一章 魔神王ベリアル

一話 子捨ての森の吸血鬼

「なんじゃおぬし。突然湧いて出おって。ほもか?」

「初対面でホモ扱いは酷いし、ホモは突然湧いたりしないとおもうんですが」


 異世界に降り立った僕の目の前には辺り一面に木々と、淡い赤髪の幼女が立っていた。

 というか異世界のホモは一体どういう扱いなのかすごく気になるんですが。


「じゃあ何者じゃ」

「うーん…櫻井祥人です。呪いを受けた一般人かな?」


 呪言受けたしなぁ……能力自体は多分強いけど呪いって言ってたし。


「サクライアキト? 珍妙な名をしとるのぅ」

「えぇ……。じゃあ君はなんて名前なのさ?」

「儂か? 儂は…………儂はエリー。ヴァンパイア。まあ吸血鬼じゃ」


 マジかよ。吸血鬼って日中活動出来るのかよ。無敵かよ。


 ってか吸血鬼ってもしかして敵? 死ぬの? 僕はここで死ぬの? 異世界に来て一分もしないうちに終わるの?

 あ、大丈夫だわ。コンティニューできるんだったわ。じゃあ死んでいいや。いや、やっぱ死にたくないですやめてください。


「しかしお主は名前だけでなく見てくれもまた珍妙よのぅ。黒い髪に黒い瞳、呪いを受けたと言っておったの。……お主、もしや迫害でもされたのか?」

「違います」


 殺されるかと思ったけどなんか話通じるしちょっと友好的だし大丈夫そうだわ。心配して損した。


「ふむ、違うのか。しかし久々に会話した故か少し喉が渇いたのう……」

「えっ」


 もしかして吸血ですか? 僕は血を吸い殺されるんですか? って事はやっぱここで死ぬんですか? だとしたら心配して損して損したんですけど!


 混乱している僕をよそに、エリーと名乗る吸血鬼は僕の方へと歩み寄ってくる。


 いや待て。確かにこの幼女は吸血鬼だと名乗ったが嘘かもしれない。そう、日中に活動しているし嘘かもしれない。そうだ。そうに違いない。お茶目なヤツめ。初対面で嘘をつくとかお茶目なヤツめ。


「ちょっとばかし血を分けてはくれんかの?」

「ひぇえぇ……本物なんですかぁ……?」

「本物じゃと言っておろうに。ほれ」


 そういってエリーは口を開けた。


「うわ、マジかよ」


 口には吸血鬼特有の牙が生えていた。あの牙で噛みつくんですかね。痛そう。


 ……口を開けてる姿がちょっと可愛かったのは内緒。


「その牙でガブッといくの?」

「いや、儂は吸血はせん。ちょっと指先を……こう!」

「痛ぁ!」


 突然人差し指の先端を何かで切りつけられた。指先なのでそこそこ出血する。


「ちょいと失礼」


 エリーは血の出た僕の指先をぺろりと舐めた。


 ……何だかいけない事をしている気分になってきたんですがどうすればいいのでしょうか。絵面もヤバイ。幼女に指を舐めさせる男の図。元の世界なら事案ですよこれは……。


「ごちそうさまでした。ほれ、指先の傷も治しておいたぞ。あふたーさーびすもバッチリじゃろ?」

「おぉふ……」

「そういえばお主はここで何をしておったんじゃ? ここは通称『子捨ての森』といってな、親が子を捨てたり迫害された者たちが来るような場所なんじゃ」

「マジか」


 何かそれを聞いちゃうと神様に捨てられた気分なんですけど。そんな場所に転送するとか嫌がらせか何かかよ。アルカイドさん酷すぎない?


「まあ血を貰った恩もあるし、どれ、何か力になれる事があるなら言ってみい」

「うーん。じゃあ近くの街まで案内してよ」

「なんじゃあ、そんなんで構わんのか?」

「うん。道中色々聞きたい事とかあるし」


 この世界の地理とか常識とか常識とか……。


「ふむ。じゃあ早速いくかの。こっちじゃ」


 そう言ってエリーは僕の手を取って歩き出した。


「儂の事はエリーちゃんと呼んでもよいぞ」

「よろしく頼むよエリー。僕は祥人とでも呼んでくれればいいよ」


 こうして僕は吸血鬼と手を繋ぎながら街を目指す。


 繋いだエリーの手は、とても——とても冷たかった。

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