第4章 旦那様は超人戦士
1
「うふふ。どうやってかわいがってあげようかなあ」
麝香院が真子に迫る。
な、なに、こいつ。なにをしたいの?
魔子は本能的に危険を感じた。
そのとき、スマホの着信音が鳴り響く。
麝香院の動きが止まる。興味もそっちに移ったらしい。視線が泳いだ。
鳴ったのはジュベールのスマホ。麝香院はため息をつく。
「なによ。興がそがれたじゃない」
しばらくして、ジュベールはスマホを切る。
「なに。なにかあったの?」
「西郷からの報告だ。迷い込んできたのはただの不良じゃない。風太だ。どうやってか、ここをつきとめた」
「まさか?」
麝香院が信じられないといった顔をする。
あれに気づいてくれたんだ。
十中八九気づいてくれないだろうなと思いつつも、落としていった目印の柿の種。それを追ってここまで来てくれた。
そう思うと、ふたたび、魔子に力がよみがえってくる。
「しかも援軍が来るらしい」
援軍?
ジュベールがいった言葉だが、意味がわからなかった。
「警察が来るのか?」
暁が口をはさむ。
「いや、それなら、警察内部の仲間から連絡が入るだろう。巣豪杉家の私兵か、さもなきゃ、あいつのハッタリだ」
ハッタリ? いや、ちがう。今こいつがいったみたいに、家に連絡入れたんだ。お母様が衛兵を引き連れてくるに決まってる。
ジュベールがどこかに電話を入れた。
「ちょっとした戦争が起こるかもしれない。とりあえず、百名ほど用意してくれないか。すぐにだ。アジトまで頼む」
百名? こいつの仲間が来るってこと? ここに?
さらにジュベールはなにか、室内の機械を操作した。
「全トラップの安全装置を解除した。そのつもりでいろ」
ジュベールは暁と麝香院にいったようだ。
トラップ? なにそれ?
「麝香院、お嬢様と遊ぶのはあとだ。敵襲に備えるぞ」
「しょうがないわね。もっともあと一週間は帰れないんだから覚悟してね。ゆっくりかわいがってあげるから」
麝香院はにんまりと笑いながら意味深なことをいう。
「ねえ、トラップってどういうことっ?」
「ふふっ、王子様が心配? 映画なんかでよくあるでしょ? ゲリラなんかがジャングルに仕掛けるようなやつ。いきなり槍が飛びだしてきたり、落とし穴が掘ってあったり。そんなやつよ。くわしくは教えてあげない」
「それに引っかかったら死ぬの?」
「かもね。うふふ、楽しみ」
そんなのだめだ。なんとか……なんとかしなくっちゃ。
「心配しなくても、あなたの王子様は引っかからないわ。トラップはあとで来る援軍用。もっとも風太くんは西郷に殺されるかもしれないけどね」
「殺させないでっ!」
「あらっ、恋する男の命乞い? う~ん。どうしよっかな?」
「おい、いつまで遊んでんだ。準備しろ」
暁のいらついた声。
いつの間にか、暁は左手に盾、右手に斧を持っていた。ジュベールはフェンシングで使うような剣。先はしっかり尖っている。
「あらっ? あたしは常時獲物を装備してるけど?」
麝香院がスーツの裏から取りだしたのは、丸めた鞭。伸ばせば長さ二、三メートルはありそうな黒い鞭だった。
「泣かないで、子猫ちゃん。風太センセは殺さないでおいてあげるわ。あとで、あなたの前でいたぶれるようにね」
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