二話 森を抜けて
「なるほどのう。つまりお主はここではない、他の世界より来たというわけじゃな?」
「そうなんだよね」
道中この世界について色々聞いた。
魔神王は、魔神族の王で彼等もまた異界の住人らしい。豊潤な魔力を求めて異界よりやって来たらしい。
そしてどうやらこの世界には十三の大陸があるらしく、その大陸一つにつき一柱の魔神王いるんだそうな。
十三大陸あるとか地球の倍以上で結構ビビった。この世界は思っていた以上に大きく広いらしい。
あと魔法も存在しているそうだ。火水土風の四大元素と呼ばれる四属性に、身体能力の増強や瞬間移動といった無属性がある。
ただ、皆が皆、魔法を使えるというわけではないと言われた。
そして一通り聞いた後、僕についての話になったわけだ。
「ふむ……しかしその『もち』とやらは恐ろしいのう。毎年何人もの人間を葬っておきながら食べる事を止めれんとは……人の業はどの世界でも深いもんじゃのう」
僕の死因を話したところ、エリーは餅に興味を持ったようだ。
もち米に似たようなものがあるなら作ってあげたいな。僕は食べないけど。
「というか凄く気になってたんだけどエリーって何歳なの?」
言葉遣いが完全にババアなんですが。
「れでぃに歳を聞くとはでりかしぃのない奴じゃな。……まあ、二千を超えてからは数えるのを止めたから正確にはわからんがおおよそ七千歳じゃな」
「うっわ……七千年も生きてて暇じゃないの? 僕なら発狂する自信あるんだけど」
「はは、じゃろうな。まあ何事も慣れじゃよ」
そう言ったエリーの目はどこか寂しそうだった。
「僕なら自殺するわ」
「かっかっか。軟弱な男じゃな。弱っちい奴は
「よ、余計なお世話だよ」
道中の雑談はかなり盛り上がり、気がつくと森を抜けて平原を歩いていた。
エリーは足を止め、繋いでいた手を離して正面を指差した。
「ここを真っ直ぐに行けば日が落ちる前には街に着くはずじゃ。ここらには強い魔物もおらんし魔神族も出ん」
「ここでお別れ? ちょっと寂しいなあ……ねえ、一緒に行かない?」
てっきり街まで一緒に行くと思っていたので思わず本音が出てしまった。
「かっかっか。本来は忌むべき存在の吸血鬼にそんな事を言う人間は世界広しと言えど、もうお主だけじゃろうな」
そう言うエリーの表情は、また寂しそうだった。
「儂はヴァンパイア。吸血鬼じゃ。人間とは相容れぬ存在。一緒には行けんよ」
「でもさっきまでの雑談、凄く楽しかったよ?」
「じゃがな、儂は吸血鬼なんじゃよ。血を飲まねば生きてはいけん。じゃから……」
「血なら僕がいくらでもあげる。僕はこの世界の事全然知らないし、吸血鬼だってエリーとしか会ってないから僕の中では吸血鬼はいい奴だよ。それに何よりまだまだエリーと話したいんだ。だから行こうよ」
我ながらなんとも臭いセリフである。
言ってから恥ずかしさがこみ上げて来て顔が紅くなっていくのが自分でもわかる。
顔があっつい。
「……ありがとう。そんな言葉を掛けてくれたのはお主が二人目じゃ。アキト、儂から言わせてくれ」
今にも泣き出しそうな顔のエリーが言った。
「儂もお主の旅に連れて行ってくれんか」
「もちろん!」
差し伸べた僕の手を、エリーが掴む。もう一度、手を繋いで歩き出す。
「そう言えば僕って魔法使えるの?」
「才能次第じゃな。アキトに才能があるなら教えてやっても構わんぞ?」
「才能かぁ……ってなになに、その口ぶりだとエリーは使えるの?」
「当たり前じゃろ。儂は吸血鬼じゃぞ?」
「えぇ、吸血鬼関係あるの?」
「いや、無いんじゃけどな」
「無いのかよ!」
今度こそ僕らは街へと歩き出した。
「かっかっか。吸血鬼じょーくじゃ」
「それこそ吸血鬼関係ないよね?!」
「かっかっか!」
————こうして吸血鬼との旅が始まる。
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