ミッション2—7 100人以上の警察と戦え!

 港にある倉庫に向かう間も、ティニーはロケランを撃ち続けていた。

 結果、ファルたちを追うパトカーは30台にまで膨れ上がり、武装警察の装甲車まで加わる始末。

 手配度が4段階目で維持されているのが奇跡である。


《次を左だよォ》


「左ですね!」


《今度はまっすぐゥ》


「良い加速が楽しめそうです!」


《今度は右ねェ》


「分かりました! せっかくだから綺麗なドリフトやってみます!」


《良いねェ。今のドリフト良かったよォ》


「ありがとうございます!」


 なんだかラムダとクーノの仲が深まっている。

 2人ともドライブステータスが高く、乗り物好きというのもあって、気が合うようだ。

 ファルとヤサカは激しく車に揺られ、迷惑しているのだが。


《到着ゥ。倉庫だよォ》


 ヴェノムとワゴン車は、港に佇む巨大な倉庫の前で停車した。

 もちろん、30台のパトカーとともに。


 ワゴン車から降りたヤサカはスナイパーライフルを抱えている。

 彼女はすぐさま叫んだ。


「急いで倉庫の中に入って!」


 警察は拳銃を手に、続々とパトカーから降りてくる。

 装甲車からは、サブマシンガンを手にした武装警察も現れた。

 このような状況では、戦闘に慣れているヤサカに任せたほうが良い。


「ティニー! ワゴン車とヴェノムをSMARLスマールで爆破して!」


「分かった」


「待ってください! お願いだからヴェノムだけは――」


 ラムダの声も虚しく、ティニーはSMARL――ロケランを連続で発射した。

 ヴェノムとワゴン車は爆炎に包まれ、残骸となって警察の行く手を阻む。


「うう……わたしのヴェノムが……」


「チート使えばいくらでも出せるだろ! 行くぞ!」


 がっくりと肩を落とし、寂しそうにヴェノムの残骸を眺めるラムダ。

 先ほどまでのテンションは何処へやらだ。

 そんな彼女を引っ張り、ファルたちは倉庫内部へと足を踏み込む。


 大きなコンテナとトラックがいくつも並べられた倉庫。

 隠れる場所は豊富だ。


「ストロボさんとアマモリさん、武器は持ってる?」


「大丈夫だお嬢。さっきティニーからアサルトライフルをもらった」


「僕もだ。良い経験値稼ぎになりそうだな」


「なら、2人はそこのトラックに隠れながら警察を迎え撃って。私とティニー、ファルくんが後方から援護するから」


「そりゃ頼もしい!」


「いつでもかかってこい、警察ども!」


 ヤサカに言われた通り、前衛に布陣するストロボとアマモリ。

 冷静な人という印象があったストロボが、意外とテンションが高いことにファルは驚きながら、ヤサカの隣でティニーに頼み事をする。


「なあティニー、護身用にショットガンをくれないか?」


「ダメ」


「ダ、ダメ!? なんでだよ?」


「ショットガンは姑息な武器」


「は?」


「あんな武器使ったら、穢れる」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 早く武器を寄越せ!」


「ショットガンは出さない」


「じゃあ、PDWでも良いから!」


「分かった。でもP900以外はダメ。P900こそが至高の――」


「こだわりが強すぎだろ……。なんでも良いから、早く寄越せ!」


 ひと悶着あったが、どうにかP900をティニーから受け取ったファル。

 こうしている間にも、ヤサカは指示を出し続けていた。


「クーノとラムは屋上で待機。いつでもヘリで逃げられるようにね」


「ヤサちゃんの指示ならァ、なんでも従うよォ」


「ヤーサよ、逃げ道はわたしに任せてください!」


 こちらもまた指示通り、クーノとラムダは屋上へと向かっていった。

 残されたファル、ヤサカ、ティニーは、入り口から最も離れた場所にあるコンテナに身を隠す。


 前衛で銃を構えるストロボとアマモリ。

 コンテナに隠れメニュー画面を起動するファル、地面に伏せスナイパーライフルを構えるヤサカ、ロケランを構えるティニー。

 これで警察との戦いは準備完了だ。


「あいつら、俺たちが待ち構えてるの分かってて突撃してくるか?」


「この世界の警察は血の気が多いし、AIも意外と凶暴だから、きっと来るよ」


「突撃してこなくても、私がSMARLでおびき寄せる」


 ファルの心配は杞憂でしかなく、ヤサカの言葉が正しかった。

 倉庫を包囲していた警察は、堂々と正面口から突撃してきたのだ。


 ジェラルミン製の盾を持ち、サブマシンガンを撃ちながら倉庫内になだれ込む武装警察。

 彼らに向けて、ストロボとアマモリがアサルトライフルを撃ち込む。


「天誅! 天誅! クソがぁ!」


「1キルゲット。経験値100獲得。ヘッドショットも狙うか」


 たった2人で警察を相手するストロボとアマモリ。

 そんな彼らに迫る警察を、ヤサカのスナイパーライフルが次々と、1発で撃破。

 加えて、ティニーのロケランが複数の警察を吹き飛ばす。


「みんな強いな。俺も負けてられるか!」


 ファルはアイテム欄に表示された武装警察をタッチし、コピーNPCを増殖させる。

 13人の同じ顔のNPCが現れると、ファルは彼らに命令した。


「警察を制圧しろ!」


「「「「「「「「「「了解デスDEATH」」」」」」」」」」


 命令に忠実に、コピーNPCたちは警察への攻撃を開始。

 今度は当たり判定がずれることもなく、きとんと戦ってくれそうだ。


「キルストリークだ! どこまで連続キルいけるか挑戦してみよう!」


「なんか、ストロボさんテンション高いな」


「ストロボさんは、イミリアが好きだからね。久しぶりのゲームみたいなシチュエーションが楽しいんだよ」


「ゲームみたいって、ここゲーム世界だろ」


「そうだったね」


 話しながらも、ヤサカは的確にヘッドショットを積み重ねている。

 テンションの高いストロボも驚きだが、ヤサカの強さには魅入ってしまう。

 さすがは5本の指に入る強さのプレイヤー。


 銃撃戦がはじまってしばらくすると、コピーNPCに異変が生じた。

 撃たれたコピーNPC3体が、大の字で宙を舞い、倉庫内を壮大にバウンドしているのである。


「あのコピーNPC、憑依されてる」


「いや違うぞティニー。あれはただの物理演算バグだ」


「スコープにちょくちょく入ってきて、狙いにくいよ……」


 どうにもファルのチート技が安定しない。

 安定しないが、飛び跳ねるコピーNPCは警察の邪魔もしているため、悪いことばかりではない。

 問題は、ファルたちにもぶつかってくることだ。


 バウンドしていたコピーNPCにぶつけられ、地面に倒されるファル。

 無性に腹が立ったファルだったが、地面に伏せるヤサカのスカートの中身が見えたので怒りは消えた。


 倉庫内を3体のコピーNPCが飛び跳ねているが、戦闘は続く。

 どうやら敵の警察は100人以上いるようで、倒しても倒しても警察は倉庫になだれ込んできた。


「クソクソ! キリがねえよ! なんか跳ね回ってるしよ! ふざけんな!」


「アマモリ、そんなにカッカするな。もう少し楽しめ」


「俺がこの世界を楽しむわけねえだろ!」


 最前線にて、銃声の中で辛うじて会話を交わすストロボとアマモリ。

 その時であった。


「どんどん湧いて出てきやが――」


「アマモリ? アマモリ!」


 ついにアマモリが撃たれた。

 しかも運悪く、ヘッドショットであったらしい。アマモリは即死だ。


 アマモリが死んだことで、警察の勢いは増す。

 彼らの放つ銃弾は、ストロボに殺到した。


「死ぬ前にもう少しだけ楽しませてくれ!」


 観念したのか、ストロボは笑顔のまま体を乗り出し、銃を乱射する。

 そんな彼に警察は容赦なし。

 数多の銃弾がストロボの体を撃ち抜く。


 アマモリの死からわずか1分程度、ストロボも警察に殺され死亡した。

 形勢は一気に警察に傾く。


「2人、殺された。リスポーン待つ?」


「ううん、ここは逃げたほうが良いと思う」


「俺もヤサカに同感だ。さっさと屋上から逃げよう」


 大の字でバウンドするコピーNPCは7体に増えている。

 彼らが警察を邪魔する間に、どう見ても勝ち目のないこの戦いから逃げるべし。

 しかも、敵は警察だけではないようだ。


「携帯電話のビープ音? まさか……」


「ガロウズが来たみたい。急ごう!」


 倉庫内部はバウンドコピーNPCに任せ、屋上へと急ぐファルとヤサカ、ティニー。

 屋上に到着すると、ティニーが屋上につながる梯子をロケランで破壊する。

 

 ラムダはすでにヘリ――NH900を用意していたようだ。

 回転翼が回るヘリの操縦室にはクーノとラムダが座り、いつでも離陸は可能。

 ファルたちは飛び込むように、開けられたハッチからヘリに乗った。


「離陸しろ! 早く逃げるんだ!」


「そんなに焦らなくてもォ、きちんと逃げられますよォ」


 息を切らすファルとヤサカ、ティニーとは対照的なクーノ。

 彼女の言葉の直後、ヘリは空を飛び、小阪の街を離れようと加速する。

 

 パトカー30台が包囲する倉庫前には、こちらを睨みつけるガロウズの姿が。 

 空を飛んでしまえば、警察もガロウズも成す術がない。

 これならば無事に、ファルたちは小阪から逃げられそうだ。

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