第9話 第二車両
扉の先は坂のように傾斜のついた車両だった。上り坂みたいに車両全体が傾いている。のぼれないことはないけれど、自転車だと押して歩かなきゃといった勾配だ。
「ねぇ。どうってことないでしょ? オネエチャン」
「慣れちゃったのかしら。うん、わたしもそう思う 」
確かに、透ける人が詰まっている、床が無い、に比べればどうってことない。
「じゃ、のぼろう!」
「うん」
並んでのぼりはじめて、気が付いた。 妙につるつるしている。
床が、じゃない。わたしの靴が、だ。多分ワックスのせいだろう。それに電車の振動が加わる。でも大丈夫、まだ大丈夫。
車両のちょうど真ん中に来たときだった。カーブに差し掛かったのか、車両が大きく右に傾いた。わたしは滑った。滑って倒れそうになった。すっ、と男の子の手が伸びる。わたしはそれを掴もうとした。
しかし、宙をきる。
いや、触ったはずだ。
透けた。透けたのだった。
そのまま始めの場所まで滑る。手から抜け落ちた円筒型の花火もくるくると転がってきた。
わたしは何とか男の子に話しかける。
「ねぇ、きみって」
それを打ち消すかのように
「なぁんだ。オネエチャンもか。全くとろいなぁ。いいよ。いいよ。這いつくばってでもいいから、ここまで来なよ 」
そうだ、先に進まなきゃ。
わたしはワックスまみれになった靴を脱ぎ捨てて、靴下姿になる。それでも滑る。とうとう裸足になる。
こうして車両をのぼり終えた。肩で息をしていると、男の子は扉を開けて待っていた。
「意外と根性あるじゃん」
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