037 王都での面接

 王都に到着した翌日。午後から二次試験がはじまった。

 私たち受験生は案内係に連れられて宿泊施設を出ると、試験会場となる『競売人オークショニア養成学校』の校舎こうしゃへと移動した。


 二次試験の初日は面接のみであった。

 戦闘試験がない分、少しは気楽である――と私個人は思っていたのだけど……。


「いやー。オギュっちくん、面接怖いよね……。明日の戦闘試験の方が、まだ気楽だと思わない?」


 面接の待ち時間中に、テオさんが小声でそう言った。

 彼は苦笑いを浮かべていた。


「テオさんは、戦闘試験よりも、面接の方が怖いんですか?」

「うん。俺は面接の方が怖いよ。だってさあ、俺なんか面接官から絶対に『んっ? あれ? 25歳? キミは他の受験生よりも年齢が高いね? これまで何やって生活していたの?』とか、じっくり質問されると思うぜ?」

「ああ……なるほど。そうかもしれませんね」


 養成学校の教室のひとつが、受験生の待機場所となっていた。

 教室に机はなくて、椅子がずらりと並んでいた。

 私の左隣の椅子にはテオさんが座っており、右隣の椅子にはロメーヌが座っていた。

 私たち三人を含め、受験生は教室内に16人。そこから一人ずつ順番に呼ばれて、受験生は教室から面接場所へと連れていかれた。

 他に受験生はもう1グループあると聞かされていた。二次試験まで進んだ受験生は全部で32人だと発表されていたのだ。


「周りの受験生たち、どう見てもみんな10代の子たちばかりだよなあ。25歳くらいの受験生なんて、やっぱり俺だけだよ」


 テオさんは、周囲を見渡してから小声で話を続けた。

 どう反応していいのかわからず、私が黙ったまま小さくうなずくと、テオさんは一人でしゃべり続けた。


「オギュっちくん。俺、面接でこう質問されるかな? 『テオドールくん。キミは25歳という年齢で、オークショニアを目指すわけですが、周囲からはスタートが遅いと思われることでしょう。入学した後も年齢的にクラスメイトたちの中で少し浮いた存在となるかもしれません。ひとまわりほど年齢が下のクラスメイトたちと、いっしょに授業を受けることになりますから。それでもキミがオークショニアを目指す動機を教えてくれませんか?』なんて質問をさあ」


 確かに志望動機に関しては、面接で質問されることが予想された。

 私なら、『父親がオークショニア』で、子どもの頃からずっとオークショニアという職業にあこがれていたとか――まあ、そんな感じで答えればいいだろうと考えていた。

 テオさんが、それまでよりもさらに声を小さくして、ささやくように言った。


「でもさあ、オギュっちくん。『初対面の人間相手に正直に打ち明けることが難しい動機』だって、世の中にはあるだろ? 面接官に嘘をつくのも嫌だし……うーん。俺はうまいこと言って誤魔化ごまかすしかないよな……。嫌だなあ、面接。怖いなあ、面接……」


 どうやらテオさんは、面接官に正直に打ち明けることができないような動機で、オークショニアを目指しているようだった。

 それについて私は、質問しなかった。


「オギュっちくん。俺はやっぱり、対戦相手に向かってハンマーを振り回している方が、面接より絶対に気楽だな。うんうん」


 テオさんがそう言ってうなずくと、今度はロメーヌが口を開いた。


「オギュっち先輩……わ、わたしは面接も戦闘試験も、どちらもすごく怖いんですけど……」


 宿泊施設で、私とロメーヌはほとんど会うことができなかった。宿泊するフロアが男女で分けられているからだ。

 私と会えない間、ロメーヌは『しゃべる木槌』と会話しながら宿泊施設で過ごしていたらしかった。


 ロメーヌが私に向かって話しはじめると、テオさんの方はニコニコしながらピタリと口を閉じた。彼は私たち二人に気をつかったのだろう。

 テオさんとロメーヌが二人で直接しゃべることは、それまで一度もなかった。

 そして彼が、私とロメーヌの会話に参加してくることもほとんどなかった。




 やがて、面接が終わった。

 私は、ロメーヌやテオさんよりも先に面接に呼ばれた。

 案内された個室には面接官が三人いて、一人対三人であれこれと話した。


 面接を終えた受験生は、先ほどとは別の教室に集められた。16人分の面接が終わるまで、解散とはならなかった。

 指定された椅子に座ってロメーヌやテオさんの面接が終わるのを待っていると、他の受験生たちの会話が聞こえてきた。


「なあ、知っているか? 噂によると、今日の面接を参考にして、明日の戦闘試験で戦う組み合わせが決まるらしいぜ」

「ああ。あと、一次試験を受けた会場なんかも参考にされるみたいだ」

「へえ」

「同じ試験会場で合格した者同士が、明日の戦闘試験で対戦相手とならないよう可能な限り配慮されるって噂を聞いたことがあるんだ」


 一次試験の会場が同じ人とは、明日の戦闘試験では対戦しないという話だった。

 それはありがたい。もしその噂が本当なら、明日の戦闘試験でロメーヌやテオさんと戦うことはなさそうである。

 しばらくすると、面接を終えたテオさんが顔を真っ青にしながらやってきた。


「お、オギュっちくん……面接で俺は、とりあえず嘘はひとつもつかなかったよ……。ただ、なんで俺は25歳なんだろうね……。今日一日だけでも15歳に戻れたらよかったのに……」


 そう言うとテオさんは、椅子に座って黙ってしまった。

 さらにしばらくすると、今度はロメーヌがやはり顔を真っ青にしながらやってきた。


「オギュっち先輩……。め、面接だけで不合格になることってあるんですかね……? ありませんよね?」

「えっ……?」

「あ、明日の戦闘試験で、今日の面接の失敗は取り戻せますか?」


 テオさんに続いてロメーヌも、面接がうまくいかなったようだ。

 私はあまり質問はせず、なんとなく二人を励ましながら過ごした。


 やがて16人分の面接が終わって解散となると、私たち三人は教室を出た。

 廊下では、私たちのことを待っている女性がいた。杖をついた例の教師だった。

 彼女は前の日とは異なるパンツスーツを着ていた。あいかわらず、胸がとても大きかった。

 ケガをした小鳥の件で話があるのだろう――と、私はすぐにわかった。


「あのケガをした鳥について、報告しておこうと思ってな」


 ボリュームのある金色の髪をふわりと揺らしながら、彼女はテオさんにそう言った。

 鳥は彼女の妹が世話をしているらしく、特に変化はないとのことだ。


「明日の戦闘試験が終わった後、また報告する」

「わざわざありがとうございます」


 テオさんがそう言ってニコリと笑った。


「気にするな。鳥のことは私や妹に任せて、キミたちは試験に集中するといい」


 そう言いながら女性の教師は、軽く手をあげて去っていった。

 鳥のことを伝えるために、わざわざ彼女は会いに来てくれたのである。

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