答えないんだぞ!」


「……なぜ宇喜多サダイジン君は幽閉されていた? 瀬良カミに逆らったという話は聞いているが、実際のところは?」


 この質問に、サダイジンの表情が少しだけ曇る。


「私たちはゲームを作ってたんだぞ。瀬良カミ兄も最初はそうだったんだぞ。でも瀬良カミ兄は、イミリアを作るうちに第2の現実とか気持ち悪いこと言い出したんだぞ。それから瀬良カミ兄は、おかしくなったんだぞ」


 不満を隠そうともしないサダイジン。


「途中から、ダンジョンを作るなとか言い出したんだぞ。あり得ないんだぞ。バカなんだぞ。だから私は、瀬良カミ兄に無断でダンジョンを作ったんだぞ。せっかくだからモンスターとか空中戦艦も作ったんだぞ」


 つまり、イミリアのゲームらしい要素はすべて、カミではなくサダイジンが作り出したものということだ。


「うまく隠し通したから、ダンジョンとかの存在に瀬良カミ兄が気づいたのは、イミリア発売直前なんだぞ。やってやったんだぞ。でも、なんで瀬良カミ兄がダンジョンとかを拒絶したのか理解したのは、事件後だったんだぞ」


「話を聞いていると、宇喜多サダイジン君は事件が起きるまで、事件のことは何も知らなかったように聞こえるが?」


「知らなかったんだぞ。瀬良カミ兄は事件のこと、私たちにも隠してたんだぞ。事件後、斎藤スレイブ瀬良カミ兄に従ったけど、私は怒ったんだぞ。ゲームを現実にすり替えて、プレイヤーを閉じ込めるなんて、狂気の沙汰なんだぞ」


「それで、幽閉されたと」


「そうなんだぞ! 瀬良カミ兄は頭おかしいんだぞ。現実は自分の思い通りにならないから、自分の好きな世界を作って神様気取りなんて、クソ野郎なんだぞ。イミリアを楽しみにしてくれたプレイヤーさんたちに、申し訳ないんだぞ……」


 肩を落とし、寂しそうにするサダイジン。

 まだ15歳ながら、製作者としての責任を感じているのだろう。


 今はじめてIFR事件の動機が語られたわけだが、なんとも身勝手な話だ。

 結局のところ、この事件はカミ――瀬良の自己満足のために起こされた事件だったのである。

 こんなくだらないことに巻き込まれたプレイヤーたちは、たまったものではない。


 ただしファルたちは、瀬良のくだらない自己満足を終わらせる可能性を見出している。

 サダイジンに話しかける人物は、キョウゴからファルに変わった。


「俺たちは、プレイヤーをゲームから解放させるためにイミリアにやってきた。実際、500人近くのプレイヤーを解放したんだが――」


「だぞ!? 解放したんだぞ!? どうやったんだぞ!? もしかして、ペルソナ・ノン・グラータを利用したんだぞ!?」


「ペ、ペルソナ……グラタン?」


「ペルソナ・ノン・グラータだぞ! チート使用者と迷惑プレイヤーを追放する、イミリアの自浄システムだぞ!」


「待ってくれ。詳しく」


「チート持ちは死ねば即追放だぞ。チート使用者は、ゲームに多大な迷惑をかけたとシステムが判断すれば、死んだ時に追放だぞ。でも瀬良カミ兄の変な調整が入って、イミリアをゲーム世界として楽しまなきゃいけなかったり、自殺はダメだったり、面倒なんだぞ」


 ファルたちが発見したプレイヤー解放の方法と、まったく同じ解説をするサダイジン。

 

「プレイヤーを解放する方法は、それしかないんだぞ。私もそれを利用しようと思ってたんだけど、チートがなくて困ってたんだぞ……。もしかしてみんな、チート持ちかチート使用者なんだぞ?」


「ああ、ここにいる全員、チート持ちかチート使用者だ。俺たちは、自力でそのペンネ・グラタンを見つけ出して、プレイヤーを解放してきたんだ」


「驚いたんだぞ! すごいんだぞ!」


 サダイジンは無邪気に大喜び。

 対してファルも、ゲームシステムを見抜いていた自分に大喜びである。

 ファルのすぐ目の前まで駆け寄ってきたサダイジンは、ファルに質問した。


「ペルソナ・ノン・グラータ認定されるのに必要な迷惑行為は、警察や軍隊への積極的な攻撃なんだぞ。アレスターやガロウズが出てきたら、100パーセント迷惑プレイヤー認定されているんだぞ。知ってたんだぞ?」


「知ってたわけじゃないが、そうだろうなと思って、警察とか軍隊に喧嘩売ってた」


「パーフェクトだぞ! やる気なさそうなお兄さん、やるんだぞ! だぞはだぞだぞ。だぞにだぞがだぞ」


「落ち着け、変な言語で喋るな。あと、やる気なさそうとか言うな」


 いつの間に食べ終えたカツ丼の皿を振り回し、サダイジンは大興奮。

 ラムダとはまた違うおかしなテンションに、ヤサカたちは困り顔である。


 やる気がなさそうと言われ口を尖らせるファルは、しかしサダイジンの口から飛び出したある単語に興味を持った。

 

「ひとつ聞いて良いか?」


「なんだぞ!? やる気ないのにすごいお兄さんだぞ?」


「……ガロウズって何者なんだ?」


 幾度となくファルたちを苦しめてきた男。

 その正体を、サダイジンはさっぱりと答えた。


「ペルソナ・ノン・グラータ認定されたプレイヤーを殺す、NPCなんだぞ。チート持ちにも勝てるよう、ステータスを異常に高くした、ただのNPCなんだぞ」


「そうか……」


 ただのNPC。

 明らかにプレイヤーのような動きを見せたガロウズが、ただのNPC。

 あまり納得できないファルではあったが、製作者が言うのだからそれが真実なのだろう。


「プレイヤー解放の話、聞きたいんだぞ。話すんだぞ」


 もはやサダイジンの興味は、ファルたちのプレイヤー解放に向けられてしまっている。

 仕方なくファルたちは、おとぎ話でもするかのように、ここ2ヶ月間に起きたことをサダイジンに話すのであった。

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