第8話 第三車両

 ギ  イギ ギイ。

 耳を澄ます。

 ギイギイギイギイ。

 聞いたことのある音だ。


 わたしは扉を開けた。

 そこにはブランコに揺られている男の子がいた。

「遅かったねぇ 」

 双子というわけではなさそうだ。

「あの植物マニアは、もうとっくに先に行っちゃったよ。何やってたのさ」

「色々あったのよ。色々。落ちかけたり、花火もらったりとか。そっちこそどうしてここにいるの? ずっと前の車両でブランコをこぎ続けてたじゃない」

「回転さ。回転によってワープしたのさ」

「あのブランコで一回転したの?」

「そう、その通り。ユウゲンジッコウ。で、何があったんだ? くわしく聞きたいな」

 わたしは三車両間にあった出来事を話した。真っ黒穴、花火、ワックス。落ちる、貰う、滑る。


 男の子は黙って聞いていたが、 女の子がアミ草を出すのを、わたしが落ちるその瞬間まで待っていたことを話すと、 少しムッとしたようだった。

「酷いのよ。そんな便利な力があれば、先に使っておけばいいのよ。 きっとからかってるんだわ、失礼しちゃ」

「オネエチャン!」

 まくし立てるように

「何で植物の種から、あんなにも早く、草花へと成長するか分かる? あれは決して便利な力じゃないんだ。自分の生きる力を分けてあげて、花を咲かせてるんだ。文字通り命を削ってるんだよ。軽々しいものじゃあないんだ」

「ごっ、ごめん。そ、その、知らなくて」

 知らなかった、で通る問題ではない。テストだったらバッテンをつけられる。人だって心だってそうだろう。だけど、今のわたしにはそんな答えしか思いつかなかった。ぶっきらぼうに言ってるけど、この子なりに女の子を気遣ってるんだ。

 それから花火のことになると

「花火、見たいな。夏祭りに行って以来だ。ねぇ、冬の花火ってどんなもんなんだろうね。ここら辺は闇が濃いから、きっと映えると思うんだ 」

 あの時、言いかけた言葉が泳いだ。

「ねっ、ねえ、一緒に車掌室へ行かない? 作りたてのカレーもあるし、車掌さんなら花火を何とかしてくれるかもしれない」

 ギイ……ギイ……と男の子は迷いを見せた。

「そっ、それにわたし一人じゃ心細いし……」

 ゆっくりと

「何をしろって言うわけじゃないわ。一緒にいるだけでいいの。わたし、一人ぼっちには慣れてたつもりだったけど、やっぱり心細いわ」

 電車がゴトゴト揺れる。

「本当、言うと怖かったんだ。一回転したときさ、ブランコから振り落とされそうになって。なかなか楽しい遊びだと思ってたけど。もうくり返せない」

「うんうん、怖いよね」

 男の子はそのブランコから飛び降り

「よし、いっしょに行こう。 花火もカレーも、一人よりもみんなでやった方がずっといいから」

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