ミッション2—8 検証結果
ティニーがチートで出したレーダ撹乱装置をヘリに乗っけて、ヘリのステルス機能を向上させた結果、警察はファルたちの乗るヘリを完全に見失ったようだ。
追っ手はなく、ファルたちは易々と『あかぎ』に帰還することができたのである。
『あかぎ』に向かう間、ヤサカの側にアマモリがリスポーンした。
しかしストロボは、死亡してから数時間が経過した今でも、リスポーンしていない。
ストロボがリスポーンしないということは、仮説は正しかったかもしれないということ。
もしかすると、もしかしたかもしれないのだ。
「我が家に到着だよォ。やっぱり落ち着くねェ」
「楽しかったです! またいつか、警察さんと遊びたいです!」
「
「チッ……なんで俺だけリスポーンした……」
「みんな、今日はお疲れ様」
夕日が差し込む『あかぎ』の甲板で、ヘリから降りたヤサカたちが本日の感想を語る。
その時、ティニーのお腹が盛大に鳴った。
「お腹すいた」
「じゃあ、すぐに夕ご飯作ってあげるね」
「ありがとう」
「ヤサちゃんのご飯かァ。待ちきれないなァ」
「おいしいご飯を待ってます!」
天使のような笑顔で、天使のようなこと言うヤサカ。
ティニー、ラムダ、クーノもヤサカの夕食が楽しみらしい。
平和かつ微笑ましい光景だ。
しかし、ファルの興味はそこにない。
彼の興味はただひとつ。ストロボがログアウトに成功したのか否か。
「俺、ちょっとコトミさんのところに行ってくる」
「私たちも行こうか?」
「いや、ヤサカは夕食を頼む。俺も腹は減ってるからな」
「分かった。楽しみに待っててね」
「ティニーとラムダも、先に休んでて良いぞ」
「そうですか? ではお言葉に甘えます!」
「霊力不足が深刻」
天使ヤサカ、警察相手に激闘を繰り広げ疲れた様子のティニーとラムダを置いて、一足先に艦内へと向かうファル。
少しでも早く、ファルは仮説の検証結果が知りたかったのだ。
『あかぎ』の艦橋にある扉に手を伸ばすファル。
ところが扉は、ファルが開けるよりも先に開かれた。
開いた扉にファルは顔をぶつけてしまう。
「顎打った! 顎打った!」
「すまない
「
「ああ、コトミさん。大丈夫……そうです」
「良かったわ」
どうやら扉を開けたのはミードンのようだ。
そしてミードンとともに、コトミも甲板にやってきたのだ。
期せずして目的の人に出会えたファル。
わざわざお迎えに来てくれたのか? などと思っていると、コトミは自ら甲板にやってきた理由をファルたちに伝える。
「みんな! お手柄よ! やっぱりあなたたちを信じて正解だったわ!」
「ど、どうしたんです?」
「フフ、詳しい話は田口さんからね」
満面の笑みを浮かべたコトミ。
そんな彼女を見て、仮説の検証結果が喜ばしいものであることに気づくファルたち。
ミードンはネコ型通信機器として、艦橋の壁に映像を映し出す。
「田口さん、
《
映像に浮かぶ田口は、冷静さを残しながらもどことなく興奮した様子。
いよいよファルたちも、表情から笑みがこぼれる。
「成果って……もしかして俺たちのプレイヤー救出、成功しました?」
《成功です。2時間ほど前、IFRに閉じ込められていた男性が無事ログアウトしたのを確認しました。脳に損傷もなく、健康体だそうです》
「……その人、プレイヤー名はストロボですか?」
《ええ、IFRではストロボと名乗り、
「……本当……ですよね?」
《嘘はついていません》
はっきりと言い切る田口。
ファルは全身の力が抜ける。
そんな彼の後ろで、ラムダが大声を上げた。
「やったじゃないですか! ファルさんよ、プレイヤー救出成功ですよ! わたしたち、ついにやり遂げたんですよ!」
「ログイン3日目でプレイヤー1人救出かァ。早いねェ」
「やっぱりトウヤは、特別な何かを持ってる」
「私たちレジスタンスが2年かけても見つけられなかったログアウト方法を、もう見つけちゃうなんて……すごいよファルくん!」
次々とファルに寄せられる、ヤサカたちの褒め言葉。
サルベーション隊員たちから浴びせられた罵声とは正反対の言葉に、ファルはどう反応して良いのか分からない。
「俺……プレイヤーを1人救出したのか?」
「うん。ファルくんはストロボさんを、イミリアから解放してくれたんだよ」
「そうか……俺の仮説は合ってたのか」
2年間の月日が経っても見つけられなかったログアウト方法。
しかしファルたちがログインしたことで、この世界にはチートが加わった。
ならば、このチートを使うことで、ログアウト方法が見つかるかもしれない。
この考えは正しかったと、今証明された。
自分の仮説に自信がなかったわけではない。
ところが、実際に自分の考えた方法でプレイヤーが救出されたことに最も驚いたのは、ファルであった。
彼は今、驚きのあまり言葉も失っている。
《
「……え? 教える?」
《はい、ログアウト方法を教えていただきたい》
「ああ……分かりました」
どうにも思考が飛んでしまっていたらしい。
ファルは冷静さを取り戻し、田口の質問に答える。
「ええと、ログアウト方法なんですけど、イミリアのアカウントBAN機能を利用して、イミリア側からプレイヤーを強制ログアウトさせました」
《なるほど。ということは、アカウントBAN機能を作動させるのに必要な条件がありますね?
「そうです。いくつか条件があって、ひとつは『チート使用』。これは他人がチート技を使って出現させた道具を使うことも含まれるみたいです」
《他には?》
「あとは『ゲームへの重大な迷惑行為』でした。ちょっとした迷惑行為じゃなく、チートを使って意図的に警察を攻撃し続けるとか、ゲームバランスに影響を与えかねないことをする必要があるみたいです」
《随分と物騒な条件ですね。まだ条件はありますか?》
「あります。さっきまでの条件をクリアしても、わざと死ぬのはダメみたいで、意図せず死ぬ必要があるようです。ただ、事故死が含まれるのかはまだ分かりません」
《意図せぬ死、ですか》
ファルから聞いた言葉をメモする田口。
この間に、ヤサカがファルに話しかける。
「ねえファルくん、どうしてストロボさんはログアウトして、アマモリさんはログアウトできなかったのかな?」
「ああ、それは今、考えてる最中」
「そっか。でも、ストロボさんとアマモリさんの違いを考えれば答えが分かるかもしれないね」
「だろうな」
同じ条件で死んだはずのストロボとアマモリ。
だが、どうしてストロボだけがログアウトに成功したのか。
ひとつ確かなのは、まだ全ての条件が判明したわけではない、ということである。
「田口さん、たぶんまだ分かってない条件があると思います」
《分かりました。救出任務中止までまだしばらくあります。この調子で、プレイヤー救出をお願いします》
「任せてください」
力強く、田口の言葉に答えてみせるファル。
田口の信頼を裏切るわけにはいかない。救出任務を中止させるわけにもいかない。
救出任務は、まだはじまったばかりなのだ。
「
「サルベーション、一緒に頑張りましょうね」
「この世界に閉じ込められたプレイヤー、みんなわたしたちで救出しますよ!」
「私たちならできる。SMARLさえあれば」
ティニーやラムダ、コトミにミードンたちもやる気満々の様子。
頼りになるような、ならないような、よく分からない仲間たちである。
一方で、ヤサカだけは静かに微笑んでいた。
静かに微笑みながら、彼女はファルの顔をじっと見て、口を開く。
「ファルくん、ありがとう」
「ありがとう? おいヤサカ、俺の何に感謝してるんだ?」
「私、この2年間ずっと、プレイヤーを解放するために頑張ってきたんだ。だけど、うまくいかなくて、1人も助けられなくて、もしかしたらもう、プレイヤーを解放するのは無理なのかもしれないって、心のどこかで思ってたんだよ」
他のプレイヤーたちを救おうと必死になり、しかし救えなかったヤサカ。
彼女は自身の2年間を、否定しようとしていたのだ。
ゲーム世界に閉じ込められ、自分も苦しかっただろうに、他人を救えぬ自分を否定しようとしていたのだ。
そんなヤサカの前に、希望が現れた。
ヤサカは変わらずファルをじっと見つめ、言葉を続ける。
「だけど、ファルくんがプレイヤーを解放してくれた。ファルくんのおかげで、プレイヤーを解放するのは無理なことなんかじゃないって、思い直させてくれた。だから、ありがとうって」
素直な気持ちを口にするヤサカに対し、ファルはどう答えていいのか分からない。
分からなかったのだが、ファルの口は勝手に言葉を紡ぎ出していた。
「なあヤサカ、約束する」
「約束?」
「俺は必ずプレイヤー全員を解放してみせる。ヤサカの2年間を無駄にはさせない。だからこれからも、一緒にプレイヤー解放を目指そう」
「うん、これからもよろしくね。約束だよ」
満面の笑みを浮かべ、ファルの小指に自分の小指を絡ませるヤサカ。
たった今、2人は約束を交わしたのだ。
ファルはヤサカのためにも、プレイヤー全員を解放すると誓ったのだ。
「ところでェ、ファルさん、今日のヤサちゃんのパンツは何色だったかなァ?」
「今日は白だ」
「そうかァ、純白のパンツかァ」
「ファルくん……君は――」
「あ! す、すまんヤサカ! つい!」
「
本日、プレイヤー救出に成功しヤサカと約束を交わしたファルの道徳ステータスは2下がり、変態ステータスが10上がった。
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