ミッション12—9 <ボス戦>エンマの怒り II

 驚異的な回復力を誇るエンマ。

 呪いをかけられ徐々にHPを削られるファルたち。

 どうしてエンマが回復するのか分からぬ現状、ゴリ押しするしかない。


「撃て! 相手が回復する前に倒すぞ!」


 キョウゴの号令とともに、サルベーション本隊7人が銃を一斉発射。

 当然ファルたちもこれに続き、エンマへの攻撃を開始する。


 ラムダの戦車による攻撃も続行。

 加えてティニーがSMARLスマールを放ち、ストライカーに乗ったサルベーション隊員が重機関銃を発射した。


 おびただしい数の銃弾と砲弾、ロケット弾が、エンマを倒そうと音速を超えた速度で風を切る。

 そしてその全てが、エンマに命中した。


「当たったぞ!」


「攻撃は全部腕で防がれたみたいだよ! 胴体には当たってない!」


「腕への攻撃じゃHPは削れないか……」


「エンマ、退治難しそう」


 エンマの腕は、ファルたちの攻撃によってボロ雑巾のよう。

 しかしヤサカの言う通り、胴体は無傷なのだ。

 さらにボロ雑巾のような腕も、白い光に当てられ回復してしまう。


 とにかく攻撃を続けるファルたちだが、エンマはついに反撃を開始した。

 エンマは回復した腕に炎を纏わせ、力強く振り払い、サルベーション隊員2人を吹き飛ばす。


 戦車砲やSMARLの攻撃でなければ、エンマの腕を止めることはできないが、エンマの腕は8本もあるのだ。

 このままではHPを無駄に削られ、制限時間が短くなってしまう。

 太く巨大な腕を前に、ファルたちは接近戦は無理と判断、キョウゴが叫んだ。

 

「分散しろ! 宮殿内部に逃げ込め!」


 指示を受けたサルベーション本隊の行動は早い。

 彼らはストライカーによる重機関銃と戦車による機関銃の援護を受けながら、宮殿内部へと逃げこんだ。

 ファルとレオパルト、ティニーもヤサカに引っ張られ、宮殿内部に隠れる。


 一方で、宮殿に隠れたファルたちを見失ったエンマの標的は、ストライカーに変わったようだ。

 エンマは重機関銃の攻撃を腕で防ぎながら、あるいは腕を犠牲にし戦車からの攻撃を防ぎながら、徐々にストライカーに近づいていく。


 ストライカーの目の前までやってきたエンマは、太い腕をストライカーの底に差し込む。

 そしてエンマは腕を持ち上げ、17トンの装甲車――ストライカーを横転させてしまった。


 装甲車ですら勝てぬ相手に、宮殿内部に隠れながら唾を飲み込むファル。

 ヤサカは現状を分析する。


「正面からの攻撃は無理みたいだね。回復手段を絶って、8本の腕を破壊してからじゃないと、たぶん倒せないよ」


「回復手段を絶つって言っても、その回復手段はなんなんだ?」


 考えるファル。

 だがエンマは、考える暇すら与えない。


 突然、レオパルトが何かに引っ張られ床を引きずられていった。

 よく見ると、レオパルトの足には細い蜘蛛の糸が巻きついている。

 ヤサカは咄嗟にナイフを手に取り、蜘蛛の糸を切断、レオパルトを救った。


 レオパルトは救われたが、蜘蛛の糸に引きずられるのは彼だけではなかったようである。

 おそらくサルベーション隊員も同じ目にあったのだろう。

 遠くから悲鳴が聞こえてきた。


 悲鳴を聞いたエンマは、その悲鳴を発した人物を探し、宮殿を破壊しながら宮殿内部に入り込んでくる。

 このままでは、サルバーション本隊が危険であろう。


「ティニー! サルベーション本隊を救うぞ! エンマを攻撃!」


「分かった」


 ティニーはSMARLを構え、進撃するエンマにロケット弾を撃ち込んだ。

 例のごとくエンマは腕を吹き飛ばされ、足を止める。

 数秒後、4つの白い光は遮蔽物を透過しエンマを回復させてしまう。


 幸いエンマにこちらの存在を感づかれることはなかったが、ファルたちはため息をつく。


「あの光、遮っても無駄みたいだな」


「壁で囲んだり、洞窟に誘い込んでもダメかもしれないね。強敵だよ」


「めちゃくちゃだ。一体どこからそんな光が――」


 そこまで言って、ファルは思いつく。


「――光源を潰せば、光は消えるかもしれない」


「ファルくん、それだよ!」


「答え、単純だった」


「よし! まずは光源を探そう!」


「待て。どうやって探すんだ? どんな方法で探すんだ?」


「心配するなレオパルト。ラムダがいるだろ」


 ファルはニタリと笑って、無線機を手に取りラムダに言った。


「ラムダ! なるべく見通しの良い場所にエンマを誘い出してくれ!」


《了解です! わたしの魅力的な姿で、エンマを誘い出します!》


 ここで、なぜエンマを誘い出すのかを聞かないところがラムダらしい。

 ラムダは早速、宮殿内部でファルたちを探すエンマに向けて、戦車の主砲を撃った。


 戦車砲の攻撃に腕を破壊され、ラムダの乗る戦車に振り返るエンマ。

 エンマは戦車を排除するために、宮殿の外に出る。


 宮殿の外に出たエンマの破壊された腕に、4つの白い光が当てられた。

 確実にラムダの乗る戦車を潰すため、再びエンマの腕が回復する。

 しかしファルは、これを待っていたのだ。

 

「光だ! 今のうちに光源を見つけろ!」


 ファルの言葉と同時、ファルたちは光の先に目を向ける。

 すると、2つの光がそれぞれ2つの鏡から投射されていることが判明した。

 

「あったぞ! あれが光源だ! きっと他の2つも光の先に鏡があるはずだ! あの鏡を破壊すればエンマの回復を止められる!」


「鏡、遠い」


「大丈夫だよ。あれぐらいなら、私が壊せるから」


 スナイパーライフルを握るヤサカの、力強い言葉。

 鏡の破壊はヤサカに任せるべきだ。

 

 とはいえ、鏡を破壊するには、今隠れている場所を離れなければならない。

 鏡を破壊する前にヤサカがやられてしまえば終わりだ。

 一方でここにいるプレイヤーは全員、死ねば確実にログアウトされてしまうため、誰1人として死なせるわけにもいかない。


 いや、1人だけ絶対に死なない人物がいる。

 ファルは身体中を走る嫌悪感に耐えながら、その人物に無線を通し話しかけた。


「スグロー、お前にひとつ頼みたいことがある」


《デスグローだ! てめえの頼みなんか聞くわけねえだろ!》


「エンマの注意を惹きつけてくれ。頼む」


《勝手に話を進めるな! もう一度言うが、俺様は――》


「いいか、お前は無敵の最強男だ。だから俺はお前に頼むんだ。お前がどれだけ最強の男なのか、俺に見せて欲しいんだ!」


《チッ……分かった。俺様の活躍をその目ん玉に焼き付けやがれ!》


「……ちょろい」


 予想以上にデスグローの説得は短時間で終わった。

 よほど最強の男と思われたいのか、すでにデスグローは宮殿を飛び出し、エンマに向かって走り出している。


 宮殿の外では、ラムダの戦車とエンマが対戦している最中だ。

 ラムダは戦車を後退させながら主砲を撃ち、エンマは戦車を溶かそうと腕から炎を噴射する。

 ここに、デスグローの無駄に大きな声の無駄に自信満々な言葉が投げつけられた。


「エンマ! 俺様を殺してみろよ! 冥府の主なんだろ? ほら、殺せよ!」


 銃を乱射し叫ぶデスグロー。

 エンマはハエでも叩くかのように腕を振り下ろし、デスグローを潰した。


「その程度か? ああん? もっと来いよ! もっとだ!」


 巨大な手のひらに潰されながら、無傷のデスグローが叫ぶ。

 まさかの事態にエンマのAIは混乱したのか、エンマはデスグローを倒すことに躍起になる。


「もっとだ! もっと俺を痛めつけろ! こんな痛みじゃ足りねえよ! もっと!」


「デスグロー、楽しそう」


「楽しそうというより、気持ちよさそうだな。快感に溺れてるな」


「あいつ、ついにMに目覚めたか?」


 何度も何度もエンマに叩き潰されながら、その度に笑みを浮かべるデスグローに、ファルたちは白い目を向ける。

 だが、今はそれどころではない。


「行け! 鬼たち!」


 ファルはコピー鬼を大量に増殖させ、エンマに突撃させた。

 約50の鬼がエンマに殺到、エンマのAIはますます混乱する。


 いくら攻撃しても死なず、むしろ喜ぶ無敵の男。

 どこからともなく現れ、足元に群がる大量の鬼。

 エンマはそれらを倒すのに必死だ。


「今だヤサカ! 鏡を壊せ!」


「任せて!」


 必死になるエンマを横目に、ヤサカはスナイパーライフルのスコープを覗く。

 彼女の視線と銃口の先にあるのは、エンマを回復させる鏡だ。

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