自主企画「1シーン連想」コン、最速めざして
かんらくらんか
イワオ
空き地の端っこで、イワオが、歯を食いしばって重たい岩を持ち上げている。その足元には、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている小人がいる。もしも、イワオが手を放せば、小人は潰れて死んでしまうだろう。
イワオの姿を見つけたタケミが、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「なにをしているのよ」
「小人助けだよ」
「え」
「小人はね、死の危機にひんしていなければ、眠ることができないんだ。いつ死んでもおかしくない状況でないと安心することができないんだ。あ」
イワオは汗で手を滑らせた。
ドシンと音を立てて、岩が地面にぺたんとつく。
タケミがおそるおそる聞く。
「ねえ、小人はどうなったの」
「潰れて、死んだんだ、なんなら確認してみようか」
「やめて!」
岩の下からにじみ出てくる青い液体は、小人の血だ。
「イワオくんがこんなにひどい人だとは思わなかった!」
「ひどいかな」
「ひどいわよ! わからないの?」
「わからないよ、小人はスヤスヤと眠りながら、死ぬことができたんだ。苦しんで死ぬよりもずっと良いじゃないか」
タケミはなにも答えられなかった。
イワオが、彼女の首をぎゅっと絞めたからだ。
「ぐ、う、う……」
「ねえ、苦しんで死ぬより、スヤスヤ眠りながら死んだ方が、ずっと良いでしょう? ねえ、ねえってば、ねえ、ねえって、ねえ、ねえ、ねえ、ん、あ、死んじゃったのか。返事ができないわけだ」
イワオの姿を見つけたカフカが、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「なにをしているのよ」
「人助けだよ」
「え」
「タケミちゃんはたいして苦しまないで死ねたんだから、良かったよね」
カフカは恐ろしくなって、逃げ出した。
「――どうして逃げるんだい」
イワオはカフカを追いかけた。二人の走るスピードは拮抗している。
イワオはけして諦めず、カフカはどこまでも逃げなければならなかった。息が苦しい。心臓が苦しい。苦しい苦しい苦しい。でも、立ち止まってはいけない。人間は生きるために苦しみ続けなければならないらしい。
なぜか、誰も助けてはくれない。あの人もあの人もあの人も、みんな見て見ぬふりをしている。ひどい人ばかりだったのだ、と、今日になってはじめて気がついた。しかし、よく見ると、誰も彼もがそれぞれのイワオに追いかけられ、必死に息を切らし走っていた。
この遁走が死ぬまで続くのだと悟ったとき、カフカは小人になりたいと願う。
岩の下でスヤスヤ眠ることのできる小人に。
自主企画「1シーン連想」コン、最速めざして かんらくらんか @kanraku_ranka
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