第一項(2)
「ほな、澪斗は暴走族との一件について報告と後処理を頼む。希紗は引き続き、予告状の差出人について調査。ワイはさっきの過激派ニートについて判明した情報をまとめとく」
応急処置の終わった右腕を押さえながら、真がてきぱきと指示を出していく。そんな上司の顔を見上げて、純也は恐る恐る挙手をした。
「あの、真君。僕たちは……」
「あと三十分そこで正座な」
「はい……」
監視室の床で、純也はしょんぼりと遅刻の罰を受けている。対して隣の遼平は早々にあぐらをかき始めた為、部長渾身のハリセンで前頭部を強打された。小気味良い音で上半身を吹っ飛ばされた遼平は、器用にも腹筋の力だけで元の体勢に戻ってくると。
「ってえー! 真テメッ、腕撃たれたんじゃなかったのかよ!?」
「心配どーもおおきにー、こっちは左腕じゃ。久しぶりの大きい仕事やっちゅーのに、まァた遅刻しおって! ただでさえウチは人手不足やのにッ」
「それでもなんとか事件になる前に食い止められたじゃねーか!」
遅刻ぐらい大目に見ろ、とまだ反抗する部下を前に、仁王立ちした真のこめかみが震え始める。確かになんとかギリギリ、首の皮一枚のところで誤魔化せたし、美術館は現在予定通りプレオープンを迎えているけれど。
「……でもぶっちゃけ、遼平たちって何もしてないわよね?」
「何を言う希紗。正門ゲートの塗装を傷つけ、花壇を荒らし回った挙げ句、ホール通路の窓ガラスを粉砕してくれたではないか。弁償代の請求が待ち遠しいな」
「うぐっ」
正座させられている二人の背後から、同僚たちの心ない正論が届く。
壁一面に展開されている無数の監視映像、その正面に我が物顔で腰掛けているのが、職場の紅一点でもある希紗だ。ブラウンのポニーテールを左右に揺らし、愉快そうに『反省させられる遼平の図』を携帯で撮影している。
一方、その横で路上の生ゴミでも見つけてしまったような目を浮かべているのが、先の狙撃手、澪斗である。
そう、結局寸でのところで、遼平たちは何の役にも立てなかったばかりか。
「僕のせいで、真君に怪我まで負わせてしまって……本当にごめんなさい」
深々と頭を下げる純也に、遼平もばつが悪そうに顔を背ける。部長は短く溜息を吐くと、今にも泣き出しそうな純也の髪にぽん、とハリセンを乗せた。
「そのことは気にせんでエエよ。ホンマに、被害者が出んで良かった」
犯人が発砲する間際、銃口に自身の利き腕を押しつけ、それも骨に当たるよう瞬時に調整したのだ。おかげで弾は貫通も跳弾もすることなく彼の体内で留まり、負傷者は出なかった。右腕が上げられなくなった、真を除いては。
純也の適切な処置と、骨繊維治癒促進剤のおかげでしばらくすれば元通りになるだろうが、初日から深手を負わせてしまったことに変わりはない。
「つーかお前、わざと捕まってたんだろ? あの花束なんだよ」
「いや、好きで人質しとったわけじゃ……。何人か気になる客をマークしとって、特に顔色が悪かったもんやから『大丈夫ですかー』って声かけたら、いきなり」
天井に向かって一発撃ってしまったので、その場で取り押さえれば騒ぎになるのは確実、と判断したらしい。とりあえず人質になって時間を稼ぎ、希紗の偽装工作が整うのを待っていたのだと言う。
「ね、役に立ったでしょ私の特製ブーケ型クラッカー! 今日の星座占い、真は『有史以来稀に見る地獄の一日』ってあったから、せめてラッキーアイテムのバラを持たせてあげようと思って」
「ラッキーアイテムに火薬仕込んでんじゃねーよ」
得意満面に胸を張る希紗に、部長は「あァうん、ありがとう……」と肩を落とす。
依頼先ではオペレーターも兼任しているが、希紗の本職はメカニッカーである。現場を巡回する社員たちの装備品から、武器、監視システム、果てはちょっと便利なキッチン家電まで、造れない物は無い天才発明家――というのが本人談だ。
彼女が生み出した道具で幾度も命拾いをしているので、同僚たちもその腕前を認めてはいる。が、それと同じ数だけ「その機能ほんとに要る?」と首を傾げざるを得ない遊び心に振り回されてきたので、未だ希紗特製アイテムに全幅の信頼を寄せられていないのだった。
「そもそも、何故あのような者の入館を許したのだ。今日は招待カードを持った人間しか入れんのだろう」
「調べたんだけど、彼が持ってきたカード自体は偽造じゃなかったのよ。内蔵されてた識別チップはマスコミ関係者のもので、招待されたはずの本人に連絡してみたら『どこかで失くしてしまった』って」
「つまり奴にスられたってことだろ」
「それが、どうやら違うらしい」
首を横に振ったのは真だった。皆の視線が集まる中、左手で自身の小型端末を操作して、あるウェブサイトの画面を差し出す。
また随分と飾り気の無い、インターネット上の掲示板。それも誹謗中傷ばかりを書き込む場所であるらしく、真が選択したスレッドは『宮友グループ』を攻撃対象にしたものだった。
「さっきの犯人、これの常連らしくてな。そんでいつも通り、ここで憂さ晴らしをしとったら、ある人物からメールが届いたと」
『貴方の義憤はもっともです。庶民を人とも思わない宮友会長は、天罰を受けるべきだ――』そう切り出して、美術館の襲撃を持ちかけてきたのだという。招待カードも小型拳銃も、その協力者が用意してくれたもので、あとは男が実行するだけで良かった。
無論、犯人のそんな自白が全て真実である証拠は無い。だが単身乗り込んできた見通しの甘さといい、現場での狼狽え方といい、それまで入念な準備をしてきた人物とは思えない言動だったのは確かだ。
「だとすると、奴は愚かな操り人形か。それも低レベルのデコイだな」
「正門に来てた暴走族も、同じく囮ってとこかしら」
「まァそう考えるのが妥当やろなァ。ただ、そうすると一つ腑に落ちんのが――」
「……おい純也、なんでいま人形と族が大トリって話になってんだ?」
「うん、後で絵に描いて説明してあげるから、もう五分だけ静かにしていようね」
慣れない正座のまま耳打ちしてきた遼平に、純也は苦笑いで答える。「いま教えろよ」「解説してもいいけど、遼すぐ忘れちゃうでしょ?」「そしたらまた教えろ」一切悪びれないどころか、何故か偉そうにそう言い切った男の頭部を、再度ハリセンが襲った。
「てンめぇさっきから、人の頭を何だと思ってやがるッ!」
「いや、あんたに限ってはもうこれ以上壊れる脳細胞も無いかな思て」
「ざけんなッ、ノー細胞どころかイエス細胞だって有るわ!」
「あ、ほんとに無いわねこれ」
仲間たちの目に同情の色が浮かび始めたので、純也は男を庇うように両手を広げて首を振る。
「違うのっ、遼はちょっと難しい言葉を知らないだけで、ゆっくり説明すれば理解できる認知機能は有るから……!」
「そうだぜ、純也が和訳すれば分かる!」
「ずっと日本語だったやろ」
ちなみに『ちょっと難しい』の基準を尋ねてみたところ、純也は目を泳がせて「小学校高学年くらい……」と口ごもった。今度は少年に対して、皆から哀れみの視線が突き刺さる。
部長が溜息混じりに「現状分析と今後についてまとめるから、純也はそれを紙芝居にでもしたって」とこぼす。少年は大きく頷き、背負ってきたリュックサックから画用紙とクレヨンを引っ張り出してきた。一週間泊まり込みの警備依頼で、何故そんなピクニックじみた持ち物が詰め込まれていたのかは、もうこの際不問とする。
「あの立てこもり未遂犯をそそのかした人物の、本当の目的は会長やない。真剣に命を狙おう思たら、もっと人数を集めるはずやからな。あの男は、ただ騒ぎを起こさせる為だけの囮……陽動やと考えるのが、まァ定石やろ」
「表に集まっていた暴走族さんたちも、だね?」
「せや。同時多発的にトラブルが発生すれば、警備スタッフは分散せざるを得なくなる。その、警備が手薄になる瞬間こそ、黒幕の目的だったはずなんやけど……」
そこまで言って、部長は困惑顔で後頭部を掻く。「結局、何も起こらんかった」
希紗がモニターを操作し、一連の騒動があった時間の監視映像を全て映す。中央ホールのみならず、別館の各展示室まで全てをチェックしたが、侵入者どころか何の変化も無かったのだと言う。
「イベント会場で騒ぎが起こった時、真っ先に『鮮血の星』周辺の警備を強化したのよ。てっきり、あの予告状を出してきた犯人が、騒ぎに乗じて現れると思ったから。でも結果はご覧の通り、つつがなく『鮮血の星』は公開されたのでした」
「めでたし、めでたし」などと締めつつ、希紗の顔に浮かぶのも戸惑いだ。肩をすくめてから手元のキーを打鍵すると、一番大きいディスプレイに、現在の中央ホールの様子が映し出される。
オープニングセレモニーで予定通りお披露目された『鮮血の星』に、人々が群がり壁を作っているところだ。
今回の為だけに特設された黒曜石の土台に、正方形の強化ガラスが乗せられている。ガラスケースと土台が接する四隅に、それぞれ埋め込まれているのは大粒のダイヤモンド。そして、それら全てを前座扱いにして鋭く紅い光を放っているのが、今イベントの主役、細工指輪の『鮮血の星』である。
己が世界の中心だと言わんばかりに、全てのスポットライトを受けて、取り囲む人々の瞳を紅く染め上げる。製作者がこれを遺作として自殺したとか、所有者が代々悲劇に見舞われてきただとか、そんな逸話を知らなくとも目を惹きつけて離さない何かが、確かにあった。
もちろん『鮮血の星』以外にも、館内には所狭しと美術品が並んではいる。だがそれら全てをかき集めても、あの指輪一つの価値に届かないらしい。犯罪者がありとあらゆる手段で狙ってきても何の不思議も無い、僅か六グラムの至宝なのだ。
「とりあえず予告状の差出人と、暴走族にデマを吹き込んだ拡散元、それと立てこもり犯の協力者。これを洗っていって、繋がりがあるか調べるわ。あのアグレッシブ無職さん、今はどこに?」
聴取がしたい、と立ち上がった希紗に、部長は「それが……」と言葉を濁す。
もともと事件など無かったことにしているので、当然だが警察には引き渡せない。かといって、その場で無罪放免というわけにもいかない。あの後、ステージ裏で気絶させた犯人を担いだまま、どうしたものかと考えあぐねていた真に、声をかけてきたのは意外な人物だった。
「挨拶を終えた宮友会長がな、『なかなか見事な肝っ玉。今度ウチで立ち上げる、フラッシュモブ事務所に是非』とか言うて、そのまま人事部に連行されてもうた」
「わぁっ、就職先が見つかって良かったね!」
「それ強制労働の一種じゃない?」
純也は手を叩いて祝福しているが、あの本人の主義主張に鑑みるに、極刑以外の何物でもなさそうだった。どうやら元無職の彼には、もう直接会って話は聞けないようだ。
「暴走族は尻尾巻いて逃げちゃったし、そうなると手がかりらしいものは、これしか残ってないわけね」
希紗が指でぴらぴらと摘まみ上げているのが、宮友グループに届いた例の予告状。の、コピーだ。本物はグループ側が管理しており、一度調べさせてもらったが、指紋などの分かりやすい痕跡は何も無かった。
「まぁ頑張ってみるけど、時間ちょうだいね」と、希紗は自身のノート型端末を広げ始める。部長も頷き、口を開きかけたところで、監視室にノックが響いた。
「やぁ、お邪魔するよ」
「会長……!?」
喫茶店感覚でひょっこり顔を出したのは、セレモニーを終えた姿のままの宮友会長だった。背後には影のように付き従う、女性秘書が一人。
会長のやや腰の曲がった小さな体躯を、上質なオーダーメイドスーツが包む。ハットを脱いだことで現れる禿頭とは反比例して、顎から下の白髭は長い。皺で垂れた目尻といい、絵本に出てくる仙人みたいだと、純也は思った。
ついじろじろと見てしまった純也の視線に気付き、会長は少年へにっこりと微笑み返す。そこで我に返り、更には自分たちがまだ正座したままだったことを思い出して、純也は急いで直立する。
「ほら、遼も!」と焦って促すと、慣れない正座のせいで遼平は顔面からつんのめった。死に瀕した虫の如く、脚を痙攣させながら床で悶えている男を隠す為、部長が全力の愛想笑いで取り繕う。
「ど、どうされました会長? わざわざこのような所までお越し頂いてっ、何か御座いましたでしょうか?」
「いやぁ、こっちの用事は細かいことなんじゃけれど。それより彼、大丈夫?」
「アハハご心配には及びませんっ、これは持病の発作で床を舐める習慣がありまして!」
反射的に怒鳴ろうとした遼平の後頭部を、澪斗の靴底が踏みつける。しばらくこのまま床とディープキスをさせられそうだった男に、会長が「ふむ、タイミングが悪くて申し訳なかった」と歩み寄って腰を屈めてきた。
「確か、君とはまだ挨拶をしていなかったかのぅ。霧辺くんたちとは朝、顔合わせをさせてもらったんじゃが……あぁそうじゃ、君とも初めましてじゃな」
言って、会長は純也を見る。どきりとして、素直に遅刻のことを謝ろうとしたが、それを制するようにして真が「そうでしたねっ、この二名は別件の仕事後に来たので!」と声を上ずらせる。どうやら二人が不在の理由を、そう弁明していたらしい。今度は心苦しさで、純也の胸が痛くなった。
「その……ご挨拶が遅くなって申し訳ありませんでした、宮友会長。僕は純也と言います。それで、こっちが」
「……蒼波、遼平」
ようやく顔を上げられた遼平が、喉元まで出かかっている澪斗への殺気を抑えながら、不機嫌そうにそれだけ口にする。とても依頼主に見せてはいけないその表情を遮るため、純也が「お会いできて光栄ですっ」と会長へ歩み寄った。
「うん、私もじゃよ」そう握手を求めてきた会長の手のひらは、年相応に細く骨張っていて、純也はそっと包むように握り返す。孫を見やる祖父のような目つきのまま、会長は少年を上から下まで二往復ほど観察すると、僅かに心配の色を滲ませた。
「君たちのことは事前に書類でも確認しとったんじゃが……。純也くん、と言ったかね? 君、歳はいくつかのぅ?」
「え、あ……それは……」
返答に窮してしまった純也に、会長の眉根が寄る。ここまで静観していた女性秘書が、眼鏡を指で押し上げ、上司の真意を代弁する。
「失礼ですが、お見かけしたところまだ随分お若いようで。ご提出頂いた資料にも複数、欠けている情報がありましたので、そちらを確認させてください」
それでもまだ遠回しに言ってくれているのだろうが、要は「どうして子供が警備員に」と問いたいのだ。いくら非合法・非常識がまかり通る裏社会とはいえ、『そもそも子供が戦力になるのか』という点を気にするのは、雇い主として当然と言えよう。
これまで幾度となく向けられてきた眼差しに、けれど今も慣れることはなく、純也は小さい肩を更に縮こませた。
別に、後ろめたい事情があるわけではない。強いて言うなら、何も無いのだ。
思い起こせるのは、一面の白。
二年前の冬、純也は路上で行き倒れていたところを、遼平に拾われた。どうしてそんな所にいたのか、自分がどこから来たのかも、一切思い出せないままに。
ただひとつ、『純也』という名前しか持ち合わせていなかった迷い子を、遼平は居候として自分の家に住まわせてくれた。
生活費まで遼平に負担させるわけにはいかないと――実際、彼一人の稼ぎだけではどうにもならなかったので――無理を言って、なんとか同じ職場に入れてもらっている。
そんな事情を正直に話したところで、依頼人も「あぁなるほど」などとすんなり安心はしないだろう。『自称・素性不明の子供』を、関係者エリアに入らせること自体どうかと思う。
客観的にも常識的にも純也の存在は異質で、それを少年も自覚しているからこそ、上着の裾をきゅっと握って言葉を詰まらせていた。
「すみません、僕は――」
「こいつは、俺の弟だ。蒼波純也。おんなじ苗字で呼ばれると面倒だからな、一々書かなかったんだよ。こんなナリだが俺らもプロだ、貰った金の分はキッチリ仕事すんぜ」
純也の髪に大きな手を乗せて、遼平が口元を引き上げた。軽薄な表情の中、黒の双眼だけが真っ直ぐ秘書を射すくめる。
この寝癖の先まで粗雑さが滲み出ている男と、あどけなさの中に知性を感じさせる少年とでは、仮に「遠い親戚筋」と言われたところで信憑性は低い。にもかかわらず、決してこれ以上は踏み込ませないという男の意志に、秘書は気圧され気味に「失礼しました」と一歩下がった。
「ふむ、気を悪くさせてすまなかったのぅ。無論、こちらは依頼通りの仕事を完遂してもらえれば、何の不満も無い。先程の手際も実に見事じゃった」
「おう、だろ?」
得意げに腕を組む遼平に、「お前が言うな!」という言葉を寸でのところで飲み込んだ仲間達の視線が刺さる。だがそんなものは意にも介さず、面倒臭そうな目つきで「で、何しに来たんだよ」とクライアントをぞんざいに見下ろした。先程から、大口の顧客に敬語を使おうとする気すら無い部下に、部長の胃は限界寸前だ。
「あぁ、そうじゃった。いかんのう、近頃は物忘れが激しくて。まぁ大したことではないんじゃが、あの『鮮血の星』の窃盗予告。あれが、マスコミに流れてしまったよ」
「えぇ!?」
思わず素っ頓狂な声をあげた真の前で、会長は「いやぁ困ったのう。どうしよう?」と朗らかに小首を傾げる。
「先程から、問い合わせの電話が鳴り止まなくての。身内を疑いたくはないが、一体どこから漏れたのかのぅ……」
「予告状の差出人が、あえて流したのかもしれません」
そう推測を口にしたのは、純也だった。一斉に皆の視線が集まったので、少年は「急に、ごめんなさい」と僅かに小さくなって、それでも真剣な光を瞳に宿す。
「悪戯であれ本気であれ、予告状を出すような人物の動機は、自己顕示欲の可能性が高いです。予告状を宮友グループに無視されたと思い込んで、より大々的に動いたのかもしれません。だから……」
最後に、純也の眼に気遣いの色が浮かぶ。そこで少年の意図を察して、会長は穏やかに微笑んだ。
確かにその可能性も、充分にあるだろう。ここにいる大人全員を納得させうるに足りる理屈だ。けれど何より純也は、部下を信じたい会長の気持ちをこそ、守りたかったのだと。
「ありがとう。そうじゃな、リーク元が身内とは限らん。それより、これからの対応について考えんとのぅ」
「マスコミはともかく、警察が捜査に動き出すと厄介ですね……。問い合わせについて、何とお返事を?」
「うむ。それについては、夕方に会見を開くことにしたよ」
「
「せっかくのオープニングイベント、警察のせいで物々しい雰囲気にはさせたくない。じゃから会見では、『そんな予告状は知りません』と全力で白を切ってみせるよ」
宮友会長はそう言って、茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばす。
警察に介入されれば、予告状以前に、裏社会の住人であるこの警備員たちが連行されかねない。そんな危機が迫ろうものなら即刻依頼は破棄され、中野区支部に一ヶ月ぶりに舞い込んだ仕事は泡と消えてしまうのだ。
半ば縋るような目で真が深々と頭を下げると、宮友会長は「この程度、細かいことじゃよ。君たちは気にせず、仕事に専念しておくれ」とだけ言い残し、監視室を後にした。
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