ミッション1—3 武装警察を足止めせよ
まさかの展開だ。
リッチが屋上から金をばらまいたおかげで、NPCが群がり武装警察の行く手を阻んだのだ。
《今だ! サルベーション本隊! 倉庫に突っ込め!》
《了解しました! 行くぞ!》
《プロゲーマーの本気、見せてやるぜ!》
サルベーション本隊は、隠れていた雑居ビルの中や車の中から飛び出し、武器を構えて倉庫に突入していく。
これで倉庫の確保は確実なものとなった。
問題は、武装警察をどうするかだ。
「ティニーとラムダは俺を護衛してくれ。その間に、俺がNPCをコピーして、武装警察を撹乱してくる」
「オーケーです! ちょっと試してみたい兵器があったから、ちょうど良いのです!」
「
「お前ら、やり過ぎんなよ。ミードンはそこで待機」
「このミードンが戦うほどの相手じゃないから、当然! にゃ!」
「てめえ! 俺様を無視するなっての! 俺様はなにをすりゃ良いんだ!?」
「スグローは――」
「なんだスグローって! ダサい呼び方すんじゃねえよ!」
「デスグローって時点で十分ダサいだろ」
「てめえ! もう一回言って――」
「ともかくスグローは、サルベーション本隊の手伝いでもしてこい」
「チッ……」
よっぽどファルと一緒にいるのが嫌なのか、デスグローはそそくさとサルベーション本隊の手伝いに行ってしまった。ファルが何をしたというのか……。
ティニーとラムダは戦闘の用意をはじめている。
ファルは大きく深呼吸をして、武装警察が集まる場所へと駆けて行った。
「ハハハ! 金に群がる愚民共! 僕を崇め奉れ!」
「あいつ、ホントに何がしたいんだ?」
1人で悦に入るリッチの言動は理解できない。
ただ、彼のおかげで武装警察が動けないでいるのも事実。
「警察に見つからないようにするには……あそこだな」
人混みをかき分け、1台の車の陰に隠れたファル。
武装警察は彼の存在に気づいていない。
そして、1人の武装警察官がファルのすぐ側までやってきた。今こそファルのチート技『NPCコピペ』のチャンスだ。
手を伸ばし、ファルは武装警察官に触れる。
これだけで武装警察官NPC1人のコピーは終わりだ。
「mn起動。ええと……このNPCを保存。よし、アイテム化されたな。じゃあ、NPC使用。何体増殖させようか……」
細かいことは気にしなくて良い。
ファルは某名人のように画面を連打した。
すると、先ほど触れた武装警察官が次々と増殖、最終的に30体まで増えた。
「うわ、同じ顔の人が大量にいると、ちょっと気持ち悪いな」
苦笑いを浮かべたファルだが、NPCコピペは成功だ。
コピーNPCはファルの命令に従い、ファルを攻撃する者に自動的に襲いかかる設定。
ならば、あとは武装警察にファルが襲われれば良い。
「おい政府の犬たち! お前らの敵はここにいるぞ!」
「標的発見! 攻撃しろ!」
すぐ近くに現れたファルに対し、武装警察は武器を構え、ファルに対し発砲する。
その瞬間、コピーNPCたちが一斉に武装警察を睨みつけた。
同じ顔の人間が、同じタイミングで同じ行動をとると、なかなかに気味が悪い。
「「「「「「「「「「敵、認定シマシタ」」」」」」」」」」
「一斉に喋ると余計に気持ち悪いな」
「「「「「「「「「「コピーノ主ヲ、守ル」」」」」」」」」」
「コピーの主って、俺のこと? 他に呼び名ないのか?」
「「「「「「「「「「コロセ、コロセ」」」」」」」」」」
「……大丈夫かな、コピーたち」
不安が尽きないファルであったが、どうやら杞憂であったようだ。
コピーNPCたちは武装警察に武器を向け、容赦なく攻撃を加えた。
「敵確認!」
「敵は大家族だぞ!」
「テロリストは兄弟だ! 撃て撃て!」
さすがにコピーNPCに対する台詞は用意されていなかったのだろう。
武装警察NPCたちは、同じ顔のコピーNPCたちを大家族として認識したらしい。
ファルのおかげで、武装警察NPCとコピーNPCの潰し合いがはじまった。
これで武装警察のサルベーション本隊への攻撃を防げるはず。
ところが、ここで問題が発生した。
「ヤラレタ!」
「腕ヲ撃タレタ!」
コピーNPCたちが次々と倒れていく。車の陰に隠れ、どう見ても弾の当たっていないコピーNPCたちも含めてだ。
何が起きているのかと、目を凝らすファル。
どうやら武装警察の放った弾丸が空中で潰れ、その瞬間にコピーNPCが倒れている。
「まさか……当たり判定がずれてる?」
試しにファルは、アイテム欄から拳銃を出現させ、コピーNPCの頭上30センチ程度の場所を撃ってみた。
すると、ヘッドショットの表示と共にコピーNPCが死亡し、経験値150が手に入る。
「やっぱりバグってる!」
チート技で無理矢理に増殖させたNPC、バグっていてもおかしくはない。
おかげでコピーNPCは次々と武装警察に殺され、早くも10人まで減ってしまった。
「マズイぞ。このままじゃ武装警察が――」
ファルが焦りだしたその瞬間だった。
突如としてファルの目の前で爆発が起き、ファルは吹き飛ばされ地面に横たわる。
揺れる視界の中、煙を吐くロケランを構えたティニーの姿が遠くに見える。
「ティニー! 殺す気か!? 1500もダメージくらったぞ!」
「直撃しなければ、大丈夫」
「どこが大丈夫なんだ!? 俺もお前の頭も大丈夫じゃないから!」
そう叫んだと同時、再び目の前で爆発が起き、吹き飛ばされるファル。
HPは5200まで落ちた。
白みがかった視界の中、主砲をこちらに向けた戦車がティニーの横にいるのが見える。
この世界の戦車は、1人で車長、操縦士、砲手、装填手の役割をこなせてしまう。
つまり、ラムダ1人でも戦車を扱えてしまうのだ。
「ラムダ! 戦車で攻撃とか死ぬから! チートHPでも死ぬから!」
必死に叫ぶファルに対し、ラムダは戦車から顔をのぞかせ答えた。
「ログアウトできないだけで、デスゲームじゃないんですよ! リスポーンはできますから安心して!」
「安心できるか!? 死んだらステータスは大幅に減るだろ!」
「ステータスが減れば、また経験値を稼げば良いじゃないですか! 楽しいじゃないですか!」
「そうだけど! そうだけども!」
メチャクチャだ。
なぜこの数秒間で、2度も仲間に殺されかけなければならないのか。
ファルの先行き不安は右肩上がりである。
ただし、ティニーとラムダの攻撃により武装警察は壊滅した。コピーNPCも壊滅した。
これでサルベーション本隊の危機は去った。今だけは。
「手配度、上がった」
「ホントです! 不思議ですね!」
「お前らのせいだよ! ロケランと戦車使ったら、手配度もそりゃ上がるよ! どうすんだよこれ!」
イミリアの世界には、手配度という指数が存在する。
罪を犯した者は自動的に手配度が付き、罪の重さによって最大6段階まで上昇するのだ。
現在、ティニーとラムダの手配度は5段階目。軍隊が出動するレベル。
「軍隊相手なら、このミードンに任せるのだ! 1国の軍隊を相手することなど、世界を救うことと比べれば朝飯前なのだ!」
「じゃあミードン、軍隊を追い出すまで朝飯なしな」
「それは困る! ミードンはご飯を食べないと戦えないのだ! にゃ!」
「それだと朝飯前のことなんてなくなる気が」
「あ……そこに気づくとは、やはりあなたは神様!?」
一切の頼り甲斐がないミードン。
ただし、かわいいので許す。
ここ八洲の軍隊は、出動まで時間がかかるという特徴がある。
それでもあと1時間もすれば、八洲軍が襲いかかってくるはずだ。
もし手配度6に上がれば、イミリアで最もゲーム的な存在と呼ばれる『巨大空中戦艦』が襲ってくる可能性すらある。
面倒事が迫っているのだ。
ファルはティニーとラムダのもとに歩み寄り、大きなため息をつく。
「武装警察相手ならまだしも、軍隊相手はキツイ。お前ら、少し隠れてろ」
「私たちの心配、してくれるの?」
「ファルさんよ、優しいじゃないですか!」
「違う。俺は俺の心配をしてるんだ。俺の手配度はまだ1段階目、あと数分で消える。でもお前らの手配度はあと数日は消えない。だから、どっかに消えろと言ってるんだ」
「意地悪」
「国家権力に追われるいたいけな少女を見捨てるなんて、ひどいですよ!」
「自業自得だろうが! いいからどっか行け!」
怒りに身を任せ叫んだファル。
だが少し冷静になってみると、ファルの考えは変わった。
「いや、待てよ。軍隊はどうせここに来るだろうから、サルベーションが軍隊に見つかって戦闘になるかも……となると、ティニーとラムダのチートは必須……」
「おやおや? ファルさんよ、わたしたちの必要性が理解できたのですか?」
「トウヤは、私たちを捨てられない」
「……なんか悔しいけど、やっぱりお前たちにはここに残ってもらう。悔しいけど、万が一になったら、ここで軍隊と戦ってもらう。悔しいけど」
「おお! ファルさんよ! ありがとう!」
「これでまた、SMARLが使え――」
「戦闘が起きるまで、お前らはおとなしくしてろ!」
なぜ、こんな2人に重要なチート技を持たせてしまったのか。
今後のことを考えるとますます頭を抱えたくなるファル。
そんな彼のもとに、コトミから嬉しい知らせが届いた。
《
サルベーション本隊の方は、無事に作戦を終わらせたようだ。
なんやかんやと、目的は達成したのである。
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