三話 始まりの街の悪魔王
石畳の上を馬車が走る。
周りは露店で溢れている。
耳の尖った人や獣のような特徴を持った人、僕の腰ぐらいまでしか背丈のない小さな人や僕の倍近くありそうな大きな人。色々な人たちが行き交う。
「こうして見るとやっぱ僕って異世界に来たんだなーって思うよ」
「ふむ。街まで来たはええがこれからどうするんじゃ? 金は持っとるのか?」
「あっ」
金! 金の事とか何も考えてなかった! 金が無きゃ飯も食えないし泊まる場所も確保できないじゃん!! 完全に失念してたわ……。
「え、エリーちゃん……お金持って」
「無いぞ」
「ですよねー」
まあ森に住んでたぐらいだしそりゃ無いよね。ですよね、ですよね……。
「お金稼ぐのってどうすりゃいいの? 何かこう、職業斡旋所みたいなのってないの?」
「ふむ。ならギルドに行くとするかの。この辺は比較的平和じゃがそれでも周りに魔物や魔神族が全くおらんわけじゃないしの。仕事なんぞ腐る程あるじゃろ」
「んじゃそこに行こっか」
そんなわけでは僕とエリーはギルドへと向かった。
道中、すれ違う人たちに物凄く珍しいモノを見るような目で見られた。
黒髪がダメなの? 黒髪に黒目だからなの? この世界じゃそんなに珍しいの?
「着いたぞ。ここがギルドじゃ」
「おお」
僕が慣れない視線に困惑している間に着いた様だ。
目の前には石造りの大きな建物。多分、三階ぐらいまでありそうな高さだ。
「何をぬぼーっとしとるんじゃ。はよう入るぞ」
「う、うん」
エリーに手を引かれ、扉を潜るとそこには酒場の様な空間が広がっていた。
鎧に身を包んだ男や弓を背負った女、ローブを纏い杖を持った犬……犬?!
「犬が歩いてる……」
思わず呟いてしまった。
うーん、ファンタジー。
そして入り口で部屋中を見渡していると声を掛けられた。
「おやおや? 冒険者志望の方ですか?」
胸を強調した様なエプロン姿の女性が、僕らを覗き込む様にして立っていた。
うわめっちゃおっぱいでか……。
「そうじゃ」
「はーい! ではこちらにどうぞー!」
そういって案内されたのは窓口の様な所だった。
「申し遅れました! アタシはこのギルドの従業員兼酒場の店主兼看板娘のリサーナ=メリオリスと申します!」
色々兼ねすぎだろ。てか自分で看板娘って言っちゃあいかんでしょ。
というかおっぱいでか。机におっぱい乗っててヤバいんですけど。
「儂はエリー。此奴はアキト。二人ギルドに登録したいんじゃが」
「はーい! かしこまりましたー! ではでは、此方の紙の注意事項をよく読んで、同意して頂けたらサインをお願いしまーす!」
渡された紙を見る。
……えっ? えっ?
「ねえエリー。何て書いてんのこれ」
何と字が読めないというアクシデント発生。会話出来るのに字が読めないとかおかしいだろ。
神様の加護とやらは判定がガバガバだった。
「言葉は話せるのに字が読めんのか。まあ要するに、依頼の最中に死んだり、依頼中の怪我で後遺症が残ったりしても全て自己責任という事じゃ」
「ほーん」
この世界の今の状況——魔神王に支配されつつある——じゃあ、人が死ぬたびに責任取るなんてまあ無理だろうし当然か。
僕はサインする事にした。
したのだけれど……。
「字、書けないんだけど」
「あはははは! 字書けないんですか?! あはははははははは! まあこんなご時世ですし仕方ないですよー!」
「……」
フォロー入れる前に笑ってた意味を教えて欲しい。
こいつのあだ名は『ハイテンションおっぱい』にしよう。決めた。もう決めた。
「儂が代筆しよう。それでええか?」
「いいですよー!」
エリーに代筆してもらい、事なきを得た後色々とギルド内の施設の説明を受けた後、白い一枚のプレートを渡された。
「はい、此方があなた方のギルドカードとなります! 身分証明にも使えますよ! ただ再発行はお金が掛かりますので無くさない様に気を付けて下さいね!」
触って見るとタッチ機能が付いていた。薄いスマホみたいだな、これ。
「それでは、あなた方の冒険に幸運を!」
そういうと、ハイテンションおっぱいは酒場の方へと駆けていった。
酒場の店主もやってるんだっけか。忙しいそうだな……
「彼奴が気になるのか?」
「いや、忙しそうだなーと思ってさ」
「忙しいそう、か。ふん」
ちょっと機嫌の悪そうなエリー。
もしかして僕がおっぱい凝視してたのに気付いて……?
「あ、そういえばエリーはその見た目でよく登録できたよね。完全に幼女じゃん」
「幼女……っ?! ま、まあ彼奴は儂の正体に気付いておったしの。…………よ、幼女……か」
「あれ、幼女って禁句だった? 凄くショック受けてるみたいだけど……ってそうじゃなくて! バレてたの!? 何で??」
「……彼奴は悪魔じゃ。儂らの説明をしとったのは分身じゃがの」
「えっ」
幼女ショックから立ち直りつつあるエリーがとんでもないことを言った。
悪魔ってこんな普通に街中にいるもんなのか? それがこの世界の普通なのか??
「しかも位は相当高いぞ。おそらく悪魔王の一角じゃな」
「何でそんなのがこんな所にいるんだよ」
「奴は雑魚からこの街を守っとるんじゃろ。何せ悪魔どもは人間の『キョウキ』を食らうからの。死なれては困るし守っとるんじゃろ」
「き、狂気??!」
「ちがわい。驚く気と書いて『驚気』じゃ。奴らは人間が驚いた時に発するエネルギーを食らい生きとる。故に人に馴染み生きとる。しかしこんな所で悪魔王と会うとは思うとらんかったがの。かっかっか」
まあエリーが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけど……まさかあのハイテンションおっぱいが悪魔とはなあ……。
「悪魔ってもっと禍々しいと思ってたのになあ……って思ってるでしょ!!」
「ひょっ??!」
いつの間にか、後ろにハイテンションおっぱいが立っていた。
突然後ろから声を掛けられたせいで変な声が出た。
というかさらっと心読まれてた気がするんですが気のせいでありたい。
「あはははは! いいねいいね、今のは三びっくりはあったね! ごちそうさま!」
「何だよ三びっくりって……というか何しに来たんだよ」
「まあ大方釘を刺しに来たんじゃろ」
「そーゆーこと! アタシの正体は広めないでね? もし広めたら一生付き纏って二分に五回は脅かすからね! そんだけ! じゃあねー!」
「地味な嫌がらせだな、おい!」
それだけ言うとハイテンションおっぱいは酒場の方へと走って行った。
「あ、そうそう!」
「んふぅ?!」
何故かまた後ろにハイテンションおっぱいが立っていた。
ふざけんなよお前今酒場の方に走っていたまたじゃねーか!
「ハイテンションおっぱいってあだ名はやめてね! そんだけ! じゃあねー!」
心読まれてた。
………………も、もう後ろに出てこないよな? もう大丈夫だよな?
「おいアキトよ」
「んはぁ!」
振り返るとそこにエリー。
「そろそろ依頼を受けんか?」
「そ、そうだね」
心なしかエリーの声が震えていた気がした。
こいつ、わざと後ろから声を掛けやがったな……っ!!
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