ミッション13—2 カミは言っている、地獄に落ちろと

 ダンジョンを抜け、洞窟の外に出たファルたち一行。

 何もない島で、地上の空気を吸い、ひとまず一安心だ。


 サルベーション本隊は自前のクルーザーを使って中戸島までやってきたようである。

 ファルたちには、ラムダがチート能力で出現させたクルーザーがある。

 そのためファルたちとサルベーション本隊は、ここでお別れとなる、はずだった。


「お話を聞いてたら、お兄さんたちに興味が湧いてきたんだぞ。私はお兄さんたちと一緒が良いんだぞ」


 サダイジンがそんなことを言い出す。

 挙げ句の果てに


「お兄さんたちと一緒じゃないなら、サルベーションには協力しないんだぞ」


 とまで言い出す始末。

 困ったファルたちは、仕方なくサルベーション本隊のクルーザーに乗ることにした。

 ファルたちがここまでやってきたクルーザーは、レイヴンに任せれば良い。


 レイヴンへの連絡を済ませ、サルベーション本隊のクルーザーに乗り込んだファルたち。

 さすがに10人以上が乗れるものとなると、大きな船である。

 ラムダとクーノは子供のように、クルーザー内部を散策しはじめた。


 一方でファルとヤサカ、ティニー、レオパルトは、サダイジンとともに船室でくつろぐ。

 ソファに座ったサダイジンは、とんがり帽を膝の上にのせ、体を乗り出しファルたちに話しかけた。


「江京で起こした暴動、詳しく教えてほしいんだぞ。ロールとピッツァポテトの販売中止に反対したのは、ホントかなんだぞ?」


「本当だ。まあ販売中止反対云々は、ティニーが言い出したテキトーな大義名分なんだけどな」


「テキトーじゃない。本気」


「あれ、本気だったのかよ。たかがポテチに情熱注ぎすぎだろ」


「もしかして、プレイヤーのみんなも本気だったのかな……」


「販売中止は阻止できたのかだぞ?」


「そういや、結局あれってどうなったんだ?」


「販売中止は延期になったみたいだ。僕たちの思いが届いたみたいだ」


「グレイトだぞ! ロールとピッツァポテト販売中止なんて、断固反対なんだぞ!」


「ロールとピッツァポテト、私たちが守る」 


「だぞだぞ! ティニーさんは頼もしいんだぞ!」


 こんな感じの会話を、ファルたちは数十分も繰り広げた。

 会話をするうち、ティニーとサダイジンがどんどん仲良くなっていく。

 陰陽師少女と魔法少女は、なかなか気が合うらしい。

 

 中戸島を出発してから約30分。

 変わらず談笑するファルたちのもとに、妙にテンションの高いラムダがやってきた。


「大変です! 船の近くに大変なものがいます! ワクワクしちゃいます!」


「どうした? そのテンションを見る限り、空母でも見つけたか?」


「当たりです! よく分かりましたね!?」


「……え? マジ?」


「メリア軍の空母です! 駆逐艦もいます! メリア海軍と八洲海軍の艦隊ですよ! 空には戦闘機! お祭りみたいで楽しいです!」


「絶対楽しいものじゃないよな、それ」


 ラムダが妙にテンションが高い時点で、悪いことが起きているのは確実だ。

 実際、遅れてやってきたクーノの表情は引きつっていた。


「まずいよォ。クーノたちィ、メリア軍と八洲軍に包囲されちゃったよォ。今から乗り込むからァ、サダイジンちゃんを引き渡せだってさァ」


「はあ……面倒だ……また面倒事だ……」


 空中戦艦がいないだけまだマシ、というところか。

 いや、空母がいる時点でマシもクソもない。

 最悪の状況である。


「きっと瀬良カミ兄の仕業なんだぞ。瀬良カミ兄が私を捕まえようとしてるんだぞ。面倒事に巻き込んで申し訳ないんだぞ……私のせいなんだぞ」


「ううん、サダイジンちゃんが謝る必要はないよ」


「ああ、ヤサカの言う通りだ。面倒事なのは確かだが、俺たちはどうせカミに嫌われてるしな」


「でもだぞ……」


「大丈夫、私たちが守ってあげる」


「……お姉さん、お兄さん、ありがとうなんだぞ」


 プレイヤー解放を目指す限りは、遅かれ早かれカミとの衝突は避けられないのだ。

 そのカミとの衝突が、今起きただけ。

 今更になって、ファルたちがサダイジンに責任をなすりつけるようなことはしない。


 しかし、この状況を打破する術はあるのだろうか。

 それを考えようとした途端、携帯電話やパソコンなどあらゆるモニター類が、勝手に起動しはじめる。


「この現象……前にも……」


 江京駅前で暴動を起こした際、似たようなことが起きた。

 あの時は……。


《地上に住まう人の子らよ、我の言葉を聞け》

 

 あの時と同じだ。

 全てのモニターに、ロン毛に髭まみれのカミの姿が映し出されている。


《堕天使サダイジンよ。汝は神に反逆した罪を償うため、地獄に幽閉されていたはず。にもかかわらず、哀れで、愚かな子羊どもの力を借り、地獄から逃げ出すなど、言語道断。さあ、今すぐに地獄に戻り、自らの罪と向き合うのだ》


瀬良カミ兄、神様キャラ似合ってないんだぞ。付け髭もバレバレなんだぞ」


「やっぱり、あれ付け髭なのか」


「そうなんだぞ。童顔の瀬良カミ兄にはヒゲが似合わないんだぞ」


「ロン毛も似合ってないような気がするのは、私だけかな?」


「ヤーサよ、わたしも同じこと思ってました! ワカメかぶってるみたいでダサいです!」


「服もダサい。タオル巻いてるみたい」


「仕方ないんだぞ。瀬良カミ兄はまともに社会生活のできないニートなんだぞ。童顔なのもそのせいなんだぞ。ファッションセンスも涙が出るレベルなんだぞ」


「それで神を名乗ってるのか? なんの神だ? ダサクレス?」


「ファル、そんなお前もニート予備軍だろ。人のこと言えないだろ」


「……俺も気をつけないと、あんな風になるのか。鳥肌ものだな」


《……おい愚か者たち。汝らの話はすべて聞こえているのだぞ》


「え!?」


 どうせこちらの会話などカミには聞こえないと思って、好き勝手なことを言っていたファルたち。

 全部、カミに聞かれていたらしい。


 ファルたちの言葉を聞いて、カミは怒り爆発。

 神様設定など吹き飛んだ。


《あのさ、お前ら誰の悪口言ってると思ってるんだ?》


「ニート」


「クソ運営だぞ」


《違うだろ! ええ!? 我はこの世の神だ! この第2の現実の神だ! 神に対してニートだとかダサいだとか童貞だとか――》


「童貞とは言ってない」


《うるさい! お前らあれだろ!? この前、禁忌とされる力を使いこの世を混沌に貶め、バグでおじさんをバウンドさせまくったヤツらだろ! ベレルでも騒ぎを起こしていたクソったれどもだろ! 神の怒りを甘く見るな! 地獄に落とすぞ!》


「いや、俺たちさっきまで地獄にいたんだが」


瀬良カミ兄、自分のことを神っていうの痛いんだぞ。やめた方が良いんだぞ」


《何を言っているサダイジン! ここは第2の現実だ! お前も我もこの世界の創造主だ! 創造主は神だ!》


「神じゃないんだぞ。ただの製作者なんだぞ」


 心の底から呆れ返るサダイジン。

 15歳の少女に呆れられる39歳のカミは、なんとも度し難い。

 それでもカミは、微笑を浮かべサダイジンを蔑むように口を開く。


《フン、そんなだから堕天使として地獄に落とされたのだ。良いか、我ら創造主は――》


《サダイジンさん、お久しぶりです》


「だぞ、斎藤スレイブだぞ。久しぶりなんだぞ。今日も元気に瀬良カミ兄の奴隷なんだぞ?」


《はい。今日もカミさんの忠実な犬です》


《ああ!? スレイブ! 犬ならば我の話を遮るな! ボーナスカットすんぞ!》


《す、すいません!》


「なんだコイツら……」


 いよいよファルたちも呆れの境地。

 ヤサカに到っては、哀れみの視線を隠そうともしない。


 さすがのカミも自分の醜さは自覚していたらしい。

 彼は息を切らしながら、最後だけは神様設定を思い出し、サダイジンに言い放った。


《さあ堕天使よ、我の信徒たちが汝をあるべき場所に戻してくれよう。愚かな子羊たちよ、この神の意志に逆らうというのであれば、地獄よりも恐ろしい世界に追放してやろう》


 そこまで言って、逃げるようにモニターから消えたカミ。

 正直、何が何だか分からない。

 少なくとも、メリア海軍の兵士たちが臨検のためにこちらに向かってきているのは確かであった。

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