天気

9741

第1話

 俺のクラスメイトに、ソラという不思議な少女がいる。 

 見てくれは普通だけど、彼女はとても不思議な力を持っていた。 


 どんな力かと言うと……。


「あー、雨が降ってきた」

「えーマジー? どうしよ、傘持ってないよ……」

「私も。……そうだ、ソラさーん!」 


 女子2人がソラを呼ぶ。 

 ソラは無言でニッコリ笑いながら、彼女らに近づく。


「ソラ様! いつものやつ、お願いします!」

「ウッス、ソラ様! これお供えっす!」 


 まるで神様を拝むように頭を下げ、お供え物……といっても、ポッキー1箱を手渡す2人の女子。 

 ソラは渡された箱を開け、ポッキーをぱくり。


「美味しい……」

 

 チョコとプレッツェルの美味しさに、笑顔になるソラ。 


 その時だった。 

 空の雨がやみ、黒雲は消え、快晴になった。 


 これがソラの能力。彼女が笑顔になると、空が晴れるのだ。 


 単なる偶然だと言うやつもいるが、俺は特殊能力だと確信している。


「晴れた晴れた!」

「ソラ様ぁ、ありがたやー!」 


 この2人も俺と同じく、ソラの能力を信じきっているらしい。  






 ある時だった。 


 3週間以上、雨が止まない日々が続いた。

 それほど強い雨ではない。小雨くらいだが、ずっと降り続いている。 


 原因は分かっている。 

 ソラだ。

 ソラが笑顔になると晴れになるように、彼女が悲しむと雨になる。 


 俺は例の女子2人に話を聞いてみた。


「あー実はね」

「ソラちゃん、失恋したみたいでさ」 


 なるほど。俺は全てを察した。 

 ソラは失恋のショックで、天気を雨に変えてしまったのだ。 


 2人に、いつもみたいにお供えをしないのか、と聞いてみる。


「お菓子程度じゃ、失恋した女の子の笑顔を取り戻すなんて」

「不可能よ」 


 そりゃそうだ。 


 俺はふと、ソラがいる席に視線を向ける。 

 彼女は何事もなかったような顔をしながら本を読んでいる。 


 だが俺は知っている、彼女は顔では平常を保っているが、心では泣いているんだ。 


 なんとかして、ソラと天気を元に戻すことはできないだろうか、俺は考える。


「……よし」 


 そして俺はある案を思いついた。  






 放課後、俺はソラを屋上に呼び出した。


「何か用ですか、トウゴくん」


「聞いたぜ。お前、失恋したんだってな」


「……!」


「お前は、本当は思いっきり泣きたいはずだ。でもお前が大泣きすると、どしゃ降りになって皆に迷惑がかかってしまう。だから気持ちを押し殺している。でも、この小雨、やっぱり我慢ができなくて、こんな天気になってしまった。……違うか?」


「トウゴくん、お節介だってよく言われない?」


「まあ、それなりにな」


「言いたいことはそれだけ? 私、帰るよ」 


 屋上から去ろうとするソラ。


「ついでにもう1つお節介してやる。……誰にも迷惑かけずに、ストレスを発散する方法があるんだ。……試してみないか?」 


 俺はソラに手を差し出す。 

 彼女はおそるおそる、俺の手を握った。 


 その時だった。 

 俺とソラは屋上ではない、どこかの無人島にいた。 

 彼女は驚いて、辺りを見回す。


「驚いたか? 俺もお前と同じ、特殊能力を持った人間なんだよ。テレポーテーション、それが俺の能力だ。もっとも俺が能力者だってことは誰も知らないけどな」 


 前にソラの能力が本物だといった理由がこれだ、俺自身も超能力者だからソラの能力が本物だと確信したのだ。


「この島には誰もいない。ここならいくら泣いても、迷惑はかからない」


「トウゴくん……」


「俺がいると泣きにくいだろう。その辺を散歩してくる。1時間位したら、戻ってくるからな。それまでごゆっくり」 


 俺はその場を後にした。 

 それから1時間、島に局地的な大雨が降り続いた。  






 1時間後。 

 島は雲1つ無い、快晴となった。


「気は済んだか?」


「うん! おかげさまで」


「それじゃあ帰るぞ」 


 俺はソラの手を握る。 

 そして能力を発動、俺達は学校の屋上に戻った。


「ありがとうね、トウゴくん」


「お礼なんていい。それよりこのことは……」


「うん、内緒にするね」 


 そうしてくれるとありがたい。自分がテレポーターだなんて知られると、いろいろ面倒くさそうだからな。


「ねえ、トウゴくん」


「なんだ?」


「また私が泣きそうになったら、あの島に連れて行ってくれる?」


「……気が向いたらな」 


 俺とソラ、誰にも知らない秘密ができた。

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天気 9741 @9741_YS

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