第12話 花火
何時かの小学生。雪が降っていた。
空に舞うそれを手の平に乗せると、溶ける。
「積もるかなぁ」
すると母が
「積もらないわよ」
「また雪ダルマ作りたいなぁ。かまくらは無理かなぁ」
ギシイギシイ。
「やだ、雪かきが大変よ」
「お母さんのケチ」
ギシイギシイ。
ギシイギシイ。
耳元で音がする。目を開けると、車掌さんが跳ねていた。
「おやおや、起きられましたか」
わたしはベッドの中にいた。車掌さんはベッドの隅で器用にバネを利かせている。
女の子と男の子も駆け寄ってくれた。
「大丈夫?」
どうやら気を失っていたらしい。
「んっ……うん……」
手を挙げ、伸びをする。段々と視界がはっきりして来た。空が闇色だ。
「あれっ? 天井は」
「昆虫に持ってかれたの。足でひっかかれてね」
天井には生々しい大きな穴が縦長に空いていた。まさか! 駄目っ! わたしは堪らず起き上がり、そのまま第一車両に走り込む。数々の星座が描かれている車両。その天井は変わらずに、煌いていた。
「よかった……無事で」
「うんうん、被害は車掌室だけみたいだ。それも天井に丁度いい穴が。アメフッテジカタマルとはこのことだね」
男の子が、ぽんと円筒形の花火を叩く。そうだ、花火を打ち上げよう。
車掌室へと引き返す。
「あの、ライターあります?」
車掌さんが
「マッチなら、ほら、これです」
赤にラクダのシルエットが浮かぶマッチ箱だった。
花火を天井の穴に向けて置き、縄を手繰る。マッチをこする。理科の実験のアルコールランプ以来だ。しかし、火がつかない。二回、三回。
「上手くいかないなぁ」
手が震えている。
「平常心よ。ヘイジョウシン」
四回、五回。ようやく、ぼぅっと炎。縄につける。
縄には油を染み込ませていたのだろう。あっという間に火が走る。筒へと届く。そこから火の固まりが一筋、天井を超え、虚空へと向かう。
そしてパッと光ったかと思うと、オレンジ色の花を咲かせる。その一つ一つの花びらの突端から、鮮やかなレッド、ブルー、グリーン、イエローの色が時間差で、パッ、パッ、パッ、パッと広がる。空には光、鼻には火薬。
「きれい……」
女の子が顔を輝かせる。あぁ、いいなぁ、この子は思ったことを素直に言葉に出せて、と思う。何時からだろう。頭と口がこんなにもこんがらがって、上手く繋がらなくなったのは。
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